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小説家のエッセイから見えてくるもの


はじめに

先日、私が運営しているInstagramのアカウントでこんな投稿をしました。

昔から、エッセイストさんが書いたエッセイより小説家さんが書いたエッセイが好きで、よく読んでいました。

理由は、物語の創作の裏側や物語の創り手の素顔を知ることで、作品世界をもっと理解できるようになる気がするから。

「クリエイターは作品で語るべき、それ以外の場所で自分の作品を解説するのは野暮だ」みたいな意見もよく目にするし、作品のみで語るのがかっこいいというのもすごくよく分かるのですが、私個人としては「どんどん裏側を公開してください」って思ってる笑

もともと朝井リョウさん、小川糸さんのエッセイなんかを好んで読んでいたのですが、最近読んだ角田光代さん、小川洋子さん、柚木麻子さんのエッセイがどれも素晴らしくて。

作品にお人柄がすごく反映されているな〜って方もいれば、作品とのギャップすごいな!って方もいたり。物語執筆のアプローチも、それぞれかなり異なるんだなと実感したりする。

そこで今回は、小説家さんが書かれたおすすめのエッセイを紹介するとともに、エッセイから受けたその方の印象などをぼちぼち語っていければと思います。

あくまで私が受けた印象なので、間違ってるかもしれませんし、同じ本を読んだ人は全然違う印象を受けてたりするかもしれませんが笑

お暇つぶしに楽しんでいただけたら幸いです。

小説家のエッセイ

小川糸さん

私が小川糸さんのエッセイにハマるきっかけとなった一冊。本屋さんで一目惚れしてお家にお迎えし、読んでみたらめっちゃいい!ってなった作品です。

まず、ドイツのベルリンをはじめとする海外生活の描写に胸躍る。

私自身が海外好きということもありますが、物珍しい文化について読むのが楽しいということに加えて、どこにいてもマイペースで、自分の幸せの尺度をぶらさない小川糸さんのスタンスが心地いいのです。

ほんのわずかな季節の移り変わりを五感で感じたり。
お金ではなく手間をかけて生活を豊かにしたり。

小川糸さんの作品にお料理の描写が多いのは、ご自身がお料理好きだからなんだなぁ、としみじみ思わされました。

あと、小川糸さんの作品って、思えばそれぞれ舞台が異なるんですよね。

『ツバキ文具店』は鎌倉、『ライオンのおやつ』は瀬戸内、というふうに。

ご自身のゆかりの地を舞台にした作品を描き続ける作家さんがいる中で、小川糸さんが決まった作品の舞台を持たないのは、「双六」みたいにあちこちを転々としてきた経験からくるのかなと思ったり。

あと、『針と糸』には長年確執があったというお母様との最後の日々が綴られています。

純粋に好き、と言い切れる間柄ではなくても、嫌い、と完全に突き放してしまえるほどの相手ではない。

そんな複雑な感情を抱く相手を看取るまでの日々は、読んでいて苦しいものがありました。

そして、そんな女親との関係性は、小川糸さんが作品の中で繰り返し描いてきたものとも重なります。

『食堂かたつむり』の倫子とおかん然り。『ツバキ文具店』のポッポちゃんと先代然り。

それらの主人公たちに小川糸さん自身が反映されているということは、エッセイを読まないと気がつけないことでした。

小川糸さんはエッセイ作品をたくさん出されていますが、一編一編が短めで文体も優しいので読んでいてとても癒されます。

小川糸さんの小説がお好きな方は、ぜひエッセイも読んでみてほしいです。

角田光代さん

ここ最近読んだエッセイの中でもトップレベルに好きなのが、この角田光代さんの『幾千の夜、昨日の月』です。

夜にまつわるエピソードばかりを集めたちょっと変わったコンセプトのエッセイ集なのですが、どこか懐かしく切なく、自分も経験したことのある夜をいくつも思い出させてくれました。

まず、直木賞作家に対してこんなことを言ってはなんですが、角田光代さんがどこか危なっかしい!笑

お酒で失敗したり、事務仕事が壊滅的に苦手そうだったり、明らかにクズっぽい恋人の言いなりだったり。

そんなちょっと放っておけない雰囲気をまとった彼女が、異国の知らない宿屋の一室で、たったひとり背筋を伸ばして夜を迎えている姿に、なんだか胸を突かれる思いがしたのです。

誰も知っている人がいない夜の街を羽が生えたように自由に歩き回り、「こんな遠くで一人で歩いている自分って偉い」なんて考えているところは、海外一人旅、海外一人暮らしの経験がある人にはめちゃくちゃ刺さるんじゃないかなと思う。

Kindke Unlimitedで無料で読めたのですが、あまりにも好きなので買おうと思ってます。

小川洋子さん

小川糸さん、角田光代さんがフッ軽で外向的だとすると、小川洋子さんは内向的、内省的。

まあ、エッセイを読むまでもなく、小説からもそんな印象を受けるわけですが、このエッセイを読んでさらにその印象が強くなりました。

印象的だったのが、物語を「書く」のではなく「聞く」という記述。物語の登場人物が語り出し、小川洋子さんはその語りに耳を傾けて、物語を完成させるのだそうです。

世の中には、登場人物をその身に憑依させているとしか思えない作家さんや、「神の視点」で大きな歴史のうねりを描き出す作家さんがいらっしゃいますが、小川洋子さんはそのどちらとも違っていて。

誰かのささやかな声を掬い取り、他の誰かに伝えようと言葉を連ねていく。そんな表現が、彼女の作品には確かにしっくりくるように感じました。

もう一つ印象的だったのが、小川洋子さんがすべての人生に敬意を持とうとする姿勢。

ホテルの地下で来る日も来る日も銀食器を磨くだけの仕事をする男性を例に挙げ、「一緒に夕食の席を囲みたい」と仰っているのですが、確かに小川洋子さんの作品には、すべての人生に対する慈しみ、敬意があふれているように感じます。

そんな小川洋子さんの視点が、あの深くて優しい物語世界を生んでいるのだな、と改めて実感しました。

小川洋子さんは『博士の愛した数式』を読んで以来「天才だ!」と思っている作家さんですが、エッセイを通して人となりを知ると、少し親しみを持つことができるので嬉しいです。

柚木麻子さん

つい最近読んだ『とりあえずお湯わかせ』。これまであまり柚木さんのお人柄を知る機会がなかったのですが、これを読んで思ったことは、「こんな友達いたら楽しそう!!」ということ。

柚木さんの作品には女同士のドロドロが描かれている印象が強かったので、これは少し意外でしたね。

なんというか、生活を楽しくすることに対するモチベーションが半端ないのです。

小川糸さんのように生来まめな性分というわけではなさそうで、しばしば不精な様子も垣間見れるのに、「楽しむ」という目的のためならどんな手間暇も惜しまない柚木さん。

「こうしたら楽しそう」というアイデアはあっても、結局面倒でやらないことが多い私にとっては、この行動力は見習いたいです。

ただし、柚木さんの一番の魅力はそこではなくて、状況に対する問題意識を常に持とうとしていること。

エッセイで描かれている4年間には、2020年から始まるコロナ禍が含まれており、持病持ち、子持ちの柚木さんはかなり制限の多い生活を強いられることになります。

そんな中でも持ち前のアイデアと行動力で毎日を楽しくしようと奮闘してきた柚木さんが、次第に「こんなに工夫しないといけないのはおかしい」と世間へと目を向けていきます。

不便な世の中を工夫で乗り切るのは素晴らしいけれど、「なぜそもそも不便を感じないといけないのか?」に疑問を持つ姿勢はとても大切。

女性で子持ちという、ある意味「弱者」の立場から高らかに声を上げてくれている柚木麻子さんに「そうだそうだ!」と賛同の声を上げたくなる一冊でした。

朝井リョウさん

作家さんのエッセイを読んでいると、お人柄が小説作品に反映されてるな〜と感じることも多いのですが、作品とエッセイのギャップが大きすぎて笑ってしまうのが朝井リョウさんです。

『チア男子!!』とか、ちょっとギャグに寄った作品はあるものの、『何者』とか『正欲』とか、心にグサグサ刺さりすぎて「うわぁ…」と思わされるのが朝井作品の最大の魅力。

ところがエッセイはどうでしょう。はじめて『時をかけるゆとり』を読んだ時は度肝を抜かれました。

「なんやこれめちゃくちゃ面白い!!」

戦後最年少で直木賞を受賞した作家さんとは思えない、バカバカしくも愛おしい大学生活が綴られていたのです。

早稲田卒という学歴、小説家としての受賞歴を見たら「超絶エリート」を想像してしまうのに、いい意味で普通で、すごく親近感を覚えました。

そんな朝井リョウさんの創作の裏側が垣間見れるのがこの『発注いただきました!』

厳密に言うとエッセイではなく作品集ですが、デビューしてから今までに企業から発注を受けて書いた短編を、現在の朝井さんが「感想戦」というエッセイパートで振り返るという面白い構成の一冊となっています。

『世にも奇妙な物語』の時も思ったけれど、なんというか朝井さんって、企画力があるんだよな…。

企業からのリクエストに沿って書いているので、いつもの作風とはかなり異なるものがある一方、リクエストに従いつつも朝井さんのカラー全開の作品もあったりして、読み応え十分。そしてやっぱり感想戦が面白すぎます笑

個人的に気になったのは、「同じ企画に参加した角田光代さんの作品が素晴らしすぎて赤面した」という記述が2回くらい出てきたこと。

角田さんの作品も読みたくなる!

まとめ

最近読んだ作家さんによるエッセイを中心に、感想だったり、受けた印象だったりをまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。

作家さんの人となりや創作の舞台裏が知れるというのが、小説家のエッセイの最大の魅力。

「この作家さんのエッセイ面白かったよ〜」というものがあれば、ぜひコメントで教えてくださいね。

それでは今回はこの辺で。

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