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緑の街

花道を元気に走る75歳を、観に行った。
昨秋はコロナ回復後だったからか、随分と背中が小さくなったように感じたけれど、今回はまた背筋も伸びて、声もとても良く出ていたし、危なげなく3時間弱のステージをこなしていた。

遠目で良く見えなかったけれど、APCのデニム(多分)、白のスニーカー、Tシャツはネイビーの多分これもAPC→後半は白のツアーTにチェンジ。
スニーカーは以前はスピングルのを履いていたり、某海外ブランドの革製の時もあったけれど、今回は何だったんだろう?
花道をダッシュしても大丈夫な、ランニングタイプだったのかもしれない。

今週末から某CS放送で特別プログラムが組まれていて、あの『緑の街』も放送される。
“26年前、50歳の頃に撮ったものを改めて自分も観てみようと思う“と言いながらピアノの前に座ると、「緑の街」を歌い出した。

この曲は、ライブでは殆ど歌われない。
もちろん映画が公開されたすぐ後のツアーでは歌われたけれど、その後は、2012年のツアーのほんの数回のみだった。(私は運良くそのうちの1回を聴いている)

色々な想いが溢れそうになって、マスクの下で唇を噛み締めた。
マスク着用が義務付けられている今回のツアー、それに助けられるとは思わなかった。

このところ独りで行っていたライブ。
あまりにも首都圏はチケットが取れないため、元同僚と協力体制を敷いた。
それでも勝率1割、15,000人入るホールが満席。
独りの気楽さが無いことと引き換えの、複数で行く楽しみは、終演後に色々と話せる仲間がいるということかもしれない。

有明を脱出して、銀座方面へ。
日曜の銀座は閉まっている店が多かったけれど、えいや!で入ったガード下のビストロが大当たりで、良く冷えたシャンパーニュと旬の白アスパラにありつけた。

『緑の街』はフィルムツアーの形式で、ツアートラック1台で各地を回ったから、各都市で観られたのはほんの2日間ずつだった。
どこで観た?という話から始まって、果ては「Yes-No」の歌詞に当時小学5年生だったという元同僚が困惑した話まで、2時間喋り倒した。

私はオフコース時代は知らない。
解散した年の暮れにCMで小田さんを知ったから。
それでも、「Yes-No」をリリースした時にファンが大層驚いたことも、30も過ぎてからなんて下世話な歌詞を書いたんだと言われたことも、エピソードとしては知っている。
「何だか良く分からないけれど、この歌詞は“イケナイ“路線だということは11歳にも分かったんですよ」という言葉に、吹き出してしまった。

この歌詞はちょっと破綻していて、“抱いていいの?“と聞きながら、“好きになってもいいの?“と追いかけで確認している。
「好きだから抱きたい」ではなくて、先に「本気で好きになって良いのか」確証を得てしまいたいと思っている。
傷付くのが、怖いから。
「YesかNoか相手に突きつけているのだ」と、いつか小田さんは言っていた。
けれど、もしNoと答えたら、彼はその先へ進まず撤退するのだろうか。
“君が好きなんだ“と正面切って言わないところが、ちょっと(いや、だいぶ)ズルいよねぇ、と思う。
その微妙な男の女々しさや、Aメロに入る直前の転調がアンバランスさを生みだしていることが、この曲の不思議な魅力なのだけれど、でもやっぱり何度聴いても、“ズルい“。

帰り道、新橋駅までの道を歩きながら、元同僚は昔のパートナーと別れた原因をぽつりと話してくれた。
「緑の街」を聴きながら、もしかしたらその人の事を思い出していたのだろうか、と思ったけれど、敢えてそれ以上は尋ねなかった。

私も、曲の間に考えていたことは、誰にも聞かれたくなかったから。
みんなそれぞれ想いを抱えて、いまを生きている。

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