スイス時計の謎(レビュー/読書感想文)
スイス時計の謎(有栖川有栖)
を読みました。
有栖川さんは説明不要の人気作家です。
私自身、ミステリにハマり始めた学生時代からその作品は旧作・新作問わず多数愛読しています。
が、「スイス時計の謎」はたまたま未読でした。ということで、私的「読んでいなかった名作を今さらながら読んでいこう」の一環で手に取ったという次第です。
本作で探偵役をつとめるのは、有栖川さんの看板名探偵・火村英生です。その「国名シリーズ」と呼ばれる一作にあたります。
余談ですが、私が有栖川さんのまだ見ぬ作品で特に楽しみにしているのは火村英生と並んで有栖川さんが生み出したもう一人の名探偵・江神二郎シリーズの新作です。「女王国の城」に続く長編新作はいつ出るのでしょう。
さて、「スイス時計の謎」は2003年の作。翌年には本格ミステリ大賞の候補作に選出されています。ちなみにこの年の大賞受賞作は歌野晶午さんの「葉桜の季節に君を想うということ」です。大ヒット作ですね。他の候補作には、谺健二さんの「赫い月照」など。これも傑作でした。
「スイス時計の謎」は、表題作を含めて四編の中短編が収録されています。収録順に、そのミステリ的な趣向を紹介すると、
・あるYの悲劇
は、ダイイングメッセージ
・女彫刻家の首
は、アリバイ崩しと首切りの謎
・シャイロックの密室
は、倒叙スタイルの密室もの
・スイス時計の謎
は、純粋ロジックによる犯人特定
と、まるで本格ミステリの醍醐味をフルコースにしたような内容です。また各作ともそのレベルの高いこと。読者によって嗜好は違ってもこれだけバラエティに富んでいればどれかは必ずお気に召すはずです。
有栖川有栖さんは、純度の高い本格ミステリに徹しているというのが私の印象です。料理人に例えると、余計なものを極力入れない。本格ミステリという素材の味のみで勝負しているこだわりの職人のようです。
その傾向は特に本作のように中短編で顕著に表れます。長編の場合は、その切れ味の鋭さにプラスして物語性や情緒が添えられていることも多くあるように感じます。近作で言うと、
・捜査線上の夕映え
・鍵のかかった男
などがその種類の作品として記憶に新しいです。
結局のところ、本格ミステリとして潔いパズラー的な短編も書けるし、物語性を添えた長編も書ける、と。そういうことですね。読者としては多彩な趣向でいつも楽しませていただいて、頭が下がります。
有栖川有栖さんの名作・傑作のなかではまだいくつか気になりつつも読んでいない作品がありますので少しずつ手に取っていこうと思っています。楽しみです。
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