真贋(レビュー/読書感想文)
真贋(深水黎一郎)
を読みました。新刊です。
深水さんはメフィスト賞出身。
2007年、デビュー作の「最後のトリック」(「ウルチモ・トルッコ〜犯人はあなただ」より後に改題)は、「犯人が読者自身」という趣向が耳目を集め、長く文庫版が書店でも面陳列されている光景を見ました。
デビュー作からしてそうですが、実験的あるいは前衛的な作品が多く、万人受けする作風かというとそうでない気もするのですが、私にとっては好きな作家さんのひとりであり、これまでかなりの作品数を読了しています。
ご紹介する新刊「真贋」は、芸術探偵シリーズの最新刊にあたります。
芸術探偵とは、その名のとおり世の東西を問わず芸術(アート)にまつわる犯罪をその膨大な知識と類まれな推理力で解決する神泉寺瞬一郎の別名です。
芸術探偵シリーズはすべて読んでいますが、その中でも私のオススメは、フランスはランス大聖堂を舞台にした「花窗玻璃 シャガールの黙示」、ワーグナーの歌劇を通じて悲哀の描かれる「ジークフリードの剣」です。ミステリ的な仕掛けと重厚な物語性が融合した傑作です。
ただ、一般に深水さんの代表作というと、やはりデビュー作の「最後のトリック」や、シリーズものではありませんが、めくるめく多重推理の展開される本格ミステリ大賞受賞作の「ミステリー・アリーナ」などになるかもしれません。
さて、新刊の「真贋」です。
今作のテーマはズバリ「絵画」。西洋画と日本画、それぞれを題材に不可解な謎が提示されます。
・厳重に保管された西洋画コレクションはどうやってその全てが贋作に取り替えられたのか?
・日本画の中の美女は何故歳を重ねたのか?
魅力的な謎です。特に後者が良いですね。数年ぶりに取り出した画を見ると、描かれていた美女が年老いていたという状況なのですが、これをあらすじでは、「絵の中で歳を重ねる美女」と、よりシンプルかつ神秘的に表現しているのが謎の提示の仕方として良いなと思いました。
芸術探偵シリーズは、どうしてもその題材の蘊蓄談義が付きものなので、その場面を冗長に感じるか、知を得る機会として前向きに受け止められるかによって読者の評価はわかれそうです。基本的に衒学趣味は本格ミステリと親和性が高いので、それほど私は気になりません。
今回はメインの謎解きにもかなり絵画の専門的な知識が関わってくるため、まさに芸術探偵の面目躍如と言えそうです。
さて、個人的に、さり気ないながらとても素敵だと思った神泉寺さんの台詞を引用して、作品紹介を終わります。
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