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10点【感想】THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本(ブレイディみかこ)


やけくそのパワーで労働者階級が反乱を起こす英国から、わが祖国へ。20年ぶりに著者は日本に長期滞在する。保育園で見た緊縮の光景、労働者が労働者に罵声を浴びせる争議の現場、貧困が抜け落ちた人権課題、閉塞に穴が開く奇跡のような場所……。これが、今の日本だ。草の根の活動家たちを訪ね歩き、言葉を交わす。中流意識に覆われた「おとぎの国」を地べたから見つめたルポルタージュ。(出版社HP引用)

オススメ度 10/10 (日本で草の根活動をしている人々のリアルを見れるから)

▷基本データ

(ずぃす いず じゃぱん えいこくほいくしがみたにほん)

【著者等】
 ブレイディみかこ
 (ぶれいでぃみかこ)

【出版社・レーベル】
 新潮文庫 →出版社HP

【読む前の独断と偏見によるジャンル】
 ちょっと変わった日本観を得れる本

【その本を選んだ理由】
 新しく入荷した本コーナーにあってんけど、筆者が面白い人だと噂を聞いていたから借りてん。絶賛積読中ってのに目を瞑ってな!

【貸出日・購入日・もらった日】
 2020/11/17貸出
→2020/11/26購入(また、読みたくなるだろうから買いました)

▷感想

 予想通り、日本という国への感じ方、見方が変わる本やった!!
 予想外な点では、人権について知ることができた本やった!!

 内容をざっと説明すると、普段はイギリスに住んではる著者が久しぶりに日本に長期滞在した時に、出会った人々との出来事について書かれてる本です。
 こう言うてまうと日常物かな~て思てまうけど、出会う人々が濃いし、参加するイベントも「キャバクラ労働争議」やら「安倍政治を許さないデモ」やら過激すぎて、全然日常やないのが、おもろい本。
 また、著者の西欧と日本との比較もおもろいねん。やっぱ、西欧に住んでるからこそ得られる政治史観や直近の政治事情に関する知識があるからやろね。

 せやから、まずは、印象的やった3人の著者が出会った?人物を紹介するわ。

①山谷のカストロ・中村光男さん

 いや、ほんまに凄い人よ。元野宿者・失業者が始めた仕事おこしの取り組みである企業組合あうん(団体HPを東京の山谷っていう元ドヤ街で立ち上げて運営している人やねんけど、事業の始まりはリサイクルショップ。
 路上生活者が生活保護を受給してアパートに入居する際に家電から日用品まで生活必需品を安価で揃えられる
ようにしてんて。ほんで、自由ひろばっていう建物に米の脱穀機まであってなんと、田んぼを耕して、それを炊き出しで使ってるらしいわ。
 つまり、路上生活者や日雇い労働者が、恵んでもらうんやなくて、自分たちの力で同じ境遇にある仲間に配給してるっていう形。
 著者もここで働くおじさんたちを「真っ暗な冬の海で見る漁船の灯りのよう」と評していて、本当の意味での自助・共助になってるねん。
 ほんで、この団体の凄いんは行政委託とか、補助金とかそんなんはもらわんで、自分らで仕事を見つけて事業化している点。
 自分事で恐縮やねんけど、物々交換のお店も行政にお金では頼りたくないと考えていて、元地方公務員としてお金をあげる立場やったからわかるねんけど、緊縮財政という避けられない状況があるから、行政は可能な限り、お金をケチりたいと考えてるねんね。やから酷いと、殆ど事前調整なしで、補助金打ち切りとか、委託費削減とかをやるから、そんなんに頼ってたらとてもじゃないけど安定した事業はできひんのよね。
 せやから、この中村さんが、労働を自分たちの運動の中に取り込んだことが、障がい者運動が、在日やら被差別部落の問題に比べて上手くいった理由と分析して、事業を起ち上げたってのがすごくしっくり来てん。
 とは言え、事業当初は家賃が13万円に対し、売上14万円とかいうやばい状態で、半年くらい賃金ゼロやったらしいねんけど、元野宿者ならではの耐える力で何とか乗り越えたってのが熱い!やっぱりどんな経験でも活かすことができるんやと感動するわ。
 「弱者を救うのではなく、仲間自身が仲間を守る」という素晴らしいマインドは、自分の事業にも忘れんと取り入れていきます!
 そういえばこれもプロ奢ラレヤーさんの言うてた他人にあげることが、徳になり自分を生かすって話に通じる気がするな。なんでもつながってく。
 ちなみにカストロってのも言い過ぎではなくて、日雇い時代には元締めの暴力団とも抗争していたらしく、仲間も2人死んだとか。やばすぎ!!
 そんなこんなで、この中村さんは1970年代から社会運動に携わってるらしいねんけども、感じている日本の社会運動の残念な点が、左派も右派も関係なく、上意下達になっていて、異なる団体同士で学び合わへんし、自分たちで考えへんことらしい。垣根を越えようと呼びかけても、昔からちょっとした違いで喧嘩別れしてしまうらしいわ。この話も一理あるなと思った。だって、政治でも野党が全然協力せえへんかったり、更にバラバラになったりして、自民党一強をわざと作り出してる感じやもんね。反貧困ネットワークってのも年越し派遣村とかで、00年代に盛り上がったけど、湯浅誠さんと言うスターがいなくなったことで今はしぼんでもうたらしい。
 結局、当事者が社会運動に参加していない、参加させないのが、垣根を越えられない理由ちゃうかと中村さんは総括しているねんけど、だからこそ、無宿人・日雇い労働者の当事者としてあうんという活動を続けて、垣根を越えて、「いま生存すること」、「いま働くこと」をやってる中村さんは立派やと思った。

②幼児に慕われるホームレス・カトウさん

 この人もやばい。というか、この人の存在を許容している社会が存在している日本がやばい。著者があまりにも衝撃を受けすぎて、会話できる機会があったにも関わらず、せーへんでバスに飛び乗ってもうたほどやばい。
 なんで、こんな人が出てくるかと言うと、著者は英国では保育士をしているから保育関係の話も、この本にはいろいろと出てくるねん。
 ほんで、本のエピローグで多摩川の河川敷に行って、自主保育(保育園に通わずに、親同士が集まって子供の面倒を見るという集まり)の見学に行くねんね。
 そこで暇そうにしている男児と一緒に「カトウさんのおうちに行こう」と会の人に誘われた著者が見たのは、何とちょっとした繁みの中にある地面に敷かれたゴミ袋と鍋とペットボトルと干された濡れた服。そう、カトウさんは何とホームレスのおっちゃんやってん。
 会の人によれば、朝はゴミ拾い。昼頃に帰って昼寝してから、起きたら子供らと遊んでくれるらしいねんけど、英国の保育士脳になっている著者には常識外過ぎて、動揺するしかないねんな。というか、子供は保育園に預けるか自宅で面倒を見るものって常識しか大抵の読者にはないやろうから同様に動揺すると思うねんけど。
 なんしかカトウさんは、元大工の60歳くらいのおっちゃんで、拾ったゴミの中におもちゃがあれば、修理したり、新しいおもちゃを作ったりしはるそうで、いまや卒園式でスピーチもするほど、会の一部になってはるそうやねん。もはや楽しい遊びを教えてくれるクールなみんなのおじいちゃん状態らしい。
 いや、口ではいくらでも差別はあかんとか、誰にでも優しくせんとあかんとか言えるよ?
 せやけど、やっぱりホームレスの人ってのはよくわからん別世界の人間やからできるだけ関わりたくないとか感じてまうことがあると思うねん。しかもか弱い自分の子供が関わるなんてもってのほかと思ってしまうと思うねんな。さらに言うと、ここは東京有数の富裕エリア世田谷区やねんな。
 この本にはカトウさんとこの自主保育の会の出会いの経緯は書かれてへんからなんでこんなことになってるのか意味不明やけど、とにかく差別のない世界を真に実現しているのが本当にすごいと感じたわ。
 自分も小学校2年生までは大阪の大国町ってとこに住んでて、新今宮の隣の今宮って駅であいりん地区も近かったからか、ホームレスの人(ルンペンって呼んでた)とか近所にいてはったけど、大人たちからはかかわるなと言われてた。
 ほんで、大人たちがそういうことを言うもんやから見下してもいいと子供心に感じていたからか、からかいにいったりしていた。今となってはしてはいけないことしていたと反省するしかないけど、やっぱりこの自主保育の会の人らは人権とは何かということを理解していたんやろなと勝手に想像してまうわ。
 とにかくこういうのが、世界中に広がれば、もっとみんなが生きやすくなるのにと僕は思いました。(小並感)

③ミクロからマクロへの活動家・藤田孝典さん

 この人については、この本の前に著書『貧困クライシス 国民総「最底辺」社会』を読んだり、Twitterなどでの炎上騒動とかで知ってて、個人への批判とかは品が無くてよろしくないけども、貧困問題を世に提起している点では、良いことをしている人やと感じてるねん。
 著者が藤田さんに会いに行った理由も、現場で貧困支援を行う草の根の活動家でありながら、それを政治に繋げようとするミクロからマクロへの運動をしているように見えたかららしいねん。著者と藤田さんとの対話で、日本のNPO活動の問題点が語られてるねんけど、単純に困っている人を助けたいという思いでミクロに活動をしているだけで、困った人が出ない社会に変えていこうというマクロな政治的理念が殆ど無いらしい。確かに自分の感覚でも、お金に困った人がいれば、生活保護を受給したらええし、体の機能が衰えて一人で暮らすのが困難になれば介護を受ければええやんで終わってしまって、この人が生活保護や介護を受けるに至った社会的要因を無くすまでは中々考えられへん。でも、「生活保護や介護を受けたとしても、その人の苦しさや厳しさが無くなるわけではない」って語ってて、納得させられた。
 著者の住むイギリスやったら社会活動家と言うと、政治的理念があって、具体的な行動に移るらしいねんけど、そこは、日本とイギリスの社会福祉にかかわる人間の養成課程の違いが大きいと分析してはるねん。
 イギリスでは保育士になる時でさえ、「法律がどういう経緯でできたのか」とか、「定められた対処方法の背景にある法的フレームワークを答えよ」とかを論文で回答せんとあかんらしいねんけど、そういうのがあるからミクロな日常からマクロな政治を見つめる視点が養成されるらしい。
 一方日本では、社会福祉士の資格の勉強でさえ、マクロなことを学ぶ機会はほとんど無いらしい。面接のやり方とか相手とのコミュニケーションの取り方とか現場のことがメインで、あくまでも現在の制度を前提として勉強させられるらしいわ。せやから日本でも、ソーシャルワーカーを目指すなら、制度批判とか社会学とかを学ばんとあかんっていう話。
 イギリスやったら緊縮財政になれば、福祉に回るお金が減って困る人が出るから反緊縮運動を福祉系の大学生が中心になってるねんて。やから、こういう海外の良い点は学ばないと、良い社会にはできひんなと思った。
 あと、印象的やった話が、「一億総中流という岩盤のイズム」。藤田さんのところに生活困窮で相談に来る人さえ、まだ自分は中流と考えてしまうほど、日本人には根付いてしまってるらしいわ。
 実際に内閣府の調査でも、9割以上の人が自分たちは中流と回答しているらしい。
 せやけど、日本の相対的貧困率はG7で2番目に高くて、15%以上もある。(ソース
 もはや、生活保護を受けてない限りは中流と考えているとかのレベルなんやろうなと思うわ。ワーキングプアに陥っている若者でさえ、非正規でも仕事があるだけましと考えてて、でも結婚とか子育てはお金があるエリートがすることって意識になっているそうで、ホンマにやばい。
 結婚して子供を産むって生き物としてめっちゃ当たり前のことやのに、それをできるのが選ばれし者だけとか、希望が無くなりすぎてて怖い。

 せやから、自分も物々交換のお店で草の根の活動をしながらも、政治的な視点は持ち続けて、問題の発生要因を無くしていく方向にも活動して、みんなが希望をもって笑顔で暮らせる社会を生み出せるよう努力していきたいと思った。


 とまあ、3人を紹介したけども、他にも色んな人が出てくるし、引っかかるとこは人それぞれやから、実際に読んでみることを強くオススメしますわ。
 他にも面白いこといっぱい書いているし。

 ほなまた、おもろい本があったら紹介するわ!

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