ゆこたか雑記帖

本と音楽と将棋を愛好しています。 本の感想を主としていますが、そのうち音楽や将棋などに…

ゆこたか雑記帖

本と音楽と将棋を愛好しています。 本の感想を主としていますが、そのうち音楽や将棋などについても書くかもしれません。

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わたしの100冊

石川淳「狂風記」 吉田健一「金沢」 北杜夫「楡家の人びと」 夏目漱石「吾輩は猫である」 谷崎潤一郎「春琴抄」 倉橋由美子「よもつひらさか往還」 山尾悠子「ラピスラズリ」 中井英夫「虚無への供物」   澁澤龍彦「思考の紋章学」 種村季弘「詐欺師の楽園」 金井美恵子「噂の娘」 森茉莉「甘い蜜の部屋」 石井桃子「幻の朱い実」 武田百合子「富士日記」 大江健三郎「懐かしい年への手紙」 大岡昇平「レイテ戦記」 石光真清「石光真清の手記」 呉茂一「ギリシア神話」 松岡正剛「フラジャイル」

    • 栗原康『超人ナイチンゲール』

      〈一九世紀のイギリスに「超人」があらわれた。はりつけ、上等。このひとを見よ。えらいこっちゃ。わたしが世界を救うんだ。自分の将来をかなぐり捨てて、看護のいまを生きていく。ケアの炎をまき散らす。その火の粉を浴びて、あなたもわたしも続々と「超人」に生まれ変わっていく。 みんなナイチンゲールだよ。いくぜ。〉(「はじめに」より) アナーキズムの研究家として知られる栗原康によるナイチンゲールの評伝。 國分功一郎による『中動態の世界』や東畑開人の名著『居るのはつらいよ』等、幅広い視点から

      • 松岡正剛『外は、良寛』

        松岡正剛さんが亡くなりました。享年80。残念です。 松岡正剛…しばらく「セイゴオさん」と語らせてください。 セイゴオさんの代表的な仕事といえば、雑誌『遊』や千夜千冊。大著『情報の歴史』などがあげられるでしょうが、訃報に接して私が思い浮かべたのは、月づくしの『ルナティックス』や弱さをテーマにした『フラジャイル』、そして本書『外は、良寛』でした。“知の巨人”などという、あまり意味のない呼ばれ方をされたこともあるセイゴオさんでしたが、これらの本からは、そうしたイメージしてからは程

        • ヨシタケシンスケ『おしごとそうだんセンター』

          年に2〜3冊のハイペースで新作を発表し続けているヨシタケシンスケさんの今年(2024年)最初の1冊。 今回のテーマはタイトル通り、仕事について考えること。宇宙船が壊れてしまい、地球に落ちてきてしまった宇宙人が、とりあえず仕事を見つけて生活するために「おしごとそうだんセンター」を訪れ、そこで様々な珍しい仕事を紹介してもらうという枠組みをとっています。 相談員のお姉さんと宇宙人の会話を通して、仕事とはなにか、向いている仕事とはどういうものなのかなどが語られ、ひいては社会や「大

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        • 小説あれこれ
          35本
        • 絵本あれこれ
          13本
        • こころあれこれ
          12本

        記事

          千葉聡『ダーウィンの呪い』

          進化という考え方は現在ではすっかり一般常識となっているように思われます。しかし生物学として議論と検証を重ねて確立した進化についての概念は必ずしも社会的な通念としての「進化」と一致するわけではありません。進化学が人類の生活の向上に大いに資するところもある反面、社会的な通念としての「進化」は、人類にとって負の側面ももたらしています。本書はそうした負の側面を「呪い」として、その所以を解き明かし、人類のあるべき未来について考察する、スケールの大きな一冊です。 本書では次に述べる3つ

          千葉聡『ダーウィンの呪い』

          エーリッヒ・ケストナー『点子ちゃんとアントン』

          『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』、『ピクミン』など数々の名作の生みの親である、ゲームプロデューサー・宮本茂さんはかつて「子供をバカにしてはいけない。子供をバカにしているものを見ると腹が立つ。子供はものを知らないだけで知性はある。」と語りました。ケストナーの作品を読む度にこの言葉を思い出します。『飛ぶ教室』しかり、『エーミールと探偵たち』しかり。そしてもちろん本作も例外ではありません。ケストナーはどんなときも子供の知性を信頼し、対等な立場の友人として読者に語りかけ

          エーリッヒ・ケストナー『点子ちゃんとアントン』

          「君は天然色」の歌詞について思ったこと

          「君は天然色」を歌詞を読みながら聴き直していて、改めて松本隆さんの詞の運びの巧みさに舌を巻いている。この歌詞の誕生にまつわる妹さんとのエピソードは既に多くの人に知られているので、ここでは触れない。今回書きたいのはサビの「想い出はモノクローム…」に至るまでの歌詞の流れのこと。 このサビは3回歌われるのだけど、まず最初の登場部分では直前に「机の端のポラロイド写真に話しかけてたら」と歌われている。ポラロイド写真は普通の写真より色落ちしやすい。ここでのポラロイド写真もおそらく撮影さ

          「君は天然色」の歌詞について思ったこと

          瀬川昌久『ジャズで踊って 舶来音楽芸能史 完全版』

          便乗商法、というとあまり良いイメージがありませんが、こうした便乗商法なら大歓迎。NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』の放送にあやかって、戦前の日本のポップスの歩みを活写した名著が、新原稿を加えて「完全版」として文庫化されたのですから。 著者の瀬川昌久は1924年生まれ。富士銀行に勤務しながら、戦前のジャズの紹介を積極的に行った人物です。また、1950年代に渡米した際には、カーネギーホールでチャーリー・パーカーやビリー・ホリディの実演に接したこともあるという、まさに“ジャズの

          瀬川昌久『ジャズで踊って 舶来音楽芸能史 完全版』

          日影丈吉『ミステリー食事学』

          そのペンネームに相応しく、というべきか、日本のミステリ史を彩る華やかな作家たちの影に隠れて、『かむなぎうた』や『内部の真実』(傑作!)等、独自の味わいのある作品を多く世に残した日影丈吉。彼には作家としての顔の他に、料理研究家としての一面もありました。なにしろ戦前戦後を通して、若い料理人にフランス語やフランス料理の講義をしていたというのですから生半可なものではありません。本書はそんな日影丈吉の特色がいかんなく発揮された一冊となっています。 毒殺や「凶器としての食品」から話は始

          日影丈吉『ミステリー食事学』

          2024年上半期の18冊

          今回はテーマ別に分けてみました。 【こころを見つめる】 ・中沢新一『精神の考古学』 ・池谷裕二『夢を叶えるために脳はある』 ・斎藤環『「自傷的自己愛」の精神分析』 【物語にひたる】 ・松浦寿輝『名誉と恍惚』 ・ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』 ・山尾悠子『初夏ものがたり』 【音楽を読む】 ・宗像明将『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』 ・KAWADEムック『高橋幸宏 音楽粋人の全貌』 ・佐々木敦『「教授」と呼ばれた男: 坂本龍一とその時代』 【学んで

          2024年上半期の18冊

          松浦寿輝『名誉と恍惚』

          久しぶりに重量感のある読み応えの小説に出会いました。 主人公やその周辺の行動・心情にとどまらず、登場人物を取り巻く時代にも正面から挑んだ大作で、 読みながら、今はほとんど使う人がいなくなった「全体小説」という言葉が幾度も思い浮かびました。 舞台となるのは第二次世界大戦の足音が迫っている魔都、上海。 東京警視庁から共同租界を管理する工部局の警察部に派遣されている、主人公の芹沢が ある時日本陸軍諜報機関の嘉山少佐に、上海の青幇(チンパン)の頭目・蕭炎彬(ショーイーピン)に 会わ

          松浦寿輝『名誉と恍惚』

          藤村シシン『秘密の古代ギリシャ、あるいは古代魔術史』

          作者の藤村シシンさんは、高校3年生の時に出会ったアニメ『聖闘士星矢』をきっかけにギリシャ神話に興味をもち、そこから古代ギリシャ史の研究家として、幅広く活躍されています。 本書はデビュー作『古代ギリシャのリアル』に続く著作で、魔術をテーマに古代ギリシャの裏面史を掘り下げる内容となっています。 古代ギリシャといえば、ソクラテス、プラトン、アリストテレスに代表される西洋哲学の礎となった土地であり、アテーナイでは民主主義による政治が行われるなど、合理的で明晰な思考が浸透していたとい

          藤村シシン『秘密の古代ギリシャ、あるいは古代魔術史』

          ジャン=ルイ・ド・ランビュール『作家の仕事部屋』

          フランス人のジャーナリストが、文筆を生業としている25人の巨匠へ「あなたは仕事の方法をおもちですか。あるとすればどんな方法ですか」と投げかけたインタビューを収録した本。1978年の刊行ですが、その顔ぶれが圧巻です。 私が作品を読んだことのある作家に限っても、ロラン・バルト、ミシェル・ビュトール、ジュリアン・グラック、ル・クレジオ、ミシェル・レリス、レヴィ=ストロース、ピエールド・マンディアルグ、フランソワーズ・サガン、フィリップ・ソレルス、ミシェル・トゥルニエと目の眩むよう

          ジャン=ルイ・ド・ランビュール『作家の仕事部屋』

          越前敏弥『いっしょに翻訳してみない?』

          『ダ・ヴィンチ・コード』や角川文庫からのエラリー・クイーンの諸作品の新訳などで知られる翻訳家の越前敏弥さんが、2023年の夏に行った特別授業をまとめた一冊。オー・ヘンリーの短編『二十年後』を題材に、5人の中学生が翻訳に挑むという内容です。 「英文解釈」ではなく、「翻訳」なのがミソで、表面的な意味をとることにとどまらず、翻訳作業を通して、生徒たちが作品の表現のニュアンスや作者のしかけを読み取っていく力をメキメキとつけてくるのが伝わってくるのが本書の何よりの魅力です。まさに副題

          越前敏弥『いっしょに翻訳してみない?』

          清少納言作/佐々木和歌子訳『枕草子』

          紫式部を主人公とした大河ドラマ『光る君へ』の影響で、源氏物語関連の書籍を集めたコーナーを設けている書店が増えています。 うれしいのは、源氏関連だけではなく、その他の古典文学関連の出版も活発になってきていること。『枕草子』もそのひとつで、今年に入ってから、角川ソフィア文庫、河出文庫、光文社古典新訳文庫からと立て続けに文庫版が発売されました。 ソフィア文庫版は原文と注釈、そして現代語訳を収録していて、本格的に読み込みたい方にお勧めです。 河出文庫版と光文社古典新訳文庫版はどち

          清少納言作/佐々木和歌子訳『枕草子』

          エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』

          ここでいう「翻訳できない」とは、他の国の言葉では、そのニュアンスをうまく表現できないことを意味します。 聖書によれば、天まで届かんとするバベルの塔を人間が建設し始めたことを見た神が、このような不遜なことを始めたのは人々が同じ言葉を話しているからだと考え、人々を散り散りにして、それぞれが通じない違う言葉を話すようにしたそうですが、ともあれ世界には多様な言語があり、その言語の言葉でしか表現できない多彩な意味の世界が拡がっています。 著者のエラ・フランシス・サンダースは本書の執

          エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』