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8/22開催レポート「自治会活動は無理ゲー?あすと長町から新たな地域運営を考える」

毎月第3木曜日に、地域課題や、課題だと思う種を持ち寄り、課題解決へ向けた連携が生まれる場として開催しているセッション。
今回のテーマは、「防災と自治 自治会活動は無理ゲー?あすと長町から新たな地域運営を考える」

ゲストに、あすと長町を拠点に「新たな地域運営」を推進する認定NPO法人つながりデザインセンター副代表理事の新井信幸さんをお招きし、多種多様なコミュニティづくりについて話題提供していただきました。

新井信幸さん*会場で話題提供していただいた様子

新井信幸さん 認定NPO法人つながりデザインセンター 副代表理事
東北⼯業⼤学建築学部 教授。
古い建物をリノベーションしたり、空き家や空きスペースを意味ある場所に変えるということをしている。最近は塩竈市で学生たちと空き家をシェアアトリエとして、若いアーティストに開放する取り組みを行っている。
2016年10月に、認定NPO法人つながりデザインセンター(以下、つなセン)を設立し、コミュニティ支援や居場所づくりを組織的に行い、空き家を活用したシェアハウスの提供などを行っている。

それでは、当日のセッションの内容についてレポートしていきます。


1.自治会活動は無理ゲー?

「無理ゲー」とはインターネットやSNSの世界でよく使われる言葉で、攻略がほぼ不可能なゲームのことを指し、ゲーム以外の実生活でも、解決が難しく、実行が困難な場合に使われます。私自身、災害公営住宅や仮設住宅のコミュニティ支援に携わる中で自治会活動は継続がとても難しいと感じることが多いため、今回このお題をつけました。

自治会活動は過剰に煩雑な役割を担っている場合も多く、まさしく「無理ゲー」状態です。でも、もう少し整理して「新たな地域運営」としてコミュニティを運営すればそこまで難しくはならないのではと考えています。
私たちのケースは災害公営住宅なので少し特殊な部分もあるかもしれませんが、皆さんの実態に置き換えて考えてもらえればと思います。

2.つなセンの取り組み

被災地のコミュニティの現状や災害公営住宅のコミュニティを生むポテンシャルを踏まえて、つなセンでは「自治組織の役割のスリム化」「孤立を防ぐ居場所づくり」に取り組んでいます。

*被災地のコミュニティの現状
・仮設住宅の時のような毎日の見守りがないため、災害公営住宅(約3万戸)で孤独死が増加 
・高齢化等で自治組織は機能せず担い手が疲弊。次の担い手も見つからない
・宮城県内災害公営住宅の高齢化率45.8%(県平均29.5%)
・自治組織が消滅している災害公営住宅も出始めている
・機能しているように見える地域でも住民間トラブルや分断が発生

災害公営住宅のコミュニティを生むポテンシャル
・地域資源(集会所やオープンスペースなどの豊かな共用部)が充実
・共用部を居住者によって共同管理する義務があるので地域でつながりが生まれやすい

3.自治組織の役割のスリム化と孤立を防ぐ居場所づくり

それでは、具体的に「自治組織の役割のスリム化」と「孤立を防ぐ居場所づくり」の事例を紹介していきます。

①塩竈市の清水沢東住宅(2016年6月入居開始/計170戸)の事例

公営住宅は特殊で住民にも義務が定められていて、共用部の清掃、電気料金の支払い、電球類の交換や集会所の管理などを住民が行います。
清水沢東住宅では、公営住宅の運営の義務的なことだけを請け負う管理組合のような組織にスリム化したところ、加入率がほぼ100%になりました。

集会所で住民や外部の団体が様々なサークル活動を開くようになり、高齢者も一人暮らしの方もそこに参加すれば知り合いができるという環境ができました。外部の団体にも開放したことで、平日はほぼ毎日集会所が利用される環境をつくりました。

最低限、孤立をしないようにつながっておけば、多様な活動や機能が生まれて解決できることが増えると考えています。
孤立を防ぐ居場所づくりのエッセンスとして、多様な団体がサークル活動を行うことで毎日違う活動があり、参加者が自分で活動を選べることが多様なつながり作りを可能にすることが分かりました。一つの主体がサークル活動を行うとそこに相性が合わない人は孤立を選択するしかなくなるからです。

集会所(空間)+多様な主体による活動=みんなの居場所となります。

清水沢東会は、基本的に清掃と共益費の徴収などの義務的な管理をする活動のみを実施していて、義務の果たし方に選択肢を設けることでほぼ全世帯の参加を達成しています。(例:清掃活動に不参加の場合は1000円の徴収)
このように、一般的な自治会も、義務を設定してそこだけを運営する、というように自治会機能をスリム化すれば全員が納得して全世帯参加が叶うと思います。

②あすと長町地区の災害公営住宅(2015年4月入居開始/計327戸)の事例

あすと長町地区の災害公営住宅には「あすと食堂」という食堂があります。

あすと食堂(認定NPO法人つながりデザインセンターより)

ガラス張りになっていて、土足で入れるため、ふらっと入りやすく、カウンター席あるため、ひとりでも入りやすい食堂にしました。みんなで一緒に「いただきます」を言うなど、ひとりで食べていてもみんなと一緒に時間を共有できる食堂を目指して運営しています。

*居場所づくりから見る集会所のハード面の課題
・鉄の扉:中の様子が見えない
・土足禁止:スリッパに履き替える必要があるため、ふらっと入りにくい。車いすも入りにくい
・キッチン、電気容量、掲示板が小さい

集会所の利用料を自治会費から出すと、自治会費が逼迫するため、利用者が利用料の負担をすることで自治会費を逼迫せず、利用の有無で不公平が出ないようにしたり、集会所を借りやすくするためにweb予約をできるようにするなど借りる人を増やす工夫をしてきました。

あすと長町第二市営住宅では、つながリッキーと題して、より多くの住民との緩やかなつながりをつくるため、表向きは交流を目的としないスマホ相談会を開催し、今まで集会所に来たことがなかった住民の参加もありました。
必ずしも交流を目的にしなくても、集会所を広く貸し出して、まずは利用してもらうことを目的にすると多様な活動が生まれると思います。

他にも、大学生二人がフィギュアを並べて写真撮影するための場所として集会所を借りたこともあります。
どのような活動も公開して、誰が来てもいいよということにしています。住民が何に興味を持つかは分からないため、どのような活動が住民にとって良いかを考えるより、どんどん集会所を貸し出すことが大事だと思います。

*つなセンでは、これまでの取り組みから得られたノウハウや、実践例をブックレットにまとめ、発行しています。
発行物 | 認定NPO法人つながりデザインセンター (tsuna-cen.com)


集会所の集まりは「文化的で正しい人たちの集まり」といった雰囲気が漂っている場合が多いですが、孤立気味の住民にとってそれが必ずしも居心地が良いとは限りません。
中には、「参加者が少ないから参加した」という方もいて、多種多様な集まりを創出することで孤立を防ぐことにつながると思っています。実際、スナックや立ち飲み屋やパチンコの方がふらっと立ち寄りやすいという意見もあり、孤立を防ぐにはそういった視点も踏まえる必要があると思います。

また、活動を通じて仲良くなっていくと仲間意識が芽生えますが、同時にグループのメンバー以外に対しては排他的にもなるので、コミュニティを形成する際には「共同性」と共に「排他性」も生み出すことにも目を向けないといけないと思います。
常連しかいないスナックにはなかなか新規のお客さんが入りにくいことを考えてもらうとイメージしやすいと思います。

4.新たな地域運営に向けて

地域コミュニティは性質の異なる2つの縁(つながり)から成り立っています。地縁と選択縁(*)が適度に整備されることで、孤立を防いで住民一人ひとりのQOL(Quality Of Life/生活の質)が高まると考えています。
これを目指す取り組みを私たちは「新たな地域運営」と呼んでいます。

*地縁 
いわゆる旧来からの自治組織や隣近所(物理的領域内)などの付き合い

*選択縁とは

趣味や相性で集うサークルやNPOなどのグループのことで物理的領域に縛られないつながり。参加可否を自由に選択できるつながり

自治組織の役割をスリム化(義務に特化)することで全世帯参加が可能となり、担い手の高齢化の解消につながります。
まずは全世帯が参加して、顔と名前が分かる程度のつながりを作ることを目指すと良いと思います。全世帯が参加していれば、自治組織が地域を代表していると言っても問題がないと言えます。

地縁の役割をスリム化(義務に特化)することによって、全世帯参加を目指していきたいですが、現状の担い手は過剰で煩雑な役割よりも、関与しない住民のモラルを問題視する傾向にあり、その根強い価値観こそ課題と言えると思います。また、一般市街地には共用部が少ないことから、何を義務の活動とするか設定に工夫が必要です。

選択縁の充実には小さなグループが気軽に利用できる場が必要となるため、公営住宅の集会所や空き家などの地域利用が求められると思います。
また、多様な主体の利用を促進する運営を誰が担うかが課題です。

「地域自治」とよく言いますが、「自治」という言葉の通りに自分たちで治めなくても、外部のNPOなどが入ってその地域を運営しても良いと思います。住民同士のつながりが深められて苦労のない形でそのつながりが継続できるなら「自治」にこだわる必要はないのかなと思っています。

5.質疑応答

コミュニティをつくっていくにあたり、都市部と地方では違いがあるのではないでしょうか?

地方はたしかに不利な面もあると思いますが、南三陸町の公営住宅の集会所に遠方から月1回のペースで活動に来てくれる方もいて、必ずしも都市部でなくてもいろいろな活動が展開される環境はつくれると思います。
地域に活動を提供できる人がいなくても、外部とつながることで活動を提供することもできますし、活動も月1回のペースであれば負担は少ないので都市部で行うのとあまり変わらないと思います。

あすと長町では民生委員との連携はどのようにされていますか?

民生委員とは年に一度、孤立の情報を集めたり、自治会長や支援団体、社会福祉協議会なども入って情報交換をしています。
民生委員だと戸別訪問をすると思うのですが、それが効果的な面もあると思いますが、一方で居留守をされる場合もあるようです。戸別訪問は、童話「北風と太陽」で言うところの「北風」のようになってしまう面もあるので、私たちとしては「太陽」のように、自分から好んで外に出てきてもらうことを重視しています。民生委員の方から、「住民にこんな方がいるからこんな活動をしてほしい」いう要望があれば応えていけると思います。

仙台に転入してきて1年目です。自治組織とつながっていないので災害時が不安です。

防災とコミュニティ、とよく言われますが、東日本大震災の時に、賃貸の集合住宅の住民が、名前を知らなくてもお互いに助け合っている姿を見ていたため、防災のためにコミュニティをつくるということは考えなくてもいいのではないかと思っています。
逆に、皆で一緒に避難して全員津波の被害に遭うといったケースもあったため、どうやったらコミュニティが方向性を間違えずに災害時に機能できるかを知りたいです。

地縁と選択縁をつなげるというのはどういうものでしょうか?

集会所の運営を通して、地縁組織と集会所を利用する選択縁の人々がお互いに孤立の情報を汲み取って地域の情報が共有できればと思います。
ぶどうの房のように、一つ一つの小さな房(小さなコミュニティ)がたくさんあって、枝で全部がつながっているような状態(大きなコミュニティ)をつくれたら良いと思います。

自治組織の活動を義務に絞ることで地域運営をスリム化するという視点は新しく面白いと感じました。また、多様な場づくりをする際に地域住民や外部のNPOなどが主体になると思いますが、スタート時に仕掛けや戦略が必要になりそうだなと思いました。

最初から地域運営の役割に限度を決めて、やることを絞ってしまうと皆が入りやすいです。また、多様な場づくりも情報の出し方が重要で、例えば、集会所が借りられるという情報もどうやって地域に伝えるかが難しいと思います。

一般市街地において地縁的つながりを考える上での義務的な活動は例えばどのようなものがありますか?

ゴミ置き場や地域の小さな公園の草取り、子どもの交通安全などが考えられると思います。各地域の実情に合わせてあまり過剰にならないように設定することが大切だと思います。


ハブのセッションは毎月第3木曜日に開催しておりますが、9月は定期セッションの他に「トークイベント:多様化する時代に、地域はどう変わる?」を開催します!

せんだい・みやぎソーシャルハブ 公開トークイベント
『多様化する時代に、地域はどう変わる? 〜今の時代に沿う地域自治・地縁コミュニティを考える〜』

日 時:2024年9月5日(木)18:00〜19:30
場 所:仙台市市民活動サポートセンター 市民活動シアター(地下1階)
ゲスト:奥河洋介さん
HITOTOWA INC. 執行役員/防災士/神戸市地域活動推進委員会委員)
主 催:せんだい・みやぎソーシャルハブ(企画:都市デザインワークス)
共 催:仙台市市民活動サポートセンター
参 加:無料、申込優先 (リンクからお申込ください)https://forms.gle/4YXHwrDsTmqDGdjH9

「トークイベント:多様化する時代に、地域はどう変わる?」の詳細はこちらをご覧ください。

皆様のご参加お待ちしております!

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