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朱鳥 蒼樹 掌編選

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掌編小説を集めました
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#note文芸部

芸術者とは《創作掌編》

創ることとは戦うことと見つけたり。

技量、技法、巧拙……。
最高峰の戦いにおいてこれらはさして役に立たぬ。皆々がそれぞれに持っているものにどうして優劣をつけられようか。

創作とは謂わば自分との戦い。誰に何と言われようと己を貫き、血反吐を吐きながらも、完成の時まで進むこと。

ここに二人の絵師がいる。

魂の叫びを自分の命を、己の全てをかけた絵で人々を魅了する絵師が一人、

巷間の美を追究し、人

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Lachrymatory(創作掌編小説)

【君の涙の粒を集めて】

 流れ落ちる一粒の雫、俺はそれを集め続けていた。透き通った小さな水晶を小さな瓶に入れて眺めていれば、欠けた何かがわかるかもしれない、そんな一心で。

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 それは「涙壺」といった。俺の育ての親であるハイエルフが作った色とりどりの硝子の小さな瓶、大人の中指ほどの長さで片手で握るのに最適。俺は瓶の首に紐をかけ

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こころうり(創作掌編)

こころうり(創作掌編)

 『当店で販売致しております《こころ》は非常に繊細でございます。ご購入をお考えの方は以下の点にご注意ください。

  1、割れ物注意、天地無用
    お持ち帰りの際は十分お気をつけください。

  2、手作り品のため所々に綻びがございます。
    あらかじめご了承ください。

  3、初期不良以外での返品・交換はできません。

  4、オーダー品のお届けには
    お時間をいただいております

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思い出の砂時計(創作掌編小説)

 人間は薄情だ。

 肉の器が死を迎え、無事に往生できるようにと儀式を行うまでは飽くまで泣き続ける。ところが焼いて骨になった瞬間に、彼らはまるで泣き尽くしたとでも言うかのように涙の一滴すら流さなくなるのだ。骨は無機物でそこに感情など宿ろうはずもない、という無意識の現れなのだろうか。

 否、忘れたくない、そう思っていても記憶は薄らいでいく。無常が彼らの視界を塗り替えて日常的風景を上書きしていく。そ

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DeathMask(創作掌編小説)

DeathMask(創作掌編小説)

 幼い頃、貴方はこんなことを言われたことはあるだろうか。

 「自分がやられて嫌なことを他人にしてはならない」

 こんな言葉、詭弁だ。例え自分がこの言葉を守って正直に生きていたとしても、他者が自分と同じように守ってくれるとは限らない。よりよく生きるために己に課したルールがある日突然僕を裏切ることだって考えられよう。僕の首をキリキリと絞め上げて、どうだ痛いか、苦しいか、と嘲笑する。その表情を想像し

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雪風よ…(創作掌編小説)

 
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 雪の様な白磁の肌、絹糸の如き艶やかな髪、三日月を形どる唇、雫煌めく垂れた睫毛…。其の奇跡の美しさに僕は思わず息を飲んだ。言葉等出てきはしまい、否万が一出てきたとしても俗世に残る言霊で此の美しさを説明できる筈がない。其れ程にも端正で儚くも麗しく…。
 …例え透き通った着物の奥にたった一筋走る歪な紋が在ろうと、彼の魅力は変わり

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凍て空(創作掌編)

 ふと空を仰いだら一番星が輝いていた暮れ方。《空の染師》の仕事が始まる時間だ。地平線を染める橙に暗い紺色がじわりじわりと染み込んでいくのがなんとも幻想的である。

 《空の染師》の仕事は一日中続く、明け方になれば紺色に光を表現するように白色を染み込ませ、太陽の光をより明るく見せる。少し失敗すれば、色が淀み色斑残る曇り模様。なんとか元の色に戻そうと奮闘しても、にっちもさっちもいかなくなれば水でそれら

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月食(創作掌編)

やや、なんたること
くろき健啖家が
散りばめられし金米糖を
脇目もくれず食らうてをる

赤、青、白、
とりどりの金米糖を
脇目もくれず食らうてをる

天高く
数多の金米糖を身に宿した丸缶詰を
健啖家は見逃さぬ

嗚呼、一際大きなるその缶詰に
彼は飛びついて
脇目もくれず食らうてをる
欠けに欠けるは何事ぞ
丸缶詰はいずこにかをらむ

脇目もくれず食らうてをつた健啖家は
満ち満ちた笑みを浮かべて肥えて

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