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名作にくらいつけ! 安部公房「砂の女」(3) ~比喩、不可知なものに輪郭を(四)~
(2400字程度)
問題の比喩とは、こういう話だ。
これまで紹介してきたいくつもの比喩は、もちろん優れてはいる。優れてはいるが、比喩の形としてはシンプルなものばかりだ。見えたり触れたりしているもののあり様を、あるいは心情を、何かに喩えて伝えようとしたものだ。
次に紹介する比喩は、それらと較べて少し複雑で、そもそも語りのレベルそのものが一段上のところから発せられている。わかりやすくするために、実例から先に紹介する。
・・・せっせと飛んでいるつもりで、実は窓ガラスに鼻づらをこすりつけているだけのオオイエバエ・・・
さらに、もう一つ紹介する。
逃げ道だと思って、身をおどらせた柵の隙間が、実は檻の入り口にすぎないことに、やっと気づいた獣・・・何度か鼻面をぶつけて、金魚鉢のガラスが通り抜けられない壁であることを、はじめて知った魚・・・
これら二つは、どちらも同じような事柄を示している。
簡単に言ってしまえば、主人公、二木の置かれた状況だ。細かいことはさておき、二木はこの時まで、主導権を握っているのは自分の方だと考えていた。しかし、実際はその逆だったと気づき始める。そして、この比喩なのである。これらの比喩は、その時の二木の境遇、状況、あるいは、二木を中心とした小説中の世界の在り方自体を、表現したものだ。
さて、ここで私は、首をもたげる。
これらの比喩を語っているのは、一体誰か。
これらの比喩は、どの立場から発せられたものなのか。
二木だろうか。しかし、どうやらそういう訳でもなさそうなのだ。
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