見出し画像

六色の蛹(レビュー/読書感想文)

 六色の蛹(櫻田智也)
 を読みました。新刊です。

 2017年、櫻田さんの単行本デビュー作「サーチライトと誘蛾灯」以来、その作品はすべて読了しています。本作「六色の蛹」は、3作目にあたります。

 ちなみに、2作目の「蝉かえる」は、2021年の日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞しています。

 昆虫好きの心優しい青年・エリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。行く先々で事件に遭遇する彼は、謎を解き明かすとともに、事件関係者の心の痛みに寄り添うのだった……。ハンターたちが狩りをしていた山で起きた、銃撃事件の謎を探る「白が揺れた」。花屋の店主との会話から、一年前に季節外れのポインセチアを欲しがった少女の真意を読み解く「赤の追憶」。ピアニストの遺品から、一枚だけ消えた楽譜の行方を推理する「青い音」など全六編。日本推理作家協会賞&本格ミステリ大賞を受賞した『蝉(せみ)かえる』に続く、〈エリ沢泉〉シリーズ最新作! 著者あとがき=櫻田智也

東京創元社「六色の蛹」紹介ページより

 前2作同様、本作「六色の蛹」も魞沢泉を探偵役に据えた連作短編集です。作者の櫻田さんは、泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズ、チェスタートンのブラウン神父シリーズからの影響を受けているようですが、小説としての面白さと本格ミステリとしての高品質をコンパクトな短編の中で両立させるその手腕には毎回舌を巻きます。

 探偵役の魞沢泉は虫好きの青年という設定です。前2作は事件もストレートに虫にちなんだものが多かったように感じますが、本作は、虫好きという設定を端緒にして、題材が「自然」全般にまで及びます。守備範囲の広がった魞沢泉は、さながらネイチャー探偵といったところでしょうか。

 収録作は以下のとおり。

・白が揺れた
・赤の追憶
・黒いレプリカ
・青い音
・黄色い山
・緑の再会

 本格ミステリの仕掛けとしては、ハンターの入る山で起きた銃撃事件の顛末を描く「白が揺れた」と、遺跡発掘現場から出土した遺体をめぐる「黒いレプリカ」が秀逸です。

「赤の追憶」と「青い音」はいわゆる日常の謎です。前者は花屋での何気ない会話の裏にある真相が、後者はピアニストの遺品から消えた楽譜の謎が描かれます。

 後半の「黄色い山」と「緑の再会」はそれまでのお話の後日談にあたります。

 本格ミステリとしての濃度は前2作と比較してやや薄まった印象を個人的には受けましたが、それ以上に物語としての完成度が高く、特に後半は推理小説であることを忘れて心を打たれっぱなしでした。

 帯には、「昆虫好きの優しい青年は、人の心の痛みに寄り添う名探偵」と書かれていましたが、まさに看板に偽り無しですね。

 これからも注目を続けたいシリーズです。


#読書感想文
#本格ミステリ
#ミステリー
#推理小説
#昆虫


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,615件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?