見出し画像

「地域ブランディング」について改めて考えてみる

公務員からWeb広告代理店へと転職し、マーケティングについて深く関わるようになりました。その中で、「地域のブランド化」や「ブランド商品」というものについて、前職ではいかにあいまいな捉え方をしていたのだろう、と反省することが多々あります。

転職して得た知見をもとに、今回は地域をブランディングするとはどういうことなのか、改めて考えてみました。

そもそもブランドとは何なのか

地域を盛り上げる、活性化させるための手段として、よくブランドという言葉が取り上げられます。ブランド野菜とかブランド商品、地域にある○○を使ったブランディング、などと言われることがありますが、そもそもブランドとは何なのでしょうか。

Wikipedia先生によれば、ブランドとは

ある財・サービスを、他の同カテゴリーの財やサービスと区別するためのあらゆる概念。当該財サービス(それらに関してのあらゆる情報発信点を含む)と消費者の接触点(タッチポイントまたはコンタクトポイント)で接する当該財サービスのあらゆる角度からの情報と、それらを伝達するメディア特性、消費者の経験、意思思想なども加味され、結果として消費者の中で当該財サービスに対して出来上がるイメージ総体。

とされています。ちょっと難しいですが、ある商品やサービスの名前やロゴ、デザインなどの構成要素(ブランド要素)と、それらが一人ひとりの中に作り出す「ある特定のイメージ」をまとめてブランドと呼ぶことができるでしょう。

ブランド品という言葉があるように、特に高級なものを指す概念だと解釈されることもあります(狭義のブランド)。"星野リゾート"や"フェラーリ"などと聞けば、いかにも高価で格調高い印象を抱きますよね。

ですが、必ずしも高級品だけを指すのではなく、たとえ安価であってもブランドという概念は成立します。「百均のお店と言えば?」「ハンバーガー屋さんと言えば?」と問われたとき、あなたの頭には特定の企業名が浮かんでくることでしょう。

それがブランドのもつ力です。ブランド化によって、人々の中にある特定のイメージを抱かせることができるのです。このブランドを生み出す活動をブランディングと言います。

その最大のメリットは、無数の類似品がある中で「それ」が選ばれる理由となることに他なりません。

地方自治体がそれぞれブランディングに力を入れるのも当然のことです。移住施策ひとつをとってみても、地域のブランド力が結果に大きな差を生み出すことは想像に難くないはず。見ず知らずの田舎町と、認知が広く印象もよい田舎町、どちらがより選ばれやすいか、結果は現状が示しています。

地域のブランドは何によって作られる?

では、どのようにブランドを作り上げていけばよいのでしょうか? 観光のPRにお金をかける? 特別な商品を開発する? ファンのコミュニティを醸成する? 

どれも確かにひとつの手段ではありますが、それぞれの活動が独立していては意味がありません。ブランドは一朝一夕にできるものではなく、また単純な構造でもないため、闇雲な施策はコストを浪費するばかりです。

ブランドを作り上げるには、第一にブランド戦略が欠かせません。

民間企業では、ブランド戦略は企業理念の直下に位置づけられるべき概念です。営業や商品開発といった事業戦略のほか、人事戦略や財務戦略など、あらゆる企業活動の”芯”となるものがブランド戦略です。

自治体においても同様のことが言えます。「ここはどういう町(市・村)で、どのような魅力があり、どのような生活を送れるのか」という、その自治体ならではのアイデンティティと強く関連付けられている必要があります。

自治体におけるブランド戦略とは、移住定住だけでなく子育てや高齢者支援、農林業振興に始まり、インフラから医療に至るまで、あらゆる行政サービスの指針となりうるものです。

したがって、PR活動や移住施策というのは、地域ブランディングのほんの一部にすぎません。子育て施策や医療体制の充実、地域内コミュニケーションの活性化、各種インフラの整備など、住民に対するすべての活動が、その自治体のブランドを構成する要素となっています。

それだけではありません。ブランディングのキーとなるのは、情報やサービスの受け手の存在です。

よくある地域ブランディングの失敗は、行政側の企画ばかりが先行して結果が伴わないことです。住民の同意や協力が得られなかったり、成果指標も設定しないまま「まずはやってみる」状態が続き、施策が形骸化することが(悲しいことに)多々あります。

ブランドは、「受け手の中に醸成されるもの」です。極端な話、いくら「住みやすく最高の場所です!」と行政が宣伝しても、当の住人や移住者がまったくそう感じていないのであれば、その地域のブランドに「住みよい場所」というイメージは定着しないでしょう。

地域住民の理解、協力があってこそ、内外に向けたブランディングは功を奏すると言えます。

自治体がブランディングを実践するには?

一般論をつらつらと述べてきましたが、ではどのように実践するべきなのでしょうか。これは施策によって大きく異なってきますが、どの施策にも共通するのは「ターゲット」と「目標」を明確化することだと考えます。

プロダクトを開発する際には、「誰の、どのような悩み(ペイン)を解決するか」という課題設定が成功か失敗かの大部分を決める、とも言われます。だからこそ世の中の起業家や新規事業の開発者は、このペインの洗い出しに大変苦心するわけです。

ところが行政側は、基本的にこのペインありきで事業を考えます。
「子育て世帯の家計の負担が大きいから保育料を無償化しよう」
「道が老朽化して危険だから補修しよう」
「イノシシの被害が深刻だから柵の補助をしよう」
などという施策は、ターゲットと解決すべきペインがあらかじめ明らかだからこそ、基本的には「失敗」とされづらい傾向にあります。

ですが、時折「あれは明らかに失敗だった」と評されてしまうことがあります。そのようなケースは、往々にしてターゲットまたはペインが明確でないまま施策を走らせてしまった場合ではないでしょうか。

ブランド戦略の項でも書いたとおり、受け手側への考えなしにブランディングは成功しません。PRにしろ観光施策にしろ、まずは「誰」をターゲットとするのか、具体化するところから始めてみましょう。

それと併せて、その施策によって何を成し遂げたいのか、という目標の設定を欠かしてはいけません。「まずはやること」を目指すのは大変すばらしいことなのですが、目標なしに見切り発車をすれば、やがて「まずは」が消滅して、ただ「やること」だけが残ってしまいます。

できるだけ具体的な、可能であれば数値化された目標を設定することで、PDCAを回すことができます。ただ「やること」の罠にハマらず、目標の達成に向けて施策をアップグレードできるわけです。

ターゲットと目標の設定によって、地域ブランディングのみならず多くの施策立案の解像度がぐっと上がるのではないでしょうか。


今回は表面的な話ばかりになってしまいましたが、参考になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?