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ヒーローになりたかった少年の唄2021⑨


無料の幸せ

貧乏な家に生まれるということはなにより不幸せなことで、生まれてくる環境を選べない子供にとって、物心ついて一番最初にトラウマになるのがこの「ウチには金がない」という事実だったりする。

他の家の子がみんな持ってるものを自分は買ってもらえないというのは、子供にとっては本当に悲しく辛い経験で、哀れな自分の環境を呪い、それが元でグレてしまったり盗みや暴力をはけ口にするようになってしまう子が多いことは、ある意味仕方のないことだと思う。

しかし、50歳も目前になった今の僕は「ああ、ウチが貧乏でよかった」と心底思えている。

「貧乏」こそが人間の脳を活性化し、ここにあるものでなんとかやり過ごすための知恵をつける重要なファクターだということが、長く生きていけばいくほどわかってくるのだ。

子供の頃僕は釣りが大好きだった。

住んでいたところから15キロほど離れた用宗の漁港や、山を超えて20キロくらい離れた焼津の魚港まで、エッチラオッチラ自転車でよく釣りに行った。

家の近くにも安倍川という大きな川があったし、市内の海岸にもキスやハゼなどのポイントになる砂浜があったが、川の魚は食っても美味くないし、鮎なんかは獲っていると許可証を出せとか密漁だとか言われるし、一番近い大浜海岸は遠投しなければ釣りにならず、それには大きな竿やリールが必要であり、そんなものを買う金はないのだ。

漁港の防波堤での釣りは、なんせ金がかからないし、食える美味い魚がタダで手に入る。

当時は、海沿いに住む普通の主婦が自転車で買い物に行くついでに漁港に寄り、小さな竿にサビキという疑似餌をつけた糸を海に垂らしてそのまま買い物に行って、帰りに釣り針にくっついた魚を引き上げて持ち帰り、晩御飯にそれが出るなんていう風習すらあって、小さなアジやらサバ、イワシ、コハダ、コノシロなんかはいくらでも釣れた。

釣り人の数も多く、休みの日には堤防がいっぱいになるほど釣り人が集まる。

マナーの悪い釣り人も多く、切れた糸や仕掛け、浮きに重り、時にはバケツや竿までそこいらに捨てっぱなしで帰るため、魚を釣るための道具は探せば無料でいくらでも落ちているのだ。

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僕らは手ぶらで漁港に行って捨ててある使えそうな道具を探し出し、丁寧にからんだ糸をほどいて再利用する。

上物があったときにはちゃんと隠し場所に隠しておいて、いつでも使えるようにメンテナンスまでしておくのだ。

餌は砂浜の岩をひっくりかえせば、気味の悪いミミズ的な生物がうじゃうじゃいて、魚たちはそんな虫を主食として喜んで食うので、完全無料でいくらでも釣りが楽しめる。

釣った獲物は落ちている棒きれにぶっ刺して、焚き火の上で焼いて食う。

時にはタコやイカ、大きなカニやらでっかい貝も獲れて、バーベキューの奴らが捨てていった金網で焼いたり、空き缶なんかでグツグツ煮て食う。

これがまた、トムソーヤにでもなった気分で最高にうまいのだ。

でも海に上がってきたボラなんかはかなり臭くて、お世辞にもうまくなかったなぁ(笑)

まぁ、今の親たちが見たら、食中毒で死ぬんじゃないかと青くなるようなことを僕らは毎週のようにやっていた。


ここ何年か、台風や大雨の洪水で今住んでいる千葉の田舎が大打撃を受け、浸水のあとに、水に浸かった家具や日用品が道端に大量に捨ててある光景を見た。

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当然まだまだ洗えば使えるものだらけだし、家電製品だってちょっと修理したら新品同様になるものもたくさんあって、僕から見たらそれは宝の山以外のなにものでもなかった。

アフリカあたりのなんの財産もなく、飢餓で苦しむ人々がこれを見たらどう思うのだろう。

さすがに「勝手に持っていくことは犯罪だ」と言われたので持っていくことはしなかったが、あの頃の僕たちだったらどこかの隠れ家にみんな持っていって、直して売って大金持ちになったかもしれない。

僕が今住んでいるのは築130年という古民家で、お化け屋敷のような状態の古民家を2年かけて自力でリフォームして、そこでヴィーガン(完全菜食)のレストランをやっているんだが、これもきっと少年時代のあの経験がなかったら成し得なかったことだと思う。

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エコロジーとかいう言葉では説明できない、再生利用の魅力をたぶん僕は他の人よりたくさん経験してきたと思う。
今でも、洋服はほとんどハードオフでしか買わないし、車はずっと中古車で、色は自分で好きな色に吹付け塗装する。

飽食の時代、バブルな物質社会はもうそろそろ終焉を迎えようとしている。都会では若者が仕事にあぶれてホームレス同然の生活をしているという話をよく聞く。

今の子供達には、お金も道具もなにもない中でなんとか自力で生きていく力をつけていってもらいたい。

田舎の大自然の中には、今でも食うものがタダでいくらでも手に入る環境がしっかり残っているのだ。

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