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今注目のリベラルアーツ!ビジネスに取り入れる意義ってなに?


リベラルアーツという概念を聞いたことはあるかもしれませんが、中身についてあまり理解していない人もいるでしょう。名称にリベラル=自由と付いているために、意識の高いビジネスパーソンが学んでいるスキルのように思えて、自分には関係なさそうに感じる方もいるかもしれません。

しかし、リベラルアーツは誰でも学べる学問であり、将来の見通しが立ちにくい現代のビジネス環境では、取り入れる価値が非常に高いものです。

現代の人々は、学校教育で「決まった正解」が存在するテストや課題問題を解き続けたことで、物事には必ず正解があるということに縛られている場合があります。しかし、実際の社会では「決まった正解のない問題」が溢れており、それに対処するためには学校で身についた問題解決能力だけでは不十分なのです。

大学の論文やビジネスにおける大部分は「確定的な解」が存在し、問題や課題はAIが方法論を提供してくれますが、現代の複雑なビジネスの課題や問題に対処するには、AIだけでは難しいでしょう。

リベラルアーツは、上記のような問題の定義が複雑で、解決策が複数存在し、不確実性に満ちた壁が立ちはだかった際に、自由な発想や柔軟な視点によって壁を切り抜け、ビジネスを展開するための手段を学ぶ学問です。

今回は、リベラルアーツの起源を紐解き、そこから現代のビジネスパーソンがリベラルアーツを学ぶ意義を見出していきます。


リベラルアーツとは

以上のように、社会は時代・地域・宗教・民族に応じて変化し、人々の考え方や生き方も時代や国によって異なります。このような多様化する社会の中で、他者を尊重しながら自分の意見や立場を明確にし、他者を排除したり否定したりせずに、共存していく姿勢を養う学問がリベラルアーツです。

つまり、リベラルアーツは知識を習得するだけでなく、多様で複雑な実社会に柔軟に対応するための知恵やスキルを学ぶことを主とする実践的な学問と言えます。

リベラルアーツの起源

リベラルアーツの起源は、古代ギリシャ・ローマ時代まで遡ります。ローマ時代には「自由7科」と呼ばれる学問が存在し、「文法」「修辞」「弁証」「算術」「幾何」「天文」「音楽」の7つが学ばれていました。現代のリベラルアーツにも共通している要素はありますが、ローマ時代において「自由7科」を学ぶことは教養を広げる目的ではなく、むしろ感性を豊かにすることを意図した学問だったと言えます。

「感性を広げる」という目的は現代のリベラルアーツにも引き継がれており、特に「美学」「音楽」などは教養だけでなく、感性を研ぎ澄ませる学問として存在しています。また、現代のリベラルアーツで学ぶ学問の中でも「文法」「法律」「算術」「幾何学」「医術」などは資本主義と結び付いて連携し、投資による支援によって研究開発が進んでいるのも特徴です。

現実の資本主義社会において重要なのは、投資が集まる分野に注目し、将来的に注目を浴びる可能性のある学問にも力を入れるべきであるということです。リベラルアーツは、新たな視点を持つことができる学問であり、将来的に投資が増加する可能性があるものです。

リベラルアーツと奴隷制

リベラルアーツの誕生には奴隷制が大きく関わっています。古代ギリシャでは、国民は自由な人々と非自由な人々(奴隷)に分けられており、人身売買によって生産や家事などの強制労働に従事させられていた人々が存在していました。非自由な人々(奴隷)が国家のインフラを維持し、一方で自由民が学問や貿易などを行うことで経済が回っていたのです。

このような背景の中で、自由民が学んでいた勉学から「教養を高める教育」である古典的リベラルアーツが誕生しました。現代で言えば、経済的に豊かで知識階層に属する国民に許された教育とも表現できます。

日本の歴史でも、平安時代にリベラルアーツに似た考え方が存在していました。それが「有職故実(ゆうそうこじつ)」と呼ばれ、公家や朝廷、武家などが行う制度や行事、習慣、官職などに関する先例やそれらを個別に研究する学問です。武士達も多くが「有職故実」を学びたがり、平安時代末期には武士として初めて政権を握った平清盛も、藤原摂関家から「有職故実」の教えを受け、平氏政権を確立しました。

しかし、リベラルアーツは特定の階級のみが知り得ることができ、奴隷が果たしている個別の技術や作業とはまったく異なる特権階級の学問なのでしょうか。

人文学者である半田智久が発表した学術論文によると、リベラルアーツは職業的な学び・教育から始まり、「実用性から自由になった学芸」と述べられています。

つまり、技術や知識といったものは、所属する組織や環境に縛られる奴隷的技能でありながらも、その延長線上に自由な発想・創造があり、解放奴隷や軍人がその後、後世に名を遺した歴史的事実からみても、リベラルアーツは特権階級だけの学問ではないと述べているのです。

現在のビジネスで言えば、特定の分野のエキスパートになるには1万時間が必要だと言われていますが、プロフェッショナルとして価値を提供するということは、その所作や技術を持っているだけでなく、技術や所作を自分の中で構造化し、その領域の「真理」「流儀」を自分なりに持つことです。これは、リベラルアーツに通じるものがあります。

リベラルアーツは一部の「意識高い系」と揶揄されるエスタブリッシュメントの嗜みではありません。実際の実務から深く探求され、それによって昇華される真理であり、誰でも使えて獲得できるものです。ただし、このリベラルアーツを知識として訳読や暗記するだけでは、自由な発想を得ることはできません。リベラルアーツを実際の実務や実業で活かすことで、自身の実感として身につけ、自由な発想の方法を学び、目の前の課題を違った視点で捉えることができるようになるでしょう

リベラルアーツは、広範な教養を身につけることによって、現在の状況や直面する出来事に縛られずに、より実践的な生きるためのスキルを習得する概念学問です。

個別の専門分野に縛られない発想がリベラルアーツの真髄であり、柔軟な物事の見方・捉え方ができるようになる所以と言えるでしょう。つまり、リベラルアーツの「自由」とは、奴隷階級からの自由ではなく、何にも縛られない知恵や発想の「自由」であるという事です。

奴隷制とは無縁の現代の日本でも「社畜」という侮蔑的な言葉でサラリーマンを奴隷とする風潮がありますが、自分の仕事を過少評価することなどありません。むしろ、自発性を失ったまま時間と労力を費やしている状態、要するに自由な発想ができない状況こそが奴隷的ではないでしょうか。

そのような価値観や思い込みから脱する足がかりとして、ビジネスパーソンにはリベラルアーツを学ぶことの意義があるでしょう。

日本と欧米のリベラルアーツ教育

欧米の学問体系は、アート(art)とサイエンス(science)の2つに大別されています。キリスト教の文化圏では、人間が創り出したものをアートとして扱い、文学、美術、音楽、歴史、哲学などが該当します。一方、サイエンスは神が創り出した自然界を研究するものであり、化学や物理学は自然科学、経済学や心理学は社会科学と定義されています。

日本の学問体系は、このような厳密な体系化がなされておらず、明治時代から輸入されてきた学科が文系と理系に明確に区分されずに混在している実情があります。

その結果、文系の中に理系の要素が存在したり、逆に理系の中に文系の要素が存在したりするなど、欧米の学問体系ではありえない状態となっています。このため、日本では欧米のような学問体系の基盤が欠如しているとされ、本質的な意味でもリベラルアーツ教育が存在しないと言われています。

また、日本の大学生は就職を有利にするため、もっと言えば生活のために理系の学習を重視する傾向にあります。しかし、最近ではAIが実用化されており、古代ギリシャの奴隷のような繰り返しの仕事は自動化されることが予測されています。現代では、AIを活用する技術やAI自体を創り出す技術が求められており、一般的な就職をする社会人にとって理系の重要性は薄れてきています。

とくに、最近普及している生成AIでは、指示するためのプロンプト(言語)の扱い方が重要であり、これは文系の能力です。ただ、形式的にはまだ理系が就職に有利な状況が続く可能性も高いので、広い意味でのリベラルアーツの学習により、理系・文系の両方を学ぶことは大学生にとって必要であると言えるでしょう。

テクノロジーの普及とグローバル化によって多様化した現代の経済環境において、競争力を確保するためには、価値の創造が欠かせません。そのため、大学生以上にビジネスパーソンや企業にもリベラルアーツを学ぶ必要があると考えられます。

まとめ

リベラルアーツは、「人文科学」「自然科学」「社会科学」「哲学」「倫理」「心理学」など、広範な分野を学ぶことにより、新たな組み合わせに気づき、それを商品化する道筋をつけやすくすることができます。

変化が激しいうえにAIが普及し、機械的・事務的な作業が自動化されていく現代のビジネスの世界において、人間が担う業務の領域は創造性が問われるものへと舵を切ることは避けられません。将来のビジネスパーソンに求められるのは、問題の設定や問いの立て方、アイデアの発想力など、創造性を活かす能力です。

AIを含むテクノロジーと人間が共存するためにも、リベラルアーツの学問を学んでおくことは有用でしょう。

次回の記事では、ビジネスシーンにおいてリベラルアーツが注目されるようになった背景を掘り下げ、さらにリベラルアーツを習得するためのポイントなどを解説します。

近年その重要性に注目が集まっているリベラルアーツへの理解を深めるためにぜひご覧ください。