見出し画像

営業と接客の違いと、『THE MODEL』の弊害について

突然ですが、「営業」と「接客」の違いは何でしょうか。どちらもお客さんに商品を売る仕事です。

たとえば、洋服屋の店員さんや飲食店の店員さんは「接客」業ですよね。では、それらの業務と、IT機器やSaaS製品の「営業」は同じ仕事なのか。

これはもちろん、まったく違います。商品を売る点においては同じですが、プロセスが大きく異なるので別物といってもいいでしょう。

わたしはマイノリティという会社を経営し、企業の営業・マーケティング支援を専門としています。その観点から両者の違いについて考えてみたいと思います。


接客はクロージング、営業は案件創出

接客。それはいわゆる店舗ビジネスが一番わかりやすいと思いますが、アパレルの販売員や家電量販店の販売員の場合、基本的にお客さんがお店に来てくれます。

もちろん、店頭に立って呼び込みをしたり、DMを出したりすることもありますが、大抵の場合、お客さんはその店舗のブランドとか、店舗が配るチラシなどによって集まってきてくれる。

ですから販売員の仕事は、とにかく来店してきたお客さんに対してしっかりとクロージングをすることです。

一方で営業の仕事は、「自分が売りたいお客さんを見つける」ということが第一になります。最近は営業組織も分業化されていたりするので、商談するお客さんのリストが最初から整えられている会社も増えてきていますが、経営者が営業に求める本質的な価値は「新規開拓」だと思います。

販売員は「クロージング」が求められ、営業はそれに加えて「案件創出」も必要になってきます。そのあたりが両者の大きな違いでしょう。

営業プロセスの定番『THE MODEL』に弊害も

案件創出とはつまり、お客さんをゼロから見つけ出すためのスキルが必要になってくるということです。ひとことで言えば、能動的であることが求められます。

ですが、いま営業という仕事にひとつの課題が見えてきています。それが「営業が待ちになってしまっている」ということなんです。

『THE MODEL』という有名な本があります。セールスフォースの日本法人の元専務の方が2019年に出した名著で、セールスフォース社がずっとやってきた、いわゆる営業の分業化を提唱しています。

発売された瞬間にとにかく売れて、一気に浸透しました。BtoBの営業組織やSaaS製品を扱う会社はほぼ例外なく、この『THE MODEL』にならった営業戦略を採用していると思います。

これまでの営業組織を、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス(営業)、カスタマーサクセスに区分するのはいまでこそ一般的ですが、そうした概念はTHE MODELによって広がりました。

そもそもの問い合わせを取ってくるところはマーケティング部門、その問い合わせから見込み客のリストを精査してアポを取るのがインサイドセールス部門、そのアポをクロージングするのが「フィールドセールス」と呼ばれる、いわゆる「営業」部門です。その先にはカスタマーサクセスを担当するチームがいます。

多くのSaaS企業がこれによって成果を出したと思いますが、一方で、このTHE MODELの流行によって起きた弊害もあると言われています。

それは営業が本来の案件創出力を「失ってしまう」ことです。

狩りの本能を忘れてしまう

最近の“スタートアップあるある”なんですけれど、資金調達をするとだいたいどこの会社も営業を増やします。

すると、どうなるか。

それまでは営業1人あたりに割り振られるインサイドセールスからのアポが潤沢にあったからこそ回っていましたが、資金調達をして4〜5人しかいなかった営業が20人くらいになると、営業の頭数分に対して、商談のパスが割り振られないという事態が起きてきます。

要は営業先のリストの数が足りなくなるんです。そのときに営業がどうなるかというと、信じられないかもしれないですが、インサイドセールスからのパスを待ったままで足が止まってしまうのです。

もう3〜4年のあいだTHE MODELの方針で動いてきているので、「営業にとって案件創出をすることが一番重要な仕事なんだ」ということがわからなくなっている。すぐに動き出せないわけです。

本来は新しいターゲットを探してきて、そのままクロージングまでやるのが営業だったのが、いつからか狩りの本能を忘れてしまったライオンになってしまい、エサが来るのを待っている動物園の動物みたいな状態になってしまうわけです。

経営者としては営業がどんどん入ることによって直接的に売上げが伸びることを期待しているわけですが、実は現場では分業化の中でしか成果が出せない営業の存在が課題になっています。

要は、自らの営業力で売っているわけではなくて、会社の仕組みで売れているような営業が増えてしまっています。

本人たちはその会社で成果を出せていると「自分には営業力があるんだ」「価値があるんだ」と思い込むわけですけれど、実態はパスが潤沢に割り振られていないと成果が出せない。『THE MODEL』の浸透によって営業が接客化してしまうのです。

断っておきますが、「接客」という仕事に問題があるわけではありません。彼らは来店したお客さんをクロージングするプロフェッショナルです。けれど、「営業」と「接客」は違う仕事ですから、営業が接客化してはいけないですよね。

営業の本能である案件創出力の爪は、常に磨いておかなければいけないはずです。そうでないと、いざ「案件が足りないぞ」となったときに動き出せません。

資金調達前に「4〜5人の営業チームで1人あたりこれくらいの売上げが見込めている」というデータをもとにして、「これを2倍にしたら売上げも2倍になるんじゃないか」みたいな試算はよく見られますが、危険です。

営業を2倍に増やしたけれど、売上は2倍にならない、ということがあちらこちらのスタートアップで起きています。

では、その課題への対策としてはどうすればいいのか。

2つの方法が考えられますね。

  • ただ営業を増やすのではなく、リストづくりから着手する

  • 自分からリストをつくって商談できる営業を育てる

失注したデータはきちんと溜めておくこと

答えとしては、両方が必要です。もちろんリストを増やしていく必要もありますが、いざ商談をするとなると、どんなにスキルが高い営業でも、受注率は30%を超えないんです。

つまり、商談をすると絶対に7割は失注するわけです。

となると重要なのは、その失注したデータをきちんと蓄積しておくことです。それをやっておかないと営業は常にまっさらな状態から顧客を開拓していかなければいけません。

「7割のお客さんは商談しても失注する」。これを前提として「失注するのは悪いことじゃなくて、未来の受注に繋げるための失注データがとれたんだ」という考え方を持って、半年後、1年後の成約に繋げるためのデータをちゃんと蓄積していくことが大切です。それが組織の資産になるのです。

そうすればインサイドセールスからのアポが足りないときは、自分でもそういったデータを駆使して案件を創出できます。

あるいはそもそもそういうデータがないような状態なら、まっさらな状態からアポイントを取って案件創出をするパターンもあります。それはいわゆるトップセールスの1つの理想の姿です。

営業の本質は『THE MODEL』の仕組みの中で輝くのではなく、自ら案件を創出して、クロージングまで持っていけるか、ということに尽きます。

本質的なスキルを持った営業を育てるために

わたしが経営するマイノリティという会社では、いろんな企業の営業支援、営業組織の構築をお手伝いしています。

具体的には「そもそも問い合わせが足りないから増やしてほしい」というマーケティングの案件が最も多く、その次のステップとして「営業で成約できるようにしたい」というクロージングの案件になってきます。

割合としては前者の「問い合わせを増やしたい」が8割、後者の「ゴールを決めたい」が2割というところです。

特に急成長しているスタートアップやメガベンチャーは社員がどんどん増えていきます。いわゆる資金調達のラウンドで言うとシリーズBくらいの会社でよく起きるのが、昨対比で営業が2、3倍になったときに、結局その頭数分の商談を用意できないので、営業の意識改革が急務になるというケースです。

それに対して「本来の営業はこうだったんだよ」と、営業の本質である案件創出について重点的にトレーニングさせてもらうことが多いです。

経営者からすると、「営業が10人いてこれくらいだから、20人なら倍になるだろう」みたいな計算をしがちですが、『THE MODEL』に則った組織の場合、実際のところは6掛けか7掛けくらいが多いです。8掛けとか9掛けなら上手くいっている印象です。

完全な倍にはなりませんが、しかし、そこに近づけることはできます。

営業の爪を磨いてくための支援とトレーニング。ご興味ありましたらご覧ください。



営業戦略の立案からカルチャー作り、カスタマーサクセスまでをカバーした一連の記事をマガジンにまとめています。よかったら読んでみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?