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ジャン=ルイ・ド・ランビュール『作家の仕事部屋』

フランス人のジャーナリストが、文筆を生業としている25人の巨匠へ「あなたは仕事の方法をおもちですか。あるとすればどんな方法ですか」と投げかけたインタビューを収録した本。1978年の刊行ですが、その顔ぶれが圧巻です。

私が作品を読んだことのある作家に限っても、ロラン・バルト、ミシェル・ビュトール、ジュリアン・グラック、ル・クレジオ、ミシェル・レリス、レヴィ=ストロース、ピエールド・マンディアルグ、フランソワーズ・サガン、フィリップ・ソレルス、ミシェル・トゥルニエと目の眩むような名前が連なっています。現代思想、文化人類学、ヌーヴォー・ロマン、シュールレアリスムとジャンルも多彩で、当時のフランス文化の質の高さが伝わってきます。

そんな彼らはどのような執筆スタイルを持っているのか、良い作品を生み出す奥義が語られるのか、興味津々ですが、これが見事にバラバラなのです。
いくつか例をあげてみます。

〈執筆場所〉

⚫︎ロラン・バルト:仕事の空間の「場」を構造的に再現できればパリでも田舎でも書ける。

⚫︎マンディアルグ:パリとヴェネツィアだけでしか筆が進まない。

⚫︎ジャック・ローラン:リマでは全然書けない。ハイチでは少し調子があがり、東京では最大の能率を上げることができた。

⚫︎アンドレ・ドーテル:テーブルに向かってものを書いたことは一度もない。結局仕事場として選んだのはベッド。

〈仕事の進め方〉

⚫︎レヴィ=ストロース:最初は全体の草稿を書く。その時は決して中断しないこと。同じことを繰り返したり、何の意味もない文章が混じっていてもとにかく最後まで書く。

⚫︎マルセル・ジュアンドー:決してプランは立てない。日々書いている覚え書を仕分けして手を入れるうちにいつのまにか一冊書き上げている。

⚫︎ギ・デ・カール:自分が何を狙っているか、自分の書物の重さや釣り合いがどんなものかを正確に把握しない限り、決して書き出さない。

⚫︎フランソワーズ・サガン:アイディアが浮かんだ時には、本能的に毎日ほぼ同じ時間に執筆する。

他にも執筆時間や題材についてなど、さまざまな切り口が考えられますが、それは本書を手に取って自由に考えた方が楽しいでしょう。刊行から50年弱の時が経ち、当時とは執筆の環境も大きく変化していますが、「書く」という営みに万人共通の方法はなく、自分にあった方法を見つけ出すしかないという本書の教えは変わりなく、だからこそ書くことは苦しくても愉しみに満ちていることを、今なお雄弁に物語っているのです。

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