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灌漑ってなに?【第5回ワッティーってなに?】

2017年は、国際協力機構(JICA)のワッティーの啓発アニメーションを4本作ることになっていた。

その第1弾、そしてワッティー動画としては5本目が『灌漑』だ。

『かんがい!?』
聞き慣れない単語すぎて、最初にワッティーでアニメーション化すると言われた時は困惑した。灌漑とは、つまり農業用用水路だ。
果たして、灌漑のアニメーションとは一体なんなのだろうか?

ポルポトと灌漑

カンボジアと灌漑は切っても切れない因縁がある。

ポルポト政権時代、農村部に移動させられた国民は、収量の多い陸稲を導入するために近代的な灌漑整備の工事をさせられた。しかし高低差を考えていないデタラメな設計されたため、水はスムーズに流れない無意味な灌漑施設だった。

ポルポト政権によるインテリ層の憎悪のために、専門家の意見を取り入れていない。上空から見るとわかるが、京都の碁盤の目のように一直線で作られた、ある意味美しい灌漑施設。しかし農業用水路としては殆ど機能しなかった。

それにより、国民は無意味な労働と飢餓、そして虐殺によって多くの命を失っていく。

この辺の話は、清野 真巳子著の『禁じられた稲―カンボジア現代史紀行』に詳しい。

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今なおその爪痕は残っている。田畑の収穫高を上げるために、既存のデタラメな灌漑を壊して、新たな灌漑施設を作る必要がある。しかし、デタラメとはいえ、自分たちの父や兄弟、祖父など命懸けで作った灌漑施設だ。

その思い入れがある灌漑を壊して新たな灌漑を、 作ることに、躊躇してしまうカンボジアの方々が多いのは仕方がないことだろう。そこで、JICAは既存の灌漑施設をなるべく使い回しながら、新たな灌漑の建設支援を行なっている。他国の支援だと、容赦なく壊して新しい灌漑を作る計画も多いようだ。既存の灌漑を使いながらの排水構造を設計するのは、パズルのように難解らしい。

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農水省のJCIA専門家の方々とともに

このプロジェクトでは、日本の農林水産省から派遣されたJICA専門家、カンボジア水資源気象省の方々と一緒に、実際にカンボジア各地の灌漑施設の映像を撮影するとことから始まった。

灌漑はもとより『頭首工』なんて用語も全く知らなかったが、JICA専門家の方々に丁寧に教えて頂いた。個人的にはそれまではあまり接点のなかった、農水省の方々のお話を聞かせて頂くのはとても興味深かった。

そしてなにより、ポーサット州の山奥で中国政府が建設した巨大なダムなどを撮影できるということが、とてもオモシロかった。世界中広しと言えども、途上国の田舎の中まで分け入って、灌漑のアニメーションを作るクリエーターもなかなかいないだろう。

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中華ダム

ポーサットの中国政府が建設した巨大なダムを見て驚いたのは、その大きさや迫力ではない。その作りの稚拙さと、無責任さだった。

日本政府のODA予算では、なかなか手をつけることができない大型ダムのような巨大施設。中国政府は元借款などで、カンボジア政府に100年契約でお金を貸し出し多数の巨大なインフラ設備を進めている。

しかし私が見る限り、その工事の内容は驚く手抜きが多かった。ダムの放流用のハンドルがありえない位置についていたり、メータ類などが足元の見えないところに設置されていたりと、とにかくめちゃくちゃだったのだ。

そして最大の問題は、地元住民にダム関連施設の使い方などが全く伝えられていなかったことだ。巨大なダムはあるが、これがなんの用途で、どう使うのかを、誰も伝えていないのである。周辺の人にとっては、まさにダムってなに?なのだ。

ワッティーが教えるダムや灌漑

このワッティー動画は、そういったダムや農業用灌漑の用途を啓発する目的に作られた。そして、ダムや農業用灌漑によって供給される水を「争わずにみんなで仲良く使おう」というのが伝えたいメッセージだ。

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物語は、猫さんがなぜだか自分の土地に水が供給されなくなってしまい、農作物が作れなくなってしまったところから始まる。

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ワッティーと猫さんは、その原因を突き止めるために旅に出るのだ。そしてふたりは川の上流にダムがあることを発見する。ダムの放流をコントロールすることによって、問題は解決するかと思われた。

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しかし畑に戻ってみると、猫さんの畑まで水が流れてきていない。というのも、上流の畑のイジワルな熊さんが、貴重な水を堰き止めていたのだった。

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怒った猫さんと熊さんが大喧嘩。水の利用権は農業にとって死活問題。水の争いはカンボジアに限らず、人類の歴史そのものなのだ。

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農業用途以外にも水は、飲料するためや、工場、漁業、エネルギー作成など、色々な使われ方をする。そんな水はどこから来て、どこへ行くのかを問いかける。

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水が来る場所も、水が行く場所も同じなのだ。水は循環するんだということを知ってもらい、お話は幕を閉じる。

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2019年12月、医師の中村哲さんがアフガニスタンで何者かに殺害された。

長年、医療を通じて人道支援に取り組んできた中村哲さんが、貧困の元として、医療よりも大切に感じたのが農業用の灌漑施設である。

自ら灌漑を設計し、医師であるにも関わらずシャベルカーなとを操ってまさに灌漑施設を作った中村医師。

そんな灌漑の大切さを、ワッティーを通じて知ってらえたら嬉しい。

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