カンボジア人女性アートディレクターJessyAnについて。【SocialCompassメンバー紹介】
ある時は、カンボジアで有名なお土産アンコールクッキーのロゴをデザイン。
そしてある時は、NHK World『Side By Side』のカメラマンとしてドキュメンター番組の撮影もこなす。
そんなSocialCompassのアートディレクターJessyAnは、もともとは日本語通訳採用だった。
2012年10月から一緒に働き出し、もう9年の付き合いになる。
その当時の基本的な業務は、クメール語が話せない私の補助や、関連会社の日本語対応、そして日本からの来客のアテンド業務などであった。
JessyAnは、プノンペンにあるタヤマスクールという気合の入った軍隊方式のフリースクールで日本語を学び、いくつかの日系企業を渡り歩いていた。
2012年10月JessyAn初出社の日
とても真面目だか、それまでの会社の上司によっては生意気に思われて苦労したこともあったのではないかと思う。
そんな彼女はビヨンセが好きで、音楽やデザインなどクリエイティブなことにも元々、興味があったらしい。
ジェシカの正体は?
しかし、デザインの学校に通っていたこともなければ、アートに関する知識を学んだこともない。そして日本語を話せる割には、日本文化、特に日本のアニメに対しても全くの無知だった。そんな彼女が、初めてデザインしたキャラクターが「ジェシカ」だ。
ドラえもんもどきで、熊とピエロを足したようなちょっと不気味なキャラクター。個人的にはクセになる可愛さだ。
もともとは「カンボジアらしいキャラクターを考えてほしい」という私の指示で作ったデザイン。しかし、カンボジアのテイストでもなければ、何のキャラクターなのかわからない。
何をモチーフにしているのかと、何度尋ねても、彼女は「分かりません…」と繰り返すばかり。名前や設定を考えるよう伝えても、ただ考え込むばかりだった。
色々と聞いていくと、ついに彼女が重い口を開く。
「実はスノーマンをイメージして描きました。」
このキャラクターのモチーフは、なんと雪だるまだったのだ。
カンボジアで生まれ育ったジェシーは、当然ながら、これまで一度も本物の雪を見たことがない。まだ見ぬ雪への憧れを形にしたのだ。
しかし、ジェシーは「カンボジアには雪がありません」とバツが悪そうにつぶやく。自分がつくったキャラクターが「カンボジアらしくない」と思い込み、「嘘をついている」と、後ろめたさすら感じている様子だった。
クリエイティブは嘘から始まる
カンボジアで絵を描く授業では、絵が与えられ枠からはみ出さないように色を付けるだけの、いわば塗り絵のような受け身の教育しかない。正しい答えを導き出すのが、唯一の正解なのだ。
日本語教育も同じだ。正しい日本語を「正しく」文法通りに習得しなければ、相手に通じない。そう考えている。
だから、雪がないカンボジアで、雪のキャラクターというのは「正しくない」、つまり「嘘」なのである。
しかし、クリエイティブは、そうはいかない。何もないところに降りてきた思い付きや直感・ひらめきといった非論理的な「嘘」を具現化していく仕事だ。ゼロからイチを生み出していくことが少ないカンボジアの文化の中で、クリエイティブは「嘘」をつくということに限りなく近く感じてしまうのだろう。
実際、彼女の場合はその「嘘」が肯定されたところから、ようやく才能を開花し始めた。
彼女の才能や作品をこの9年間褒めまくったのだが、仕事の上でのデザインや映像制作だけではなく、今ではプライベートでも絵を描くようになった。
今の彼女はモノを作るということを、心から楽しんでいる。
9年前、まだ途上国のイメージがあるカンボジアで何ができるか真剣に考えた。たくさんのカンボジアの子どもたちを助けるような活動は自分にはできないのはわかっていた。それならば、たった一人でもいいので、そんな子どもたちが憧れるカンボジアのヒーローを作れりたいと思った。
まだアートカルチャーが広がっているとはいえないカンボジアにおいて、JessyAnは映像制作やデザイン、そしてアートなど様々な分野で活躍している。NFTアートに挑戦したり、日本語や英語を駆使しながら様々なプロジェクトに挑戦する姿は素直に尊敬だ。
もしかたら、彼女がカンボジアの子どもたちが憧れるヒーローになってくれるのかもしれない。
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