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【編集後記】手術室の空気のはなし。

【目次】
1.論文のまとめ
2.風にこだわる理由
3.さいごに


1.論文のまとめ

今回の文献「手術室における層流および乱流混合気流と温度制御換気の比較」は、手術室の気流(空気の流れ)が及ぼす影響についての研究でした。マニアックな内容だったのではないでしょうか…。
簡単にまとめてみたいと思います。

Point 1 「手術室の気流は3種類ある」

 1.垂直層流気流(規則的で平行に流れる)

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 2.乱流混合気流(不規則な流れが入る)

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 3.温度制御気流(温度を意図的にコントロール)New

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Point 2 「3つの気流をA~Cの観点で評価してみた」

 A.  エネルギー消費量(エコ)☚経営面
 B.  空気清浄度(クリーン)☚安全性
 C.  快適度(コンフォート)☚ユーザー中心性(ここでは外科医)


さて、どの気流が手術室の環境にとって最も好ましいのでしょうか。
実験は、スウェーデンのヘルシングボリ総合病院の3つの手術室にて、計45件の整形外科手術中に実施されました。

結果をまとめると…、

評価

この結果から導かれる「総合的に良い」換気システムは…

🥇1位 温度制御気流(New)
🥈2位 垂直層流気流
🥉3位 乱流混合気流

という結果になりました。(乱流混合気流、残念…!)

2.風にこだわる理由

皆さんの中には、そもそもなぜそんなに風にこだわるのか…?と思った方もいたのではないでしょうか。

風の評価項目には、エネルギー消費量、 空気清浄度、快適度がありました。どれも大切ですが、空気清浄度はやはり、安全性の側面で必要不可欠です。

なぜか?

手術後の患者へ影響を及ぼすとされているからです。
「SSI(手術部位感染)」という単語を耳にしたことがありますか?
術部から感染することで、周辺が赤くなったり、痛み出したりする症状。体内から濁った液体が出たり、発熱することもあるそうです。

安全性が優先されるのは、手術室がリスクと隣り合わせだからなのですね。

手術室はエビデンスが絶対の世界だと、僕は思います。しかし実際、「これが絶対良い!」という最適解を導き出すのはなかなか困難なこと。空調ひとつとっても、手術室には未知が溢れています。

本文はスウェーデンの研究でしたので、これからは皆さんと、日本の手術室における空調事情について考えていきたいと思います。

…さて、その前に。申し遅れましたが、私の自己紹介をさせてください。

内田 聡(うちだ そう)
株式会社セントラルユニに入社して10年。2015年ごろに大学病院にて空調環境を共同研究を行ってから、様々な病院にて空調の在り方について検討し、自社製品の提案を行ってきました。共同研究をもとに新たな効果検証を行い、患者の低体温リスク軽減についてなど、日々エビデンスを収集。最近では、「サージカルスモーク」という電気メスなどで発生する有害なスモークについての研究をスタート。手術室環境のより未来を追求しています!

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(👆手術室内の気流について実証実験をする様子)


手術室の風には「清潔さ」が大事だと言いました。しかし10年間この仕事に関わってきてもなお、疑問に感じることは多々あります。

例えば…、
・海外ではHEPAフィルターの形や大きさが法律で定められているのに、日本の法律やガイドラインには記載されていない。 形や大きさの基準が定められていないから、空調メーカーや施工する業者、建築条件によって色々な形がつくられてしまう。

・手術台上の清浄度を考えると、長方形型であることが望ましい。しかし、それが本当に正解なのか?部屋の広さ、医療機器の配置を考慮し、手術台を90°や45°回転した位置でOPを行うことも考慮すべき。

正解を知るにはもう少し時間がかかりそうですが、これだけは大事だと言えます。

1.術野がフィルター下にあるべき理由を病院スタッフに理解してもらう。
2.1について、作る側の責任としてもしっかり理解してもらう。
3.1と2を踏まえた上で、空調設備は病院の運用などに適した配置を個別に追究していく。

3.さいごに

日本の医療現場には、諦められていることが沢山あります。
客観的に見て「執刀医は暑そうなのに、外回りの看護師は防寒具を着て寒そう」「コンセントが床に這っていて、躓いたら危険だ」などと感じることがあっても、根本的な要因が分からなければ、対処療法で解決するしかありません。

そんな「仕方がない」を拾い上げ、病院ごとに適した環境を訴求していく。僕はこれが設備メーカー(作り手)の使命だと思っています。

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(👆手術室は医療スタッフが「働く環境」としても快適である必要もあり、温熱環境など寒い・暑いに与える環境的要素(風速・放射・温度・湿度)を整えることが重要。)


少し長くなってしまいましたが、最後までお読みくださり、ありがとうございました!

HCD-HUBでは引き続き、次世代の医療環境づくりを皆さんと考えていきたいと思います。
よろしくお願いいたします(^^)

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