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「気分じゃないの」


私は宇多田ヒカルのファンである。
生粋のファンである。
どのくらいファンだ、とか
どれくらいお金を使った、
とか言うつもりはないが
彼女の言葉で紡がれた、
点と線を読み込むほどには大好きだった。

私は彼女がデビューしたAutomaticから
もちろん知っていたが
当時は「かっこいいお姉さんが現れたな」
くらいだった。
First Loveは、今でもそんなに聞かない。

そんな私が彼女の虜になったのは
Wait and see からである。

「キーが高すぎるなら下げてもいいよ
歌は変わらない強さ持ってる
悩みなんて一つの通過点
大きすぎるブレスレットのようにするり」

と言う歌詞が、その視点の新しさと
ショートカットと
ヘルシービューティーなチューブトップと
相俟って、可愛すぎて射抜かれたような
気持ちだった。

その後、「Traveling」で
その好き度は限界に達し、
一生ついていく対象となった。
あのMVは、未だに日本一可愛いMVだと思う。

宇多田ヒカルの歌詞は時に難解だ。
彼女自身非常に読書家であり、
おまけに英語も日本語も読めるのだから、
多言語で事象を言い著し、
思いを曲に乗せている。

その複雑さが心地いいのだが
たまに理解できない部分などがある

その場合、私は他の人が書いて
ネットに上げてる考察を読んで
「そう言う意味だったのか」と
感嘆する。

今回、タイトルは「ロエベの財布」。
勘の良い方でないとしても
ロエベの財布と宇多田ヒカルといえば
「気分じゃないの」のことだと
お分かりになるだろう。

私が今回「気分じゃないの」に
対してnoteを書こうと思ったのは
同じような感想の人がいなかったからだ。

私はこの曲を聞く前に先に歌詞を読んだ。
CDを購入すると、先に歌詞を読んでしまう。

宇多田ヒカルが描く、イギリスの昼から夕に
かけての情景が、手に取るように分かる歌詞だ。

恐らくご子息が学校か、出かけている時間帯。
寒い、クリスマス後のイギリス。

イギリスは屋内喫煙が全面禁煙なので
恐らくテラス席で、屋外。
もしくは彼女自身も喫煙席に
座っていたのだろうか。
ウィスキー好きな彼女は
スコッチを飲んでいて
そこに現れる人々。

そこに現れるクリアファイルを持った人。
私は、この詩を初めて読んだとき、
帽子を被った、背の高い、やせ型の
ひげが生えた男性を思い浮かべた。

「ホームレスなんだろうな
どんなポエムを書くのだろう」
と思った。

そして、やっと「気分じゃないの」の
順番になり、楽曲を聴いた。

どことなくアンニュイ、でも落ち着いた
それでいて近代的なサウンドを織り交ぜ
なんて心地いいんだと
彼女の声に身を委ねて

いたら

「私のポエム買ってくれませんか」
を聴いた瞬間、私の最初のイメージが
ぶっ壊れた。

クリアファイルを持った人、
女性じゃないか!!!!!!!
と。

自分のホームレス=男性という
古臭い概念に驚いた。

だが、別に宇多田ヒカルは
クリアファイルを持った人を男女に
限定していない。
しかし、彼女は女性パート部分を、
少し高く歌うケースが多い。
男のパートは低く歌うし、
中性のパートはほんとに中音(ってある?)
くらいで歌う。

あの歌詞部分を高音にしたのは、
クリアファイルを持った人が
女性だったからなのではないか。

そして高級品であるロエベの財布から
お札を出した。
きっと小銭ではなく、
50ポンド札だったのではないかと
勝手に推測する。

彼女が少しの間、シェルターに泊まって
身を守れるのに十分なほどの額。

このシェルターというのは
イギリスではDVの夫婦だったり
国際結婚に失敗したり
家庭内暴力等によって
行き場を失った人が行くことが多い。

そんな行き場のない
恐らくは身に着けているものもボロボロで
なんとか生き抜いているような女性に、
高級品であるロエベの財布から
お札を出すという状況を
歌詞にすることで
格差社会や社会問題を
暗に提案している


わけではなく


恐らく、本当に、ただそこにあった
事実を、言葉で書き
メロディーに乗せたのが
この「気分じゃないの」なんだと思う。

そんな格差社会とか
そういうものは分かり切って
ほとほと呆れていて
そこで少しでも女性を救えたかもしれない
さわやかな気持ちか
罪悪感か
彼女が何を思ったのかなど
到底私みたいな平凡な人間にはわからないが

とにかく、その時は、雨の気分じゃないから
「どっかいけ」と思った

という歌詞なのだろう。

彼女自身は雨も好きだろうから
「今日は気分じゃないの」
と、たまには雨が降ってもいいと
思っているところが
雨に対する配慮があって可愛いな
と思った(多分違う)。

めっちゃいい曲でした。だいすき。
(できた)


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