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ヴェロニカの鍵(レビュー/読書感想文)

 ヴェロニカの鍵(飛鳥部勝則)
 を読みました。2001年の作。

 飛鳥部勝則さんは1998年に『殉教カテリナ車輪』でデビューしています。作家さんの知名度としては格別に高いとまでは言えないように思うのですが(失礼)、しかしながら作品のクオリティは非常に高く、それらを歴史に埋もれさせるのは惜しいとする熱心なファンによる後押しの目立つ作家さんです。

 近年までその作品の多くが絶版となっており、代表作のひとつである『堕天使拷問刑』は中古本界隈で一冊数万円で売買されるなどプレミア化していました。

 そんな状況を憂うファンの声が届いたのか、書泉・芳林堂書店さんが希少本を重版・復刊する企画のなかで飛鳥部さんの作品を2023年頃から続々と展開してくれています。

 本投稿現在にして、
・堕天使拷問刑
・黒と愛
・鏡陥穽
・バベル消滅
・ヴェロニカの鍵
・レオナルドの沈黙
・殉教カテリナ車輪


 が復刊されています。

 私は、飛鳥部作品はデビュー作の『殉教カテリナ車輪』しか読んでいなかったので、『堕天使拷問刑』以降、復刊企画の展開とともに作品を追っていますがどれも非常に面白いです。

 それに、こうして書店さんが読者の声を吸い上げて絶版本を復活させるという試み自体もとても素敵ですよね。

 さて、『ヴェロニカの鍵』です。

創作に異様な執念を燃やす画家の謎の死。密室殺人、移動する死体、そして首の無い怪人。本格ミステリーの醍醐味が凝縮された傑作

制作に異様な執念を燃やす画家が、密室で殺された。だが、第一発見者でもある友人の画家は知っていた。前夜、死体は隣の部屋にあったはずだ……。自身が画家でもある著者の作品も含む四点の絵画が口絵と本文中に収載され、興趣を添えます。頭のない怪人物、移動する死体、そして完全なる密室。芸術に生涯を捧げる人間の業が抉りだされるラストの謎解きも鮮やかな、本格ミステリの逸品です。

『ヴェロニカの鍵』紹介ページより

 飛鳥部さんは絵画のコレクターであり、また、小説執筆のかたわら自身も筆を取って絵を描くマルチクリエイターです。

 本作『ヴェロニカの鍵』の主観人物である久我はスランプに陥いったことで苦悩、呻吟する画家。以下にあとがきから一節を引用しますが、もしかすると久我というキャラクターは作者の人格あるいは過去の一部が投影されているのかもしれません。

推理小説には〈暗い青春〉テーマというものがある。(中略)
処女作『殉教カテリナ車輪』も、失われた青春ものしての側面を持っている。中に東条寺桂という登場人物が出てくるが、この男に関して書ききれなかった部分が、『ヴェロニカの鍵』の久我和村となったようだ。故に『ヴェロニカの鍵』も失われた青春ものとしての側面を持つ。

『ヴェロニカの鍵』あとがき より

 ヴェロニカを描かないといけない――。

 ルオーの絵画『ヴェロニカ』を前に、久我は自身のなかに潜む聖女ヴェロニカの影に懊悩します。久我の過去において、聖書に描かれる聖顔布の女とオーバーラップする人物とは。

 そして、なぜ、画家の死体は密室へ移動したのか。

 本作の中心に居座り続ける謎の真相もまた執念に燃える画家の業(ごう)に起因していて――。

 ミステリとしての技巧性と作家性が高次で融合した作品です。


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