優先すべきはD2C事業での拡大?BtoB事業への拡張?戦略決定のヒントをEC有識者とともに探る - EC相談所 - プレ相談会レポート(21.07.21)
このたびソウルドアウトが開設した「EC相談所」。地方、中小・ベンチャー企業限定で、無料でEC領域における有識者たちへ相談、アドバイスを受けることができるサービスです。
2021年7月21日(水)、4人のアドバイザーをお招きし、プレ相談会を開催しました。弊社マーケティングカンパニー執行役員COO 浅見 剛(@goasami)がモデレーターを担当し、相談者がもつ課題に対して、熱い議論が交わされました。
参加アドバイザー
側瀬 千尋氏 ココアンド株式会社 代表取締役
伴 大二郎氏 株式会社ヤプリ Executive Specialist/株式会社顧客時間 Project Manager)
望月 誠氏 株式会社あんどぷらす 代表取締役 @mmochiz
A氏 元楽天、アマゾンジャパン ECコンサルタント
モデレーター:浅見 剛 ソウルドアウト株式会社 @goasami
*画像上段左から、弊社浅見、側瀬 千尋氏、伴 大二郎氏。下段左から、A氏、相談者・金虎 寺尾 仁快氏、望月 誠氏。
相談者の自己紹介
今回の相談者は、静岡県焼津市のかつお節メーカー、株式会社金虎の寺尾仁快さんです。まず、相談内容の共有から始まりました。
寺尾氏:今回皆さんにご相談したいのは『ペットフード通販事業で、月商目標を達成するにはどうすればよいか』です。
金虎は今年で創業108年。静岡県焼津市で水揚げされた新鮮なかつおを自社工場で加工し、食品メーカーや学校給食向けにかつお節を提供しています。しかし近年では、かつお節の需要が減少傾向にあって。
2003年からは、OEMで大手ペットフードメーカーに原料の提供を開始し、2013年からは犬用おやつの自社ブランド『鰹犬』を生産・販売しています。そしてそこで生まれたお客様からの声をもとに、2020年7月から、ドッグフード『おさかな』の生産・販売を始めました。ペットのアレルゲンになりやすい小麦、畜肉類、卵などを一切省いた工場で、新鮮なかつおを使って作っているのが特長です。
そして金虎では、2年後、5年後と中長期での月商目標を掲げています。発売当初は、地元テレビや新聞などマスメディアで取り上げられ話題を呼びました。現在は、自社ECサイトとAmazonとで販売しています。加えて、リスティング広告やメルマガ、SNSなど様々なツールを利用して、ECの基本『集客・追客・接客』の最低限をこなしています。しかし、より大きく成長し、月商目標を達成するためには、どのような計画を立てるべきか?本来どこに投資すべきか?と迷っています。
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相談内容の共有が行われたところで、ようやく本編のディスカッションです。相談者のお悩みについて、アドバイザー4人からの意見が交わされます。
ディスカッション
「Amazonで新興ブランドが勝つためには馬力が必要」
浅見:寺尾さんありがとうございます。それでは、『ペットフード通販事業で、月商目標を達成するにはどうすればよいか』というお題で、アドバイザーの皆さんからご意見を伺っていきたいと思います。ではまず、寺尾さんに質問のある方からお願いします。
A氏:詳しくお話いただきありがとうございました。Amazonと自社のECサイトで販売しているとのことでしたが、大手のペットフードメーカーへ卸売はしない予定でしょうか。
寺尾氏:そうですね。ちょうど悩んでいるところでもありますが、自社EC一本にしたいと思っています。ECであれば高い利益率を確保できます。しかし卸をすると、売れ残りはセールでたたき売りされてしまうなど、うちで決めた価格設定を変えられてしまう恐れもあるので。卸をするとしたら、取り扱う店舗を限定して展開したいです。
A氏:市場の話をすると、Amazonや楽天は新規率が8割強で、ペット用品のEC化率は3割を超えています。ペットを飼っている人はペット用品をインターネット上で購入することに慣れていて、かつ、Amazonや楽天には新規のお客さんが多いんです。
しかし、Amazonで新興ブランドが勝つには馬力が必要だと思います。広告施策を打つにしても、ナショナルブランドがAmazonのトップ面を押さえてしまっているので。営業利益率にゆとりあるのであれば、チャレンジ施策として、実店舗へ展開して認知を広めるのがいいのかもしれません。Amazonで知名度のないものを売ることは、最近では難しくなりました。
寺尾氏:たしかに、私たちのような認知度の低いブランドで売上を立てることは難しくなっていることを感じています。しかし、おそらく卸売は上手くいかないので、特定のこだわりをもった販売店のみへの展開を考えたいです。
A氏:そうですね、店を選んで卸すことも一つの手です。そして5年後の月商目標を達成するためには、大手ペットショップや動物病院など、大きめの流通経路を押さえるのが必要かな、と思いますね。
ブランド構築のため、InstagramやHPで世界観を伝える
浅見:インターネット上での販売と同時に、オフラインで認知を広げることも大事だということですね。現在金虎さんでは、ブランドを知ってもらうために、HPやInstagramなどを使われていると思います。望月さん側瀬さん、何かアドバイスはありますか。
望月氏:HPの話をすると、『おさかな』のページには画像がやや多い印象です。テキスト中心にしてすっきりさせ、しっかりと想いを伝えるのが望ましいです。また、ほかのドッグフードと比較して少し高めの価格帯だと思うので、価格に見合ったパッケージを考えてもいいかな、と感じました。成功しているEC事業者の共通点は、商品への愛があり、一番のファンであることなんです。だからそれをHPでも伝えられるといいと思います。
側瀬氏:Instagramを拝見していると、キャンペーンのクリエイティブなど投稿内容はかなり凝ったものが多く、伸びるポテンシャルがかなりありそうです。リアルのイベントで出会った方がフォローしてくださる場合が多いとのことでしたが、Instagramの投稿から認知を獲得することもしていきたいですね。
寺尾氏:Instagramは、イベントで出会った方や既存のお客様に向けてのキャンペーンやイベントの告知、交流のために運用しています。先日一周年を迎え、フォロワーを増やす目的で広告を出稿しました。今後は認知拡大のためにもブランディング的な要素を入れていきたいのですが、どうすればいいか分からず困っています。
側瀬氏:テーマ性が大事だと思います。投稿のトンマナや色味、フォントを整えることで世界観を醸成できます。あと、投稿コンテンツの有益性と統一性も大事です。例えば、商品の押し売りばかりしていると、新しくフォローしてもらいにくいんですよね。
Instagramは、購入したい人だけではなく、潜在層から囲っていけることが特長です。犬を飼っている人に向けての情報を発信するメディアにするとか、『おさかな』を使ったレシピを紹介していく、といったこともできそうです。ユーザーにとって役に立つコンテンツの投稿は保存数が増えやすい傾向にあり、保存数が多いと、Instagramのアルゴリズム上有利になるので発見タブにも露出しやすくなります。
寺尾氏:Instagramの投稿は、ECの配送業務と店舗業務に携わっている社員が兼務で行っています。週に2回、投稿をしてくれていて、キャンペーンや広告を行うときは私も一緒に行います。これからは、投稿コンテンツを作る時間を割く、投稿のオペレーション部分を整える、といったことが大事だと感じました。
▼犬のおやつ「鰹犬」、ドッグフード「おさかな」のInstagram
D2Cモデルか、BtoBかを決めて事業を推進する
浅見:冒頭で熱く『おさかな』について語ってくださったので、ぜひその想いをHPやInstagramで伝えていってほしいですね。ここまでで様々なアドバイスをいただきましたが、いかがですか。
寺尾氏:いろいろとやるべきことが多いな、と感じています。結局、一番最初はどこに注力すればよいのでしょうか。
伴氏:経営含めた意思決定を早期に行うべきですね。D2Cモデルとして、高利益体質で展開を目指すのか。または、BtoBとして、卸やOEMで大量生産、高売上を狙っていくのか。ブランドを崩さないためにも、早く決めたほうがいいと思います。
前者であれば、ストーリーを構築し、それに沿った施策展開を行っていかなければなりません。大量生産は合いませんし、売り方を考える必要がありますね。D2Cは、体験と一緒に売る、ということをするといいと思います。例えば、一般的なドッグフード店ではなく、ドッグカフェやドッグランなど、犬との体験を楽しむところで売っていく感じですね。
その場合、SNSで発信力のある店舗に直接連絡してみてもいいかもしれません。想いやストーリーを伝えれば取り扱ってくれるのではないかと思います。10万、20万を広告で使うより、共感してくれる人に商品を直接届け、発信してもらうほうが効果的ではないでしょうか。
浅見:寺尾さん自身、ドッグフェスに出向き飼い主さんたちと直接関わって、『おさかな』を買ってもらったりInstagramをフォローしてもらったりしていると伺いました。D2Cモデルに近いですよね。一方、BtoBで金虎さんの大量生産力を活かす手もあるのではないかな、と思います。Aさん、いかがでしょう。
A氏:そうですね、BtoB視点だと、毎年確実に売上が上がるので、社員の雇用の維持ができることが最大のメリットですね。toCであれば、保管費や工場の回転、在庫管理の話もありますし。
toBのほうが営業社員のメンタリティも保たれるかもしれません。toCでCSの担当をするよりも、toBだと、一つの案件で大きな売上を立てることができるので。ほかにも、経営方針や商品のブランド、土地柄の問題など複数の要素が絡んでいると思います。総合的な判断が必要ですし、toBとtoCのバランスが大切です。
寺尾氏:実は背景として、自社ブランドを立ち上げ、高利益率でしっかり売上を上げていきたい、という想いがあって『おさかな』を作ったんですよね。なので、会社の方針としても、D2Cとして育てていきたいと考えています。今回様々な視点からお話を聞いて整理した上で、ブランド価値を高めることをやり切りたい、と改めて思いました。ありがとうございます。
浅見:次の方向性が決まったようでよかったです。本日は皆さんお集まりいただきありがとうございました。
まとめ
まず注力すべきは、ブランドストーリーを構築すること
『ペットフード通販事業で、月商目標を達成するにはどうすればよいか』というお題に対して交わされたディスカッション。今後は、以下の三つを進めていくことに決まりました。
一つ目は、
D2CモデルなのかBtoBなのか、経営と方向性のすり合わせをまず行うこと。
二つ目は、
定期購入者へのインタビューを実施するなどして、ユーザーを知ること。
三つ目は、
以上二つを踏まえて、ブランドストーリーを構築すること。
寺尾さんは「今はまず、ブランドをつくりきることに注力します。そのために、金虎が信じる提供価値に沿った商品設計やアウトプットになっているかを確認し、沿っていない部分があれば改修や補強を行っていきたい」と決意を語りました。
EC相談所は今後、毎月2回程度開催していく予定です。有識者であるアドバイザーの方々とともに、地方、中小・ベンチャー企業のEC事業及びデジタルマーケティングを盛り上げていきたいと思います。
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