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【読書】初めてのアンハッピーエンド

 今でもはっきりと覚えている。

 小学五年生。図書館で見つけた背表紙。

 あの一冊が僕を本の虫にした。

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 本はよく読む方だと思う。色んな本に感動してきて、心動かされることが何度もあった。だから『人生を変えた一冊』というテーマで書こうと思った時、僕は少し迷った。

 本を読んだり書いたり、僕の人生はほぼ物語と共に過ごしてきたようなものだ。その中から自分の人生を変えたものは何か。

 数冊候補を挙げ、よく考えてみると間違いなくこれだというものが見つかった。きっとこの本に興味を持っていなければ、出会っていなければきっと今の僕はいない。間違いなく本好きにはなっていないし、国語の教科書をもらってすぐに載っている小説を読むような性格にはならなかったはずだ。

 今でもはっきりと覚えている。

 小学五年生。図書館で見つけた背表紙。

 あの一冊が僕を本の虫にした。

『リアル鬼ごっこ』

 山田悠介『リアル鬼ごっこ』。読んだことがなくても聞いたことがある人は多いはずだ。

 一応、知らない人のためにあらすじを書いておく。

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「リアル鬼ごっこ」
山田悠介/著 

(佐藤〉姓を皆殺しにせよ!西暦3000年、国王は7日間にわたる大量虐殺を決行。佐藤翼は妹を救うため、死の競走路を疾走する。若い世代を熱狂させた大ベストセラーの〈改訂版〉。

◤◢注意◤◢
ここからはネタバレを含むので知りたくない方は記事を閉じてください。


 この本に会う前から友達の会話の中で「リアル鬼ごっこ」という単語が出たことはあった。でも幼かった僕は本物の鬼の鬼ごっこという認識をしていた。

 小学五年生のある日、図書館で同じ単語を見つけ、思わず手に取った。

「本当に『リアル鬼ごっこ』ってあるんだ」

 というのが僕の最初の感想だ。そしてそれだけの理由で借りた。

 当時「マジックツリーハウス」シリーズばかり読んでいた僕にとっては、初めての長編小説で、わからない漢字も多かった。それにも関わらず、読み始めるとページを捲る手が止まらなかった。

 なんだ、この残酷な世界は。

 今まで明るい話しか読んだことがなかった。何かが起こって、仲間と協力してハッピーエンド。それが僕の知っている物語だった。

 『リアル鬼ごっこ』はそうではなかった。次々と人が死んでいく。

 どんどん状況が悪化する。

 そして最後に主人公も死ぬ。

 僕が初めて「アンハッピーエンド」の存在を知った瞬間だ。

 「きつねのおきゃくさま」も「ごんぎつね」も悲しい結末だったが、そこには温もりがあった。

 だけどこのアンハッピーエンドでは血の匂いしかしなかった。

 それがとにかく衝撃的で、僕の物語の世界を一気に広げた。

 同じ作者の作品を片っ端から読み始め、やがて違う作家の本も読み、純文学やラノベにも手を出し……

 そして今に至る。


この本に出会っていなければ、僕は小説を好きになっていない。 

小説も書いてない。

演劇にも興味を持っていない。

間違いなくそう断言できるほど、僕の人生を変えた一冊だ。

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