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『物は言いよう』(斎藤美奈子、平凡社、2004年)

『物は言いよう』(斎藤美奈子、平凡社、2004年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4582832415

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日本ほど人口政策が経済成長とうまく結びついた国は稀だと言われる。

戦後の高度成長と人口増加は表裏の関係にあり、増加し続けた生産者(企業)側の労働力の需要増加を満たす上で、家庭での労働力の産出(出産および育児)を支える「良妻賢母」の存在は、日本をして、世界史上でも稀有な高度経済成長を達成させる基盤となった。


裏を返せば、日本の経験した驚異的な経済成長と戦後の世界経済への復帰は、女「性」を国家政策の遂行手段として捉え管理してきた賜物なのである。


そんな訳で、巷はいまでも「悪意のない」「無邪気で」「天真爛漫な」女性蔑視発言や記事で溢れ返っている。


本書は、そのような発言や記事を拾い集め、いかに「フェミコード(FC)」に抵触するセクハラ・性差別的発言であるのかを検証し、徹底的にこき下ろす。

やり玉に挙がるのは「稀代の妄言大王」森喜朗氏や石原慎太郎氏ばかりではない。小泉純一郎氏、谷垣禎一氏、福田康夫氏ら自民党総裁の経験者はもとより、大江健三郎氏や江藤淳氏、村上春樹氏、村上龍氏などの文筆家たちの「名言・妄言」も引用されながら、これでもかとばかりに手痛い批判と皮肉にさらされる。


対岸の家事を決め込み、彼らを指差し笑ってばかりではいられない。

「元気な女性」「女の涙」「母(妻)のつとめを果たす」などの言葉は、我々の生活の中でいまでも無批判的・日常的に用いられるではないか。

これらは全て「FC」に引っかかってしまうのだ。自らの襟を正す意味でも、たくさんの方々にお勧めしたい一冊である。


ただ、一点だけ注意が必要だ。結婚式への出席を控えている方は、本書に手を伸ばさない方が無難である。

めでたい場での「問題発言」(例えば「元気な子供を産んで…」「伴侶としての務め」etc.)に気づいてしまっては、せっかくの祝いの気持ちに水を差されかねないだろうから。


併せて、なじみ深い日本のアニメや「戦隊もの」に潜んだ女性蔑視をあぶり出す、同著者の『紅一点論』(ちくま文庫、2001年)もお勧めしたい。

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差別の加害者と被害者を分ける境界線は、実は私たちのすぐ真横に引かれているのである。

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