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【後編】「居眠り防止活動」に「厚労省のデータミスの指摘」。その圧倒的な行動力はどこから来ているのか 〜東大法学部出身2児の母・おたまさんの「育ち方」


「国がまとめたデータであれば間違いはないだろう」。ほとんどの人がそう考え鵜呑みにしそうな内容も必ず自分の目で確かめる。疑問に思う部分があればきちんと調べる。そのような姿勢を常に持ち続けられる人がどれほどいるだろうか。
2019年秋、「財務省が高所得者への児童手当廃止を含めた見直しを要請する」との旨が新聞等で報道された。とあるTwitterユーザーの女性はその根拠となった厚労省の報告書データに違和感を覚え、他のユーザーと共に数字を検証。見つかったミスを同省に電話で指摘した結果、児童手当見直しは見送りとなった(取材当時)。

東大生を中心に「この人はどうやって育ってきたのだろう」と思う相手とその養育者にインタビューを行う”育ち方プロジェクト”。今回は福富の学生時代からの友人であり、この一連の出来事の当事者でもある『おたま』さんの育ち方を探る。前・後編にわたるインタビューの後編では、勉強面について聞いてみた。

おたま
東大法学部出身。人見知りな3歳長男とやんちゃな2歳次男を育てるフルタイムワーママ。月間数万PVを誇るブログ『おたまの日記』では考えたことや読んだ本、オススメしたいことなどを豊富なエビデンスと独自のエピソードとを絶妙なバランス感覚で綴る。Twitterでも積極的に情報発信をしている。

(前編はこちら)

「正のフィードバック」を積み重ねる

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ー東大の文系最難関である文Iに現役合格を果たし、法学部を卒業したおたまさん。子どもの頃からよく勉強をしていたのですか?

私、勉強というか学校の授業が大好きだったんです。 これはたぶん、母と父の間で交わされる会話を聞くうちに「大人は何でも知っている」と感じたからではないかと。学校の授業に対しても毎回「さあ、この50分で私に何を教えてくれるのだろう!」とワクワクしながら向き合っていました。先生の話を聞きながら「…ということはこういうことかな」と考えながら聞いて、後で自ら質問に行くような子どもでした。もっとも、東大に入ってからはそんな余裕もなくせいぜい8割くらいしか先生の話が理解できず、挫折感を味わいましたけど。

ー学校の授業に対して能動的な学びができていたのですね。そのような意欲や姿勢はどうやったら身につけられるのでしょう…?

それは私も知りたいですね。自分の子どもにもそういう風になってもらいたいので。でも、すごく小さい時から「もっと知りたい」という欲求が溢れるくらい強かったのは覚えています。幼稚園か小学校に入りたてくらいの頃だったと思うんですが、リビングに置いてある大人の本に「ひらがなをふってほしい」と父に頼んだんです。字が読めるのと内容が理解できるのは違いますから、結局全然わからなかったんですけどね。ちなみに両親は二人とも読書好きで新聞も毎日読んでいたので、大人は本や新聞を読むのが普通だと思っていました。

ー幼い頃から知的好奇心が旺盛だったことだけは確かみたいですね。

私が考える限り、勉強を好きになるかどうかって、どれだけ「正のフィードバック」を受けられるかどうかなんじゃないかと。子どもって、先生や他の子どもたちとの関わり合いの中で自分の立ち位置や客観的な評価を自覚していくものだと思うんです。たとえばみんなの前で教科書を音読した時に「おたまさんは音読が上手ね」と言われたら「そうか、私って音読が上手なんだ」と自覚するし、先生に指名されて答えた時に隣の席の子に「すごいね」と言われれば「私ってすごいんだ」と理解する。そういった経験が繰り返されて「そうか、私はこの集団の中でお勉強ができる方なのか」と、たぶん子ども時代の早いタイミングで自覚したような気がします。あとはひたすらそのイメージが強化されていった感じです。

ーどうしたらそのような「正のフィードバック」を経験できるかがポイントかもしれませんね。

自分の場合は何がきっかけだったかは正直よくわかりません。でも想像するに、小学校の低学年の頃は子ども同士でそう大きな能力差ってないと思うんですよ。じゃあ何が違いになってくるかといえば、たとえば親が読書好きで自分も小さい時からたくさん本を読んできたとか、規則正しい生活が身についていて授業中に眠くならないとか、家族の仲が良くて子どもの精神が安定していたとか、そういった小さなことの積み重ねなんじゃないかと。

私の場合、そういった生活面での土台がしっかりしていたおかげで、先生の話に集中できたとか、積極的に発言できたとか、そういった「ちょっとした良いこと」が勉強面で積み重なっていったんじゃないかな。だから私が親として子どもにしてあげられるのは、肉体的にも精神的にも健康的な状態で学校に送り出してあげることだと思っています。

塾通いを親に禁止されていた

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ー東京大学を受験しようと思ったのはなぜですか?

高校の先生に「東大を受けてみたら」と勧められたのが一つ。もう一つは、父と同じように世のため人のために働く仕事がしたかったので国家公務員になりたいと思ったのがきっかけです。「国家公務員になる人は東大法学部が多い」と父から教わり東大を受けることにしました。

ー東大へは現役合格ということですが、塾や予備校には通っていましたか?

実はうち、母の方針で塾に通わせてもらえなかったんですよ。子どもの頃から「勉強ばっかしているとバカになるから外に行っておいで」と言うような母でしたし、父も、私と弟が昼間に部屋で本を読んでいると「明るいうちは外で遊んで来なさい」と言っていました…。でも高校は進学校だったので周りの友達はみんな塾に行ったり通信教育を受講したりしている。「このままだと落ちこぼれるのでは…」とすごく不安で、英語塾の体験講座に行って入塾テストを受けて「お金はこれだけかかるけどここに通いたい」とお願いしたりしましたが、母は全く譲ってくれませんでした。唯一認めてくれたのは地理の受験勉強のためのZ会の通信講座。高校の授業では地理・日本史・世界史のどれかひとつしか受けられず、でも東大の文Iを受験するにはふたつ必要で。先生に相談したら「塾に行かないならZ会の通信講座を」と言われ、高校の先生がそう仰るなら…と母も渋々認めてくれました。

ー子どもが「もっと勉強したい」と言ったら親は喜びそうなものですが、おたまさんのお母様はなかなか手強かったのですね。

うちの母、すごく頑固で。うちは両親共に高卒で働き始めているんですよ。「うちには塾に通うようなお金はないよ」と言われていました。だから私は自分の家庭環境が恵まれていないと思い込んでいました。今はそう思っていませんが、当時は切実な悩みで。父も母も大学受験を経験していないから塾の必要性も受験の大変さもわからないんだろうなと思っていましたね。

ーちなみに子ども時代に「外で遊んで来なさい」と言われて、何をして遊んでいたのですか?

ごくごく普通の外遊びでした。小さい頃は木登りしたり松ぼっくりやBB弾を拾ったりと、外に行くだけで楽しかったです。弟とふたりで竹藪で蚊をつぶしてアリのエサにして観察したり。ルールが理解できる年齢になったらサッカーをしたり「Sケン」(※)をしたり、犬を飼っていた時は一緒にフリスビーをしたり。楽しかったなあ。本を読むのも好きだったから、下校中に家に着くまで待ちきれなくて二宮金次郎みたいに歩きながら本を読むこともありました。電柱にぶつかったこともありますが。

ーいろいろな遊びをされていたのですね。ゲーム遊びはしていましたか?

ゲームは家に無かったのであまりしませんでしたね。母の知り合いがプレゼントしてくれたテトリスゲームは一時期ハマってひたすら遊んでいましたが、しばらくすると飽きちゃって。父がパソコンを買った時に「マインスイーパ」「ソリティア」にもハマりましたがそれもそのうち飽きちゃいましたね。

※「Sケン」…2チームに分かれて地面に書いた「S」の字を使って陣取りをするゲーム

自分の子どもには自分のように育ってほしい

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ー3歳と1歳(取材時点)の男の子を子育て中ということですが、どんな風に育ってほしいなどの子育てのゴールイメージはありますか?

自分や夫みたいに育ってほしいかな(笑)。それなりに勉強もして、でもただのガリ勉じゃなくて学校生活も友達との関係も楽しんでほしいし、恋愛だってしてほしい。分かりあえるパートナーと出会って欲しいし、もし子どもが産まれたらちゃんと子育てもする男になってほしい。

もちろん子ども自身に同じ質問をされたら今のようには答えないと思いますよ。「あなたの好きに生きたらいい」って言うと思います。でも本音の理想としては、できれば私を超える人間になってほしい。私は企業で会社員をしているけど、もし息子が起業したいって言ったらすごくワクワクするし、もし世界の役に立つような新しいビジネスを始めたとしたら私はそれをとても誇りに思うと思う。別にノーベル賞を取らなくてもいいけど、社会の役に立つ人材になって、それで世界が少しでも良くなったら「私のおかげでこの子が育った」って、自分がすごく嬉しいと思う(笑)。

ー正直ですね(笑)。おたまさんはとても自分に自信があるようにお見受けしますが、子どもを育てる中で迷いや不安を感じることはあるのでしょうか? そしてそのような時はどうやって自分なりの結論を出していますか?

日々、めっちゃ迷ってますよ〜! たとえば予防接種をどうするか迷ったら、WHOや厚労省の公的な見解を調べて、基本的にはそれに従います。「テレビをどれくらい見せるか」のような答えが出にくい悩みに関しては、まずはネットで検索していろいろな記事や論文を読みます。WHOや国の公的な見解ではなかったとしても、たとえば「テレビをつけておくとそれだけで子どもの集中力が削がれる」というような気になる情報を見つけたらそれを参考にしつつ、「テレビを見せるメリットとデメリット」を自分の中で挙げていって判断する、という感じですかね。

ー公的な見解を優先しつつ、エビデンスがある情報を自分で取りにいくということでしょうか。

そうです。どこの誰が言っているのかわからないネット記事も読みますけど、基本的に根拠がないものはあまり信じません。根拠が載っていたらそれも追って確認します。「テレビをつけっぱなしにする」という検索ワードだと真面目な論文は出てきませんが、「乳幼児 メディア 長時間視聴」みたいな論文のタイトルっぽいワードだと見つかるので、そのワードでググって出てきた論文をいくつか読んで判断します。そういう検索ワードは、お医者さんが書いているブログなどに時々載っているソースを参考にします。

ーその方法で調べれば、かなり信頼度の高い情報が見つけられそうですね。

このやり方が正解かはわかりませんが、私はそうしています。悩まずに済むような内容に関しては、基本的に自分が親にしてもらったことを踏襲していますね。私が公立の小中高で育ったみたいに自分の子どもにも公立の学校でいろんな人と出会ってほしいし社会のことを知ってほしいと思っています。例えば小学校受験に挑戦させた方がより良い環境で勉強できるかもしれないし、より高みを目指せるかもしれないけど、世の中の役に立つ人間になってほしいと思うからこそ、公立の学校でいろんな世界を知ってほしい気持ちはあります。

ーそのような考え方の人はこのご時世では少数派になってきているように感じます。

ええ、私の周囲でも子どもに小学校受験させる方は多いですね。私のこの判断で子どもが苦労することもあるかもしれないとは思います。でもほら、最終的に東大なりハーバードなりに行ってくれたらそれはそれでかっこいいけど、そうじゃなかったとしても幸せになれると思うし、社会の役に立てる人になれると思うから、今のところ早期受験させて学歴的な意味での優位性を持たせようとはあんまり思わないです。まあ、今のところですけどね。状況が変わったら気も変わるかもしれません。

◆おたまさんの「育ち方」ポイント
・家庭という「逃げ場」があったことで外の世界で冒険ができた
・家族や両親の会話に知的な会話の素地があった
・コミュニケーションの多い家族関係
・「正のフィードバック」を受け続けることで「勉強ができる」とのセルフイメージを強化
・両親は勉強させることに熱心でなかった
◆インタビューしての感想

福富
学生時代から感情表現が豊かで、自分の意見をまっすぐに主張し、人とぶつかることを恐れない感じを受けていました。波風を立てず、大人の言うことや一般的に良いとされることをそのまま信じる優等生で八方美人タイプだった私にとって、おたまさんはカッコよく、まぶしい存在でした。
「お母さんも私も脳内ダダ漏れだから(笑)。思ってることはなんでもしゃべる」「母はどんなことでも私に関わることなら興味があるはずだっていう信頼があった」というお話があり、お母様との信頼関係の強さ、また、お父様とお父様のお仕事に対するリスペクトを強く感じました。家族との会話の中で社会を学んだり、自分のしたいこと(塾や通信教材など)とご両親の教育方針の間で言葉を使って交渉をすることが当たり前にあったのだと思います。
私自身も息子たちとはなんでも話せる、話してくれる関係を維持し、会話の多い家族でありたいな、と思いました。

村上
根本に強い自己肯定感を持ちながらも、客観的な視点を大事にすることで向上し続けてきた人、という印象を受けました。子どもの自己肯定感を養うには安心して自分をさらけ出し、認めてもらえる場所が必要なんだなと再確認しました。お父様とお母様の関係性、ご両親とおたまさんご本人の関係も良かったことが今のおたまさんの天真爛漫なのびのびとした人柄の基盤になっているように思いました。自ら勉強をする子に育てたければ、「勉強をさせる」という直接的な方法よりも、親が読書する姿を見せたり知的な会話を楽しむ様子を見せたりして子どもの中に知的な素地が養うのが良いのかなと感じました。


おたまさんのお母様のインタビューは3/12(金)公開予定です。


インタビュー/福富彩子、村上杏菜
執筆/村上杏菜 
文字起こし協力/いまいゆきよ
写真レタッチ協力/西原朱里






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東大生も十人十色
東大卒業生を中心に「気になる人」の育ち方を聞くプロジェクト。対象は【我が子がこんな人に育ったら素敵だな】と思える人。本人とその養育者に、子ども時代・子育て時代の話をインタビューし、記事として発信していきます。たまにイベントも開催します。