ダンス・ダンス・ダンス
村上春樹の小説『ダンス・ダンス・ダンス』を読み終えて考えたこと
1.小説について
『ダンス・ダンス・ダンス』の主人公は、いくつもの奇妙な出来事に出くわし、人と出会い、人と別れ、何かを失っていく。「自分の力」ではどうしようもないことに対して、主人公は、呆然とする。くたくたに疲れていく。
だが、疲弊した心身、言葉にならない出来事を幾つも経験する中で、彼は気づかされる。流れる時間の中で、何とか踊り続けるということを、ステップを踏み外さないということを、音楽の続く限り踊るということを。
2.無常ということ
わたしたちは、常に、何が起きるかわからない世界に生きてる。毎日同じ生活に見えても、実際は、毎日違う。いろいろな要因によって、日々、状況が変わる。
わたしたちは、未だ見たことないものや、経験したことのないものに恐れ、変化に戸惑うことが多い。けれども、そこで止まっていたり、変わらないことを恐れていると、何も前に進めない。
自分にはどうしようもできない人生。大切なことは、流れゆく時間に耳をすませ、リズムを身体に流し入れ、押し寄せてくる波に乗り、身体を動かすこと、変化に対応していくことなのではないか。
いつ無くなるかわからない自分の命、無常の命のありがたみを知り、それを体現する方法を考えよ、と『ダンス・ダンス・ダンス』は、教えてくれたのである。
3.現代社会の中の村上春樹
村上春樹の世界観といえば良いのだろうか、わたしは、どうしても「あの世界」から抜け出せなくて、暇があれば、村上春樹の長編小説にのめり込んでしまう・・・。『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『海辺のカフカ』『ノルウェーの森』『アフターダーク』『スプートニクの恋人』『ダンス・ダンス・ダンス』・・・
どの小説からも、現代社会に必要なことを考えさせられる。この世界は、理不尽な出来事が多くて、どうしようもない権力社会で、もがきながら生きなければならない。村上春樹の小説は、その本質を見抜いているように思う。この現代社会の中にあるリアルが、独特の「メタファー」となって描かれている。それは、まちがいなく、「わたしの苦しみ」からの逃げ場となっているのである。
(ちなみに最近出版された小説は読んでいない。どうしてか、読む気になれない。なぜだろう。)