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飲食店大進化論Ⅱ投稿集202311

"エモい"と"推し"が今後の飲食店を方向づけるというのが私の結論。マーケティングもマネジメントも全ての領域で「集」から「個」に向かっているからだ。 もちろん食ビジネスである以上、料飲品質の追求は基本条件として欠かせないが、それを前提に取り組まなければならないことがある。

ビジネスは最初にやることを決めるというのがコロナ禍までの常識だが今のように先が見えにくい経営環境では「やること」を決める前に「やらないこと」を決めておいた方が選択肢を絞りやすく迅速に意思決定できるようになる。あらかじめ「やらないこと」のリストを作成しておくと判断しやすい。
 
新規ビジネスは投入するタイミングが重要というのは昔の話かもしれない。ドックイヤーと言われるようにデジタルの波に乗ってタイミングはどんどん変化するから出来る限り早くやらないと機会損失しかねない。間違ったっていいじゃないか。飲食店集客を考えるとやってから修正していく方がいい。
 
これまでの経営判断は間違えないために客観的な情報に基づく冷静な判断軸が必要だった。今や誰しもを納得させる判断は困難だから間違えることを前提にすれば、経営判断の背景に“どれだけ強い意志や思いが込められているか”という主観的な情熱を判断軸にした方が共感してもらいやすくなる。
 
店舗ビジネスに共通するのはお客様が機能価値よりも感覚価値を重視して来店しているということだ。 感覚とは直観だ。店主の意志や一番大切にしている価値観が直観の背景にある。そしてそれは内容的な正しさよりも発言者への信頼の方が重要視される。信頼がなければ独りよがりで終わる。
 
通勤で毎日通る飲食街、平日ディナー帯の閑散が著しい。特に最寄需要を当て込んだ普段使いの飲食店が閑散としている。特定食材に絞り込んだ業態や直感的な訴求力に成功した業態にはそれなりの集客ができているからお値打ち感よりも分かりやすいプレミアム感で勝負すべきかもしれない。

大量消費の時代は従業員を人的資産と捉え、量を確保して賞罰によって効率的な店舗運用を目指した。 コロナ禍を経た現在は人の力を信じて自律性を認め、主観や価値観をベースにした個の思いを資源と捉えて様々な人々が仕事に参画できるインクルージョンなチームづくりが求められている。

料飲接客は始め客席でのサービスマナーとサービススキルを教えていた。サービスマインドは教えてどうなるものではなかったので素養のある人を採用するようになった。経験がなければ情景を思い浮かべられないからだ。今はスタッフのできることを理解してサービスの最大化を考えている。
 
残念ながら過去の飲食店は顧客情報を活用できているとは言えなかった。本来は来店頻度が高く多くのお金を落としてくれる存在の方がありがたいはずなのに目の前のお客様を見ているせいか声が大きい客や目立っている客が大切に扱われがちだった。今はDXがきめ細かな客対応を可能にしている。
 
飲食店はつまるところ接客業だから極論を言えばお客様を喜ばせられれば良しの商売だ。喜ばせ方には色々あるから「こんなことで喜ぶんだな」が見つかったら誰に喜ばれるかを見極めるためにデータを取って磨き込む。ある程度成功が見えてきたらポップアップで他のお客様にも共有させる。

出典:明将寿司のあずきマヨネーズ軍艦

良いビジネスアイデアが浮かんだらしっかり計画を立てて準備するところだが、不確実な時代を迎えた今はそんな悠長なことをやってられない。とりあえず着手してみて進めながら調整して完成度を上げていく。 お客様に認められない事を一所懸命やっても無駄でしかないから成功は速度が鍵だ。

外食産業は成功店の「見える部分」をマネして発展してきた。しかしそれでは不十分なのであって実は収益構造と競争構造という「見えない」部分で競合を寄せつけない持続的な仕組みづくりが必要だ。①店へのインパクトが大きい/②お客様の必要性が高いの順で優先順位をつけてMVPを設計する。

コロナ禍がコンサルティングの大きな転換期になった。以前は経営環境を俯瞰してファクトを押え時代の流れを読んで戦略を組み立てるのが私の役割であり業界内でもそれなりに評価されていた。しかし今は運営パートナーとして時代変化を主導し効果創出に向けた貢献が不可欠になっている。
 
コンサルタントにもマインドチェンジが求められている。 コロナ前まではロジカルシンキングが武器だった。専門家としての客観的で冷静な判断が求められたからだ。しかし今は経営環境が変わりロジックで打破できないことが増えている。柔軟な時代対応はデザイン思考やアート思考から生まれる。
 
ロジカルシンキングは物事をルールに基づいて整理し筋道を立てて考える思考法だから合理的で迅速な判断が可能になり汎用性も極めて高いが多様性に欠ける欠点がある。元々人間は合理的ではないのでアンチテーゼとして生まれたのがデザインシンキングだ。お客様の抱える課題を観察して解決する。

"共感"消費の時代に求められるのがアートシンキングだ。まずはお客様ありきで問題解決を考え商業的に展開するのがデザインシンキングだが、自分起点で心の底にある課題認識を表現しお客様との共鳴によって新しい価値を創造するのがアートシンキングだ。アーティストの感性で物事を捉える創発活動になる。

ロジカルシンキングはマッキンゼーのコンサルティングノウハウとして紹介され事業運営での問題解決に便利と拡がった。問題を深堀りする垂直展開の思考法だから、懐疑的に判断を保留するクリティカルシンキングと水平展開で自由に発想するラテラルシンキングと組み合わせられてトリプルシンキングと言われている。

ロジカルシンキングのベースにはMECE(MutuallyExclusive&CollectivelyExhaustive)という基本指針がある。インプット情報の分別では「漏れなく重複なく」が重要という意味だ。ロジカルに経営課題を構造化するには3Cや4Pなどのフレームワークが活用されるが、その項目はMECEに沿って設定される。
 
ロジカルシンキングと言うが「論理が思考に関わる力」という捉え方は間違いだ。論理力は思考力そのものではない。論理力は考え方を道筋に沿ってきちんと説明する能力であり思考力は自由に新しい物を生み出す能力だから全くの別ものになる。日常的には主張に対して妥当な根拠づくりの意味だ。
 
ラテラルシンキング(水平思考)を考案したエドワードデボノは「問題を解決するだけではなく物事に対する新しい見方や新しい発想を生み出すのに役立つ」と述べている。①固定観念を打破する疑う力/②物事の本質を抽象化する力/③偶然であった事象から新しい価値を見つける力が必要だ。
 
コロナ禍前の日本企業は厳しい競争環境の中で成功するためにベストプラクティス(先行事業を成功に導いた考え方や方法)を重宝してきた。収益を高めるために成功例をマネしてきたと言ってもいい。 しかし不確実性が増加した今に頼れる“勝ちパターン”は存在しない。自ら生み出す必要がある。

外食産業はチェーンストア理論をお手本に効率的でスピード感のあるビジネスモデルを構築してきたが、スケールメリットの追求がロングテール化する外食ニーズにフィットしなくなっている。ミシュランやグルメサイトが大手ブランドではない隠れた名店を引っ張り出してきたのも影響している。
 
外食の定石だったスケールメリットはむしろデメリットになっている。スケールメリットでは多様化に柔軟対応できないからだ。長いこと飲食業態は目標3店の次は目標30店と拡大路線を続けてきたがプロトタイプの多店化は質の保証を弱めてしまう。チェーン店であっても個店舗らしさが重要に。
 
飲食店経営の骨格を支える重要な構成要素は言うまでもなくモノである料理/コトである接客サービス/それらをまとめトキを創造する店舗の3つだ。料飲提供である以上調理内容は大事だが料理だけが求められているわけではない。来店目的を見定めてモノとコトとトキのバランスを調整する。

例えばカフェ業態でお客様のイメージ以上に美味しすぎる料理を提供してしまうと料理評価ばかりが高くなり空間とのバランスが崩れてかえって居心地悪くしてしまう。日常利用の店で味のインパクトが強すぎると飽きにつながる。長く愛され続けるには“美味しすぎない定番料理”が必要になる。

日常使いの店では客単価1千円の壁が話題になっているが環境変化を考えれば1.5千円位は十分許容範囲だろう。ただし低価格店は予算の範囲でしっかりニーズを満たしそれなりに満足できる美味しいものを提供できる技術が求められる。調理工程の単純化が鍵で下処理と仕上げの分離が必須条件だ。
 
低客単価の維持を選択した場合の飲食店キッチンは①大量供給によるコストダウン提供を可能にするレシピ開発/②ばらつきが出ないように簡単な加熱程度に単純化した調理工程の研究/③代替え食材の活用と高性能な自動機械化によるローコストオペレーションの実現を武器にする必要がある。
 
客単価7千円位までの料理は基本的にソースやタレの旨さで評価されていると考えてもよい。しかしそれ以上の価格帯では料理素材も店選びにおける重要な要素になるのでお客様に分かりやすい高級食材を組み込む必要が出てくる。高級食材は仕入値が高くロスも出るが眼前の壁を打ち破る要素になる。
 
客単価1万円以上になると店が発信するイメージ戦略やブランドの知名度が集客を左右する様になってくる。客単価1.4万円越えの飲食店になると店のエンターテイメント性が重要になるから料理人のパフォーマンスなどを組み込み全体のプログラムコンポーネント自体を高くして評価を獲得する。


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