見出し画像

境界線

足が
地面に沈み込む夜。
足下に
影をつくらない星月夜。
熱のこもったからだが
世界でたったひとりの
(わたし)
という存在。

「もしもし、
 今日見た夢の話を聞いて。」
町。
灯りも人の気配もなくて、
いつもの地面も不確かで、
滑るように
流れるように
辿り着いた
あなたの家の前。
そこに、
月が
光る。
最上階の角部屋。
私の心の拠り所。
この世界で
たったひとつの光

じっと見上げていた。

どれくらい
見上げていたかしら。
私の目を覚ましたのは、
どこからか聴こえる
グロテスクなセレナード。
不安定な
現実の
音色。
夢と
同じ時刻、
一歩外に出れば
夢と
違う世界。
あふれすぎて存在しない、
たったひとつの光。
私の心の拠り所。
足下に
影をつくる町の灯り。

「ねえ、
 本当のわたしはどっちかしら。」

 
月。
それだけでいいのに。
触れられなくても、
届かなくても、
ひとつだけなら
それだけでいい。
だけどもうこの世界では、
ぼんやりして
埋もれてしまって
目眩がして
うっかりして
みんな見失う。
だから
私にはあなたが、
あなたには私が、
輪郭をなぞらなければ。
触れ合って、
はっきりさせなければ。
お互いの
世界でたったひとりの
(わたし)

(あなた)

境界線。

「今から確かめに行くわ。」

最上階の角部屋。
私の心の拠り所。
世界でたったひとつの光。
私の月、
世界でたったひとりの
あなた。

境界線 instagram


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?