書籍紹介:大野裕『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』
今回は書籍の紹介と感想です
紹介する本は大野裕さんの『不安症を治す 対人不安・パフォーマンス恐怖にもう苦しまない』です
動画版はこちら
概観
まず著者である大野裕さんについてです
彼は日本における認知行動療法の第一人者である精神科医です
こころコンディショナーというYouTubeチャンネルで認知行動療法について解説しています
ぜひ参考にしてみてください
本書を一言で表すとすれば「社交不安症の入門書」でしょう
主に社交不安症について、その原因や症状、治療法などについてわかりやすく解説されています
また、そもそも不安とは何か、現代社会における不安との関係、他の不安障害についても述べられています
この本を一冊読めば社交不安症の基本について理解できると思います
ひとつ注意点としては、執筆されたのが2006年なので少々情報が古い所がありますが、基本的な知識は現在でも通用するものだと思います
認知行動療法
社交不安症の治療は主に薬物療法と心理療法となっていますが、ここからは書籍内で紹介されている認知行動療法について考えたことなどを述べていきます
まず認知行動療法とは何かについてです
多くのメンタル疾患の背景には認知のゆがみといって、極端なものの考え方が存在していることが珍しくありません
認知行動療法は自分が無意識的に行っている偏った思考を整理し、行動によって検証し、新しく柔軟な考え方を獲得していく心理療法です
コラム法
主な方法として、コラム法というものが紹介されています
コラム法ではワークシートを使ってどんな時にどんな思考をしているのか、などについて整理していきます
本書には5つのコラムというものが掲載されています
一般的に5つのコラムというと「状況、気分、自動思考、適応的思考、心の変化」について書くのですが、本書に掲載されているものは少し異なります
社交不安症の場合は行動に重点を置くためだと思いますが、行動実験を含めて「状況、予測、実験、結果、わかったこと」というコラムを用います
ここに私が作成した架空のコラムの例を載せておきます
![](https://assets.st-note.com/img/1720607707689-mItM1Jp8Lx.jpg?width=1200)
まず今回は、外を歩いているときに人とすれ違う状況を想定します
この状況で起こることとして、自分が不審者として見られているんじゃないか、変な目で見られているんじゃないかという予測をしました
根拠として自分の服装がダサく、緊張により動きがぎこちなくなっていることをあげ、その確信度を90%としました
その後に行動実験をします
予測を確かめるために、実際に外を歩きどれだけの人が視線を向けているのかを検証します
行動中は緊張で検証が滞る可能性があったのでカメラで撮影することにしました
その結果として、10人中8人は自分のことを見てもいませんでした
また、見ていたとしても1秒ほどで興味をなくしていました
この結果から自分が思っているよりも他人は自分に興味がないということがわかり、その確信度は75%程度でした
また始めに予測していた不審者だと思われる可能性に関しては45%ほどに低下しました
これはあくまでフィクションであり、私が実際に行動実験をしたわけではありませんが、海外の方が似たような実験をしていたので参考としてリンクを載せておきます
What Happens When You Smile at Everyone I Exposure Therapy for Social Anxiety
このようなワークシートでアプローチしていくやり方がコラム法です
系統的脱感作法
また、社交不安症の場合は系統的脱感作法という治療法も有効です
社交不安症に限らず、不安というものは回避すれば回避するほど強まるという性質があります
そのため系統的脱感作法では徐々に不安に感じる場面に直面していき、不安の扱いに慣れていきます
具体的には不安を感じる場面を列挙し、不安の強さを点数にし、不安階層表という表を作り、点数の低いものから直面していきます
個人的に難しいと感じる点
以上の通り、認知行動療法は手順がきちんと構造化されていてわかりやすいというのがメリットとしてあります
実際、この書籍を読めば流れは理解できると思います
しかし実際に自分でやってみようとするとなかなか難しい所があります
たとえばコラム法での確信度や不安階層表の不安の度合いなど、主観を数値化しなければならない点です
またコラム法をやってみようと考えたのですが、検証方法を考えるのが大変です
多くの思考は必ずしも検証できるとは限らないんですよね
そのため他の参考書を参照したり専門のカウンセラーの方に補助してもらったりする必要があるかもしれません
不安を活かす
本書では何度か「不安をなくそうとしない」ということが述べられています
そもそも感情には人間に行動を起こさせるという機能があります
不安という感情があるからこそ起こる行動というものがあるでしょう
たとえば翌日の用事に遅刻するかもしれないので目覚ましを設定したり、志望校の試験で落ちたくないので試験勉強をしたりするわけです
したがって不安はなければならないものなわけです
不安障害の場合はその不安があまりにも強すぎたり対象が不適切だったりするので日常生活に支障をきたしてしまいます
しかし不安そのものが悪いわけではありません
本書の巻末には「対人不安だからこそできること」という項目があります
私たちは対人不安という性質に長年悩まされ続けてきたわけですが、翻って対人不安を活かすこともできるわけです
他人から見られる自分を意識するからこそ、マナーを守ったり自分の行動を改めたりできるはずです
他人の反応に敏感だからこそ、思いやりを持つことができるはずです
社交不安症を克服するのではなく上手に付き合うことができれば、人間として成長し、一つの特性として社会の中で活かしていくことができるのでしょう
まとめ
今回は大野裕さんの『不安症を治す』という本を紹介させていただきました
繰り返しになりますが、本書は社交不安症の入門書としてわかりやすくまとめられています
教科書として一冊持っていると役に立つのではないかと思います
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました
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