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清少納言作/佐々木和歌子訳『枕草子』

紫式部を主人公とした大河ドラマ『光る君へ』の影響で、源氏物語関連の書籍を集めたコーナーを設けている書店が増えています。

うれしいのは、源氏関連だけではなく、その他の古典文学関連の出版も活発になってきていること。『枕草子』もそのひとつで、今年に入ってから、角川ソフィア文庫、河出文庫、光文社古典新訳文庫からと立て続けに文庫版が発売されました。

ソフィア文庫版は原文と注釈、そして現代語訳を収録していて、本格的に読み込みたい方にお勧めです。
河出文庫版と光文社古典新訳文庫版はどちらも現代語訳のみで、比較的端正な訳文なのが河出文庫版、そしてくだけた感じなのが光文社版といったところ。どちらを選ぶかはお好み次第なのですが、私には光文社版が肌に合うように感じました。

『枕草子』の現代語訳としては、橋本治さんによる桃尻語訳が話題になったのを覚えている方も多いでしょう。古典イコール堅苦しい、古めかしいというイメージを打ち破った画期的な仕事と思いますが、いかんせん40年近く前の訳文とあって、今読み返すとかなり時代を感じさせるのは否めません。

光文社版の現代語訳を手がけた佐々木和歌子さんは、橋本治の精神を受け継ぎながらも、今の時代に読んでも違和感の無い訳文を試みているように感じられました。彼女の訳文からは、好みがハッキリしていて、機転がきき、プライドが高いけれど、高慢ではなく、話していて楽しそうな女性としての清少納言が浮かび上がってくるのです。これが『光る君へ』で清少納言を演じているファーストサマーウィカさんの印象といい具合に重なるのですね。

『枕草子』の持つ明るさ、ユーモアはかつての深刻好きな国文学界では評価が低い時代もあったと聞きますが、だだの自分自慢の文学では無いことは、広く知られてきているでしょう。清少納言が仕えた定子は知性と美しさを併せ持つ女性でしたが、藤原道長と伊周の政争で伊周が敗れた結果、悲惨な最後を迎えてしまいます。けれど、定子を中心としたサロンは短い期間ながらも快活で、知的な空間でした。その空気を清少納言は言葉のなかに封じ込め、現代に至るまで読み継がれる生命を与えることに成功したのです。

時代の枠を大きく踏み越える生き方はしてなくても、その観察眼によって描かれたものは現代に生きる私たちにも生き生きと伝わってくるという点で、清少納言はジェーン・オースティンと共通するところがあると私は彼女たちの作品を読み返す度に思うのです。

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