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アンチ・ユートピアの片隅と熱ーthe twenties愛媛松山公演に想うこと

世界に蔓延るウイルスのおかげで、ただでさえ人熱れの途絶えた片田舎の繁華街からは次々と街の灯りが消える。皆それぞれ必死に足掻いてみせるけれど、この夜の街はそれでも緩やかに荒廃していく。私たちが昨今のフィクションで耳にしてきた言葉のイメージから思い描く光景とは、少し趣が異なるものの。それでもその景色は、紛うことなく一種のディストピアなんだと思う。
築数十年は経つであろう薄汚れて煤けたビルの壁と階段。天井を這う剥き出しになったぼろの鉄骨とパイプ。壁一面に塗られた白いペンキは、壁に浮き出るコンクリートブロックの跡を全くもって綺麗には隠しきれないでいる。
所々埃を被った、お世辞にもピカピカとは言えない一地方の小さなライブバー。けれどまさしく、そんな世界の最果ての片隅で豪雷のように鳴り響くからこそ。あの日のthe twentiesの音は、それはそれはこの場所によく映える音楽だった。

アルバム『NASTY』のリリースを記念して行われた、the twentiesワンマンツアー。4公演目となる愛媛県松山市Bar Caezarでのライブは、最新作に収録の『EXIT』『LIFE WILL SEE YOU NOW』で幕を開けた。続いて彼らのステージでは恒例のザ・スターリンのカヴァー『ロマンチスト』に、『Keiki hAppy』『追憶ダンス』と怒涛のダンサブルナンバーを繰り広げてゆく。
この日の公演は感染症対策の一環として、従来の箱のキャパの約3分の1の観客数を天井としてフロアが開放されていた。
客席に居る人数は、確かに目視で十分その数を数えられる程度のみ。それでもバンドの放つシューゲイズな轟音はそんなことお構いなしに建物の鉄筋をびりびりと震わせて、フロアの床を踏みしめる私たちの脚を伝い体内の臓物を無理くりに揺さぶる。けれどその衝撃は同時に、私たちに「音楽の鳴る場所へやっと帰ってきた」という、何物にも変え難いくらいの実感を感じさせる感覚でもあった。

ライブは中盤に差し掛かり、『00:01』『201』『stay gold』とバンドのミドルテンポナンバーのフェーズへ。けっして業火でこそないものの、じりじりと灼けつくような炎でこちらを着実に炙ったのも束の間。暫しの曲間を挟み『Come!!』『Music』で再び徐々に火力を増した後、『+PUS』『夏響』を連続で畳みかけアルバム『NASTY』の世界観をこちらに垣間見せることも忘れない。
「こんな時にここに来てるってことは、本当に音楽が好きな奴らなんですね」とフロアを煽るタカイリョウ。トレードマークの長髪にオーバーサイズのパーカーのフードを目深に被ったまま、「f**k you」と中指を客席に立てながらも。僅かに見えた口元はまるで誰かに真っ直ぐな好意を伝えるかの如く、嬉しげに照れ臭そうな笑みを確かに浮かべていた。

ライブは『TETORApod』からいよいよ終盤へ。『fire』『LET IT DIE』『Spit』でこちらのボルテージを着実に上げていき、アルバムのファーストナンバーである『Last Nite』でフロアは今宵の頂点に到達。
鉄柵や鉄枠こそないものの、これもまた感染症対策と称してステージと客席を区切る透明なビニールシートの向こう側でハンドマイクを掲げ「松山ー!!」と咆哮を上げるタカイ。観客席は半ばから後方にかけて、ご機嫌なドランカーが皆一様にサイケなサウンドと照明の光が舞い散る中で踊り狂う。
退廃的、なれど美しい。彼らの音楽だからこそ巻き起こる人の熱が渦巻いた、確かなアンチ・ユートピアの景色がそこにはあった。
ハードでエッジの聞いた『KABI』で本編を終え、アンコールには1曲目に『荊棘』。そしてこれまで幾度も訪れた松山の地に、彼らが初めて訪れた際に1番最初に演奏した曲『Sunday』。全23曲を以て、この日のthe twentiesのパフォーマンスは無事大団円を迎えることとなった。

「こんな時にここにいてくれてありがとう」と、ビニールシート越しの目の前のオーディエンスにタカイは呼びかける。「東京でなく地方の街でこうして待ってくれている人がいるからこそ、僕らはアルバムを作ってここに来ることができる」とはギターのウルルンの言である。
これまで数多くのアーティストが口にしてきたその言葉は、この世界の片隅の退廃感すら漂うような今宵の場に在るからこそ。血潮の通う1人のミュージシャンの言葉として、その場に幸運にも居合わせることができたたった数十名の観客にもきちんと届く。
大都会には到底及ばないマイノリティの片田舎の、さらに街中を歩く大半の人が気にも止めないような寂れたビルの3Fフロアにある小箱のライブバー。
この夜都会に住む人々が、この街に住む大半の人々が、週のど真ん中の平日の一夜に何をしていたかは知らないけれど。未だ全国を予断の許さないムードが覆う中、音を鳴らしそれを楽しむ、ヒトという生き物の純然たるマイノリティな娯楽の営みは。それでもこの日、確かにここには存在していた。

【「そんな綺麗な世の中じゃないさ
好きなだけワガママに生きればいい」】
—fire/the twenties より

演奏の中、ふとその歌詞が確かな輪郭を以て私の耳に届く。
今のご時世、どんな行動を取ったとしても誰にも絶対の正解などない。
どれだけ万全の感染症対策を仮に行っていたとしても。この場所を未だ訪れたことのないマジョリティの人々には、音楽の場はきっとまだまだ煙たい顔をされ続ける。感染症の出所を逐一全力で特定しようとする、こんな一地方の片田舎であれば尚更。
その中でもきっと私たちは、それでも音楽を愛する人たちは。もうすでに徐々に変貌を遂げつつあるリアルなディストピアの片隅で、毎夜愉快そうに声を上げて笑い合う。
フロアに鳴り響く爆音に合わせて、ご機嫌に身体を揺らして踊り狂い。今宵もワンコインの缶ビールを、ゆるゆると自分のペースで傾けながら。

the twenties NASTY RELEASE ONEMAN TOUR 2021
03/03@松山Bar Caezar SET LIST
1.EXIT
2.LIFE WILL SEE YOU NOW
3.ロマンチスト
4.Keiki hAppy
5.追憶ダンス
6.Palm
7.R.E.D
8.00:01
9.201
10.Stay Gold
11.Come!!
12.Music
13.カフェ・オ・レ
14.+PUS
15.夏響
16.TETORApod
17.fire
18.LET IT DIE
19.Spit
20.Last Nite
21.KABI
en1.荊棘
en2.Sunday