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冬期限定ボンボンショコラ事件(レビュー/読書感想文)

 冬期限定ボンボンショコラ事件(米澤穂信)
を読みました。新刊です。

 米澤穂信さんの小市民シリーズの最新作にして完結編(?)です。

 米澤穂信さんは、2022年の「黒牢城」で直木三十五賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞しています。一般読者の認知も十全な人気ぶりでありつつ、私のようなミステリ好きにとっても目が離せない名実兼ね備えた作家さんです。

 ハイクオリティな作品を量産するイメージですが、私も大好きな作家さんのひとりで、それなりの作品数をこれまでに読了しています。

 デビュー作を含む氷菓シリーズ、今回のレビュー作が連なる小市民シリーズ、そして、太刀洗万智シリーズ――読んだ作品はどれも印象に残っています。

 氷菓シリーズや小市民シリーズはライトノベル風の読み味ですが、太刀洗万智シリーズはそれらよりやや硬派な印象。また、近作からあげると、「黒牢城」は時代小説、「可燃物」は警務小説と、ミステリーに基本軸足を置きつつも作品ごとに作風や書きぶりの硬軟さえも変化する多彩さ――それ自体が米澤作品の魅力であり特徴です。ファンタジー風の「折れた竜骨」、ノンシリーズ短編集「満願」などもミステリ好きなら必読です。

 さて。本投稿のメインである「冬期限定ボンボンショコラ事件」――そして、小市民シリーズについて。

 むりやり型に嵌めるのであれば、このシリーズは「日常の謎もの」に含まれるのだと思います。氷菓シリーズもそうですね。

 中学時代に問題事を推理したがる性格で苦い経験をした高校生・小鳩常悟朗と、常吾朗と似た境遇を送った同級生の小佐内ゆきの、「小市民」を目指すために互恵関係を結んだコンビが、平和な高校生活を求めながらも日常の中で発生した事件の謎に挑む様を描く。

Wikipedia「小市民シリーズ」より

 ・春期限定いちごタルト事件(2004年刊行)
 ・夏期限定トロピカルパフェ事件(2006年刊行)
 ・秋期限定栗きんとん事件(2009年刊行)
 ・巴里マカロンの謎(2020年刊行)

 番外編の巴里マカロンを除けば、15年ぶりの新作にして待望の完結編(??)が、本作、「冬期限定ボンボンショコラ事件」です。
(ちなみに私は秋期と巴里は未読です――)

 小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされる。翌日、手術後に警察の聴取を受け、昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。冬の巻ついに刊行。

東京創元社「冬季限定ボンボンショコラ事件」紹介ページより

 小鳩くんの巻き込まれた轢き逃げ事件を追う現代パートと、小鳩くんの同級生が被害者となった3年前の轢き逃げ事件を追想する過去パートが平行して描かれます。

 ともに轢き逃げ事件なのですが、どちらも逃走した車が「消える」という同類項の謎がフォーカスされます。

 そして、シリーズを通じて仄めかされていた小鳩くんと小山内さんが「小市民」を志すきっかけとなった出来事こそが3年前の轢き逃げ事件であり、本作を待ちに待ったシリーズファンは必読です。

 大ネタは「消える車の謎」です。これは広義の密室ものにあたるのだと思います。川、斜面、監視カメラに囲まれた事故現場周辺からいかにして犯人の車は逃走したのか。

 大ネタの真相自体は案外呆気ないものなのですが、本質はそこになく淡々と続く不穏な展開を飽きさせないストーリーテリングの手腕と、本筋に巧妙に散りばめられた微細な伏線が一気に反転する終盤が見事です。そして、帯にもありますが人気シリーズの掉尾を飾るに相応しい美しいラスト。

 そうそう。小市民シリーズはこの7月からアニメが始まるのですよね。私は「氷菓」のアニメも好きでした。


 これ、きっと小説のほうも大学生編ありますかね!?



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#小市民シリーズ


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