あなたが知らないスポーツビジネスの裏側【CFO編】
「強いチームが勝つのではない。勝ったチームが強いのだ」という故ベッケンバウアー氏の言葉がありますが、現代のスポーツ界においてはただ試合に勝つだけでは強いチームとは言えないかもしれません。強いチームには必ず、ファンたちが毎試合の結果に一喜一憂する裏側で長期的にチームの成長のために奔走しているビジネスパーソンがいます。
今回はNBAの名門チーム、Golden State WarriorsのCFO、Jennifer Cabalquinto氏が普段はスポットライトが当たらないスポーツチームのビジネスサイド、その中でもCFOという役割について語ったインタビューをもとに、スポーツチームの経営やそこでのキャリアについて書いていこうと思います。
Golden State Warriorsの"業績"
彼女のキャリアについて取り上げる前に、前提として近年のWarriorsの業績について少し触れておきたいと思います。Golden State Warriorsはステファン・カリー・やケビン・デュラントなど名だたるスターを擁するNBAファンなら知らない人はいない名門チーム。今シーズンは主力メンバーの不調や怪我での離脱により最下位という結果になったものの、2015年から2019年の5年連続でチャンピオンシップに進出し、うち3回で優勝を果たすなど名門チームであることは間違いありません。そんなWarriorsですが、スポーツサイドの成績もさることながら、ビジネスサイドの"業績"も近年目を瞠る成長を遂げています。
上記は2001/2から2018/19年にかけての売上の推移を表したグラフです。チャンピオンシップに進出した2015年以降売上が急激に伸びていますが、それ以前の推移を見ても堅調に売上を伸ばしていることがわかります。
また時価総額を見ても世界のスポーツチームの中で時価総額約35億ドルの第9位にランクインしており世界的にも評価されていることがわかります。(ちなみに第1位はNFLのDallas Cowboysで約50億ドル)
ここからが本題です。急成長を遂げるWarriorsの裏側でCFOであるCabalquinto氏は何を考え、行動しているのでしょうか?まずは彼女のCFOとしての役割を見てみましょう。
そもそもCFOの役割とは?
最近日本でもコーポレート・ガバナンスやスタートアップの資金調達などで話題に上がるようになってきたCFO職ですが、彼女はCFOとしての仕事をあくまでWarriors内に限った話だと前置きした上で次の3つと説明しています。
- 経営判断に必要な財務パラメーターの設定・検証
- 選手獲得や設備投資の際に財務にかかる影響のプロジェクション、検証
- ビジネスの成長をドライブ
上記を見ると一般的に考えられるCFOの仕事となんら変わりないかと思います。特徴的で面白かったのは、
- オーナーの意思決定に対する拒否権はない
- 選手獲得の際の契約額や内容の意思決定には関与できない
の2点です。CFOの権限については企業毎に微妙に違ってくると思いますが、経営陣に対して拒否権がないのは驚きでした。あくまで経営陣が策定した戦略を遂行できるよう、適切な財務指標を設定してモニタリング、改善を行いビジネスを成長させることが主な役割のようです。
具体的な日々の仕事内容は?
Warriorsの成長を財務面から支えることがCFOとしての彼女の役割でしたが、日常的にはどのようなことをしているのでしょうか?彼女は以下のように述べています。
○主に仕事をするのは①ファイナンスチーム、②リーガルチーム、③CEO
1. ファイナンスチーム:日々の経営指標のモニタリングや日常的な経理業務について
2. リーガルチーム:契約に関するマネジメントとコンプライアンスリスクについて
3. CEO:戦略に基づいてどのように最適なリソース配分をするかについて
こうしてみてみると、売上とコストの管理からコンプライアンスまで、人事以外の経営に関わる全てに関して携わっています。よくCFOはCEO以外のすべての仕事を行うと言われますが、まさに「なんでも屋」として財務数値に紐づくあらゆる業務を行っていることが伺えます。世界的に人気のあるスポーツチームとはいえ、利益を出し、投資し新たな収益源を作っていかないことには継続的な営業活動はできません。彼女のようなファイナンス領域でのエキスパートが日々売上やコストの管理、投資判断を行うことで堅実に成長する企業が作られているのだと思います。
Warriorsで働くことになった彼女の経歴とは一体?
ここまでCFOの仕事を見てきましたが、一体どのようなキャリアを経て彼女はWarriorsのCFOになったのでしょうか?
彼女は大手会計事務所の監査法人でキャリアをスタートしました。その後スペイン語系テレビ局のTelemundoでFP&A(Financial Planning & Analytics)の経験を積んだ後、音楽・映像ソフト会社のNBC UniversalのVice President、Universal Studios HollywoodのCFOを経て2013年8月からWarriorsにCFOとして入社しました。
こうしてみると、一貫してファイナンス関連の職種を務めてきたことがわかります。またエンターテインメント系のビジネスにも長らく携わり、「ファイナンス×エンタメ」がキャリアのキーワードといえるでしょう。
彼女の経験は、スポーツチームの経営にどのように生かされているのでしょうか?実際にどのようなビジネスをしているのかを理解することで、彼女がこれ以上ない人材だということがわかります。
スポーツビジネスの収益構造
そもそも、Warriorsに関わらずスポーツチームの収益は主に以下の4つの項目から成り立っています。(各リーグごとの分配金やスポンサー収入などもありますが主な項目としては以下の4つ)
1. チケット収入
毎試合販売されるチケットの収益。年間パスや会員収入もここに含まれています。
2. グッズ販売などのライセンス収入
ファンがレプリカユニフォームやロゴの付いているグッズを買った際に得られます。
3. スタジアムから得られる収益
アーティストが開催するコンサートやコンベンションのためにスタジアムが使われた際の利用料です。試合は毎日開催されるわけではないので、ゲーム・デイ以外にどれだけスタジアムに人を呼び込み活用するかが重要になってきます。
2019年におよそ5億ドルの建設費を投じて新設させたChase Center。NBAの試合以外にも年間200ほどのイベントが開催される
4. 放映権
テレビやオンラインのストリーミングなどにより、試合等を配信する際にテレビ局、配信元から分配されるお金のこと。その国ごとのレギュレーションやリーグ運営団体の方針などからかなりチームによって幅が出てくる項目です。
日本におけるスポーツビジネス業界でのキャリアとは?
日本に目を向けてみましょう。日本においてもここ最近スポーツビジネスが彼女のようなキャリアを積んだいわゆる「プロフェッショナル人材」の活躍の場として注目されてきていますが、CFOとしてはもちろんのこと、他の役職をみてもロールモデルがあまりいないのが実情です。
上記で説明したようにスポーツビジネスはto Cでもありto Bでもあり、スタジアムのような大規模なハコものも運用するいわば総合格闘技的なビジネスであることがわかります。本来であれば彼女のようなプロフェッショナル人材が活躍する業界であってもいいはずです。
米国でのスポーツビジネスの規模と日本とで比較するとまだまだ差があり、彼女のような人材に払える給与レンジも低水準なのが現状だとは思います。しかし、デジタルとの融合(eSportsなどホットなトピックはありますが、それについてはまた別の記事で取り上げます)やそれによって起こる観戦体験の変化、ブランドビジネスとしての側面など、これまであった産業とは一味違う経験が積めることは間違いなく、魅力的な業界であるように感じます。
一方で業界全体がまだまだ成熟してないこともあり難易度が高い業界であるのは間違いありません。スポーツビジネスの発展においては彼女のようなプロフェッショナル人材が活躍すること、彼女のような人材が働きたいと思える産業にしていくことは重要です。彼女ほどの経験値がないとしても(自分自身もそうです。)スポーツビジネスに興味がある方は、自分の持っているスキルがどのようにスポーツビジネスという総合格闘技の中で活かせるか、考えてみると面白いかもしれません。筆者が思いつく範囲でいうと、例えば、
- カスタマー領域:数万人の来場客の動向をデータとして集めてそれを活用
- チケット販売:価格設定から販売方法など
- スタジアムの有効活用:稼働率向上
- ファイナンス領域:借り入れやスポンサー収入だけでない、あらゆる手段での調達
-UX/UI: アプリなどを通じたファンエンゲージメントにおいて重要
などが考えられるかと思います。先述したようにto Cでもありto Bでもある、総合格闘技のようなビジネスであるが故にあらゆる領域の専門家に対して門は開かれています。次の転職先として、また学生の就職先として、一度考えてみてはいかがでしょうか。
参考情報
Jennifer Cabalquint氏のインタビュー
この記事を書いた人
Shawn(ショーン)
学生時代は3社のスタートアップでインターンを経験した後に外資コンサルに新卒入社。大学では経済学専攻。趣味は旅行とDJ。好きな映画はデビッド・フィンチャーの「Fight Club」。
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