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9点【感想】貧困専業主婦(周燕飛)

オススメ度 9/10 (これまで殆ど調査のなかった貧困専業主婦について問題提起と解決策の提示を論文的に上手く著した本だから)

「100グラム58円の豚肉をまとめ買いするために自転車で30分をかける」「月100円の幼稚園のPTA会費を渋る」――勝ち組の象徴とも思われていた専業主婦の8人に1人が貧困に直面している。なぜ彼女らは、自ら働かない道を選択しているのか? 克明な調査をもとに研究者が分析した衝撃のレポート。
出版社HPより)

▷基本データ

(ひんこんせんぎょうしゅふ)

【著者等】
 周 燕飛
 (しゅう えんび)

【出版社・レーベル】
 新潮選書

【読む前の独断と偏見によるジャンル】
 またまた見たくない真実を書いている本

【その本を選んだ理由】
 貧困で図書館で検索して出てきた新しい本やから

【貸出日・購入日・もらった日】
 2020/11/25

▷この本から学べたこと

 この本は、200ページ程度のそんなに長くない本で一見ボリュームはない本やねんけど、著者が所属する厚生労働省のシンクタンク「独立行政法人労働政策研究・研修機構」が子育て世帯:4,000世帯(ふたり親・ひとり親各2,000世帯)を対象に2011年から2016年に行った「子育て世帯全国調査」(参考:2018年度最新版)という大規模調査をもとにして、他機関の調査結果やら著者独自の取材を加えてまとめた本やから、めっちゃ多くのことを学べてん!
 せやから、読者の皆さんにもお伝えします。

◎2011年調査において、専業主婦世帯の12%(8世帯に1世帯)が相対的貧困世帯だった。

◎日本においては、近年、共働きが進んだイメージがあり、2015年国勢調査でも、専業主婦世帯は37%しかいない。しかし、パート主婦を準専業主婦と見なすと、専業主婦と準専業主婦の世帯は全体の63%を占めており、子供が6歳未満に限ると74%にも上る。いわゆる「キャリア主婦」はまだまだ少数派
 2015年文部科学省白書でも、4歳児と5歳児の半数以上は幼稚園に通っていることもこれを裏付けしており、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という男女役割分業慣行は今も日本社会に深く根付いている

◎少子高齢化により労働人口が減っており、また、大卒男性標準労働者の生涯賃金は2014年度はピーク時の1996年の8割程度になっているにも関わらず、「専業主婦」モデルは健在であるため、個人と企業が相互利益を得られるような経済・雇用環境は過去の遺物となっている。

「専業主婦は裕福の象徴である」というイメージと異なり、専業主婦率が高いのは高収入世帯ではなく、低収入世帯。10階層に分けた時の最も収入の低いグループの専業主婦率が43%で最大。逆に「専業主婦は貧しさの象徴」とも言える。

「出産→退職して専業主婦に→3歳までは自宅保育→3~5歳までは幼稚園利用」という伝統的な専業主婦コースを選択することで、経済的困窮に陥る可能性がある。

◎貧困専業主婦の推定人口はパートの有効求人倍率の上昇に伴い、減少している。2011年調査では50万人を超えていたが、2016年調査では20万人強。しかし、不況になれば真っ先に雇用調整されるのはパートのため、「専業主婦」からパートに転身した貧困層の女性は元の「貧困専業主婦」に戻るリスクがある。

◎貧困専業主婦のうち、「今すぐ働きたい」と考えている者は20.7%しかおらず、自ら無職でいることを選択している者の割合が突出して高い。「そのうち働きたいが今は働けない」(65.2%)、「働きたいと思わない」(10.9%)、「働くことができない」(3.3%)で、これらの人は好景気による人手不足の恩恵に与れていない。実際のケースを見ると、こどもの病気、母親自身のメンタルヘルス問題、保育所の不足等による「やむを得ない理由」もある一方、「給料と保育料のアンバランス」、「自らの手で子育てをすることへのこだわり」などの理由で経済的には非効率な選択をしている女性もいる

「親の経済格差」が「子どもの格差」に連鎖するといわれており、「食」、「健康」、「子供へのケア」、「教育」の格差がみられる。
「食」:貧困専業主婦世帯の5人に1人が必要な食料を買えないことがあった。(非貧困専業主婦世帯では、30人に1人)
「健康」:6人に1人は子どもが「軽い持病」あるいは「重病・難病・障害」を抱えている。(非貧困専業主婦世帯では、15人に1人)
「子供へのケア」:10人に1人は「行き過ぎた体罰」や「育児放棄」などの何らかの虐待行為を行った。(非貧困専業主婦世帯では、15人に1人)
「教育」:2人に1人はこどもの習い事・塾代の支出がない。(非貧困専業主婦世帯では、4人に1人)。小6の算数の学力平均値も5万円以上出費する世帯が78.4点であるのに対し、0円出費する世帯は35.3点しかない。
 特に教育の格差は子どもの未来を左右する半永続的なものであるため、負の影響を及ぼす可能性が高い

◎「母親の就業は、未就学の子供に良くない影響を与える」という考えに「賛成」あるいは「まあ賛成」という意見を持つ保護者は、母親では37%、父親では58%にも上り、経済状況が多少苦しくても、専業主婦でいる方が「子どものため」になるという考えを持つ日本人はいまだに少なくない
 一方、貧困家庭で育てられている子どもに限れば、保育所を利用していた子どもは総じて「健康状態が良くない子供」が少なく、「授業が分からない子供」の割合が低くなるとわかっており、貧困/低収入家庭においては保育所に通うことが、中長期的に何らかのポジティブな影響を与えている可能性がある。(ただし、非貧困家庭の子供には保育所の影響は見えない。)
 東京大学・山口慎太郎准教授らの研究では、保育所に通うことは、恵まれない家庭に育つ子供の多動性・攻撃性傾向を減らし、母親の「しつけの質」を高める効果もあると示唆されている。

子育てがひと段落したら仕事に復帰したいと考える専業主婦は多いが理想と現実には大きなギャップがある。子供が7歳以上ならば、93%の専業主婦が復帰したいと考えるが、現実は77%しかなく、高齢出産者に限れば、52%しかない。
 また、ハイスペックな女性ほど仕事復帰の道が険しい。主婦の再就職と言えば、非正規の低賃金労働が一般的となるため、「留保賃金」(自身にとって仕事を受託してもよい最低賃金)を満たす仕事が殆ど無い。日本の「新規学卒一括採用」の慣習もこの状況に拍車をかけている。

退職したこと後悔する専業主婦も多い。リクルートワークス研究所の調査では4割、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査では2割5分の女性が出産などで一時離職したことを後悔している。後悔の理由としては「経済的に厳しくなった」、「再就職をしたが、希望の仕事に就けなかったり、就労条件が悪くなったりした」が多く挙げられている。
 実際に、ずっと正社員と仕事復帰した場合を生涯賃金・退職金・公的年金で比較すると、高卒で約1億1千万円、大卒・大学院卒で約2億円もの収入格差が生じる

◎とは言え、離職を後悔していない(専業主婦であることが幸福と考える)人の割合の方が高いのは事実であり、専業主婦全体では3人に2人は「幸せ」と感じており、2人に1人が「幸せ」と感じている働く女性よりも割合は高い。また、貧困専業主婦ですら3人に1人は「幸せ」と感じている。他にも国際的にみた場合、日本はニュージーランドに次いで専業主婦の幸福度が高い国となっている。理由としては日本人は「個人軸」よりも「世帯軸」で「幸せ」を感じることと考えられるが、夫の収入が専業主婦の幸福度に影響を与えているとは考えにくいデータがある。
 また、貧困専業主婦の場合、子どもの健康状態や夫婦仲が良いと高い幸福を感じている傾向がある。
 ただし、貧困専業主婦が感じる「幸せ」は過去の「不幸せ」(社会人時代に厳しい職場にいたり、シングルマザーであったりした場合など)より良くなっているからに過ぎず、客観的にみると「不幸せ」である可能性もある。

◎集計結果では7割以上の貧困専業主婦が「子育てに専念したい」などの自己都合により、就業していないが、この理由は行動経済学的には市場賃金が留保賃金を下回るため、就業しないと説明できる。
 実態として、貧困専業主婦は学歴・社会人経験や資格などの人的資本が低かったり、健康上の問題を抱えている人も多い傾向があるため、市場賃金が低くなる。また、家庭内でも病児や障害児や複数児、低年齢児の面倒を見るなど市場価値の高い育児活動をしていることが多いため、留保賃金が高くなる。

◎就労すると援助が打ち切られてかえって生活が苦しくなるため、貧困から自立しようとしない状態である「貧困の罠」と同様の「制度上の罠」があるため、専業主婦を選択してしまう。
 具体的には、税制度においては、配偶者控除による税制優遇。社会保障制度においては第3号被保険者による年金や健康保険料の支払免除。企業等の配偶者手当の支給条件の多くがいまだに年収103万円以下。
 就業を継続した場合と比べ、生涯においては、億単位の損失があるが、この損失は見えにくく、離職した場合は、これらの制度により、得をするように感じてしまう。
 また、離婚障壁の存在も経済的に弱い専業主婦を守っている面があるが、同時に脱専業主婦の障壁ともなっている。

 ◎貧困専業主婦は「欠乏の罠」にもかかっている。お金の欠乏により時間が欠乏し、人付き合いという社会関係も欠乏し、情報が欠乏し、それが更なるお金の欠乏を産むという悪循環にはまっている。様々な欠乏に囲まれると新しいことに関わる余力が不足しがちになり計画力が無くなり、長期的に考えられなくなり、行動面の失敗を招いてしまう。

行動経済学的には、賢く選択することが難しいシチュエーションがあるとされており、それは、①後払い式のコスト構造、②難解さ、③低頻度、④フィードバックの欠如、⑤選択肢への不理解が挙げられる
 専業主婦の選択時もこれに当てはまる。①生涯賃金の低下、②再就職時に希望通りの仕事が見つかりにくいことを退職時には考慮できないこと、③退職を経験する回数はそれほど多くないこと、④就業継続した場合も退職した場合も事前に知ることができないこと、⑤自身や身の回りに保育園を利用している人がいないことなど。
 そのため、第三者(行政)により個人における選択の自由を尊重しつつ、情報などを提供して国民を賢い選択へと”軽く誘導すること(ナッジ)”が望ましい

ナッジには、①インセンティブの活用、②マッピング知識の付与、③デフォルトの設定、④フィードバックの提供、⑤エラーの予期、⑥複雑な選択の構造化 という大原則が有用とされており、これを女性就労選択に生かす必要がある。またナッジする際は、①限定合理性、②誘惑に弱い、③流されやすいという人間の心理性にも注意が必要

▷感想

 学んだことってのが、ほぼ、本の要約みたいになってしまってんけど、日本においては、やっぱり専業主婦という労働資源を十分に生かせない状態にあると感じてるから、著者の言うように、就労を促した方が、本人にとっても貧困脱出につながるし、社会全体にとっても良いことかなって感じた。

 まあ、働きたくない人を無理やり働かせると本人にとっても良くないし、職場にとっても良くないと個人的には思うから、本人の意思を尊重しつつ軽く誘導した方が良いっていう著者の考え方にも共感できたわ。

 とにかく貧困になって困る人が少しでも減ったら良い社会になっていくと思うので、この方の提言どおりに行政が変わっていて欲しいと思ったわ。

 著者も言うてるねんけど、そのためには、敗者復活が難しい新卒一括採用主義という日本の労働市場のくだらん伝統も無くしたり、子育てのために時短勤務を認めるとかの制度改正も必要やと思った。

 それから、本の書き方についても、調査結果とかの出典元をきちんと明記しているし、ただの集計データだけでなく、個人への聞き取り調査とかも行ってるみたいで、生の声を聴きつつ書いてるから、内容も理解しやすいし、信頼もおけるしで、オススメの本です。

 おもろい本とかあったらまた、紹介します。ほなさいなら!

 

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