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米国流の新世代経営者に期待 鍵は「ニッポンーラインラント型」組織文化の打破

近年、外資系企業で活躍してきた方や、海外で活躍する日本人が日本企業に招聘され、経営陣に入ることが増えているようだ。以下の記事では、日本オラクル副社長からイトーキ社長への転身、米Google副社長からパナソニック執行役員への転身などが取り上げられている。

こうした外資系企業経由の日本企業役員の多くは留学経験者のようだ。典型的には米国の大学でMBAを取り、外資系企業での活躍が評価され、日本企業の経営層に招かれるというパターンのようである。

米国流経営が求められる背景

もともと彼ら・彼女らを留学に送り出したのは、日本の大企業や官庁であることも多く、それらの組織でうまく活躍の場を作れなかったことは大いに反省すべきだろう。その一方で、人によってはやはり出身企業の器に収まり切れない人もいるだろうし、外に出て活躍の場を求めるのは当然とも言える。

こうした人材の流動は日本社会全体としては大いにメリットがある。日本の大企業が「留学経験者が辞めてしまう」ことを理由に留学支援を縮小することがないようにと願うばかりである。

こうした米国流の経営を体得した人材を日本企業が招くのは、グローバルな視点で自社の置かれた状況を客観的に見れる視点を持ち、環境変化に大胆に対応し、事業転換をリードできる能力を期待されてのことであろう。外部からの人材の方が自社の状況を客観的に見やすい場合もあるだろうし、過去のしがらみを気にせず、大胆な構造改革をやりやすいという場合もあるかもしれない。

多くの日本企業に求めらえているのは、まさにこうした自社の立場をグローバルな視点で自社の状況を把握し、大胆に環境変化への対応をリードできる人材である。こうした人材の流動がより多くの分野で進んでいくことは、非常に意義がある。

2つのコーポレートガバナンス

ところで、世界には2種類のコーポレートガバナンスがある(そのような分け方がある)ということをご存知だろうか。一つが「アングロ―サクソン型」であり、もう一つが「ニッポンーラインラント型」である(下図)。

アングローサクソンはいわゆる英米型の企業を指し、個人による企業所有、資本の効率的な利用、短期主義などが特徴として挙げられる。

ニッポンーラインラントは日本やドイツに見られる形態であり、企業による株式持ち合い、経営の訓練を受けたエンジニアによる経営、研究開発の重視などが特徴とされる。

2種類のコーポレートガバナンス(*1)

特に米国企業の経験者が経営層として招かれる背景には、現代の経営環境においてはアングロ―サクソン型の経営に有利な面があるからだろう。

ニッポンーラインラント型は、配当より研究開発を重視する点が強みであるが、先行きの見えない中、研究開発投資は従来ほどの効果は出ていないかもしれない。インクリメンタルなイノベーションが全盛の時代は、同じ目標に向かって(例えば燃費の向上など)研究開発投資を行えば、それに見合ったリターンを得ることができた。

しかし、テクノロジーの面でも、社会課題の面でも急速な変化が起きている時代、研究開発投資は上手く方向づけしなければ、間違った方向に大量の投資を行うことになりかねない。研究開発は、過去の取り組みを流行り言葉に紐づけて延長させる形で予算獲得が行われる場合も多いのではないだろうか。ボトムアップだけでなく、トップダウンの研究開発も必要であり、そのような目利きを行うことも経営層に求められている。

研究開発といえば、Googleの「20%ルール」が良く知られている。財務上のR&Dには限られないが、本来業務以外に、勤務時間の20%を新規事業に充てて良いというルールである。ただ、Googleの120ほどのプロダクトラインナップの中で、ヒット作になったものの多くはYouTubeをはじめ、M&Aで獲得したものであるという指摘もある(*2)。M&Aは資本の効率性を重視する、アングロ―サクソン型の経営が得意とするところだ。

新しい経営スタイルの構築へ

アングロ―サクソン型の外資系企業で経験を積んだ人材が日本企業の経営に参画することは、不確実性で変化の速い時代において時宜にかなっており、大いに期待したい。その一方で、組織のガバナンス構造はそれぞれの企業の隅々にまで浸透している。経営層だけが変わっても、その組織文化やガバナンス制度と合っているか、あるいは隅々まで変化を浸透させることができるかが課題であろう。

特に、近年の大企業はカンパニー制などを導入し、事業会社に独立性を持たせる場合が多い。それがかえってグループ全体の変革を浸透させるうえで阻害要因となる可能性もある。また、新しい取り組みを行うなら、何かをやめることも必要だ。そうでなければ、組織は際限なく肥大化してしまい、変革を維持できず結局はもとの経路に戻ることになってしまう。

とはいえ、こうした動きは新しい日本企業の姿を作る第一歩である。アングロ―サクソン型でもなく、ニッポンーラインラント型でもない、新しい経営スタイルが作られていく第一歩として、今後の展開に期待したい。


*1,2: Tidd and Bessant (2021) Managing Innovationによる。


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