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糸使いたち《創作小説》

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記事一覧

闇医者【創作掌編】

 僕がそのお医者様と初めて出会ったのはマシェという山奥の自治区だった。

 その日、山菜採りに山に入っていた僕は木に絡みついていたイバラで足首を深く切ってしまった。その場では何ともなかったが、家に帰って見てみると傷口は化膿して何倍も膨れ上がり、その痛みで一歩も歩けなくなってしまったのだ。
 僕はエルフと呼ばれる種族で、レナウン皇国では人間以下の扱いを受けている。幸いここマシェは多種族の暮らす自治区

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糸を紡ぐ《創作短編》

糸を紡ぐ《創作短編》



 《蜘蛛》、俺の名前だ。同じ虫がこの世界にはいるらしい。しかし、俺は今までこの虫を見たことがなかった。主に地上に生息する蜘蛛とやらは、俺の住む地下深い世界に姿を見せたことはなかったのである。

 その虫を初めて見たのは地上の土を踏んだ時のことだ。

 俺の住む《コバルティア》は地下深くに存在する都市という名に相応しくない小さな集落。俺たちは皆地下で生まれ、地下で育ち、地下で命を終える。即ち太

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蜘蛛と人形師《創作短編》



 初めて会った時、そのガキはいっちょまえに煙管の煙を飲んでおった。私が黙ってそれを取り上げると、そいつは緩慢な動きでこちらを振り向いて金の双眸で私を見上げてきた。
 その目を見た時、これは屍だと感じた。命の宿っていない人形でも、瞳はもっとましな輝きを持つというのに。
 この絶望した目はなんだ、と。こんなガキが、輝くことが当然である金の双眸を持つこの少年が、こんなに淀んだ目をしている理由は一体

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