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陽の目を見ない素晴らしきロマン派の作曲家たちの存在に少しだけ触れてきた

金沢市の音楽家 金澤さんを訪ねる

3月5日に角野隼斗さんのコンサートを聴きに行くための遠征(札幌公演に続き2ヶ所め)と小旅行を兼ねて石川県金沢市を訪れていた私は、コンサートのあった翌日、NPO法人ミュージックソムリエ協会の理事長 さやかさんと落ち合い、金沢在住の音楽家 金澤 攝(かなざわ おさむ)さんのお宅に伺うことになりました。

(私は実はこの日までどなたに会いに行くのか、どんな方なのか具体的に知らず、また私自身が先入観無しにお会いしたかったのもあったので、事前情報が何も無いまま訪問してしまったのですが、ピティナのサイトに金澤さんの研究に関する記事や連載がたくさん載っていたのを帰りの新幹線の中で初めて知りました。)

金澤攝さんとは…

金澤 攝 かなざわ おさむ

作曲家、ピアニスト、研究家。1959年、石川県金沢生まれ。70年から74年までピアノを宮沢明子氏に師事。 15歳で渡仏、パリに学ぶ。作曲を独学で学び、ピアノのレッスンに並行して広範囲にわたる作曲家の研究に取り組む。78年、知られざる名作を日本に紹介すべく帰国、研鑽を重ね、現在約一千名の音楽家を対象として研究、演奏を行っている。第7回ラ・ロシェル(メシアン)国際コンクール第2位(1位なし)、第1回現代音楽コンクール審査委員長(故・園田高弘氏)奨励賞、第3回村松賞大賞、金沢市文化活動賞、石川テレビ賞ほかを受賞。ピティナ公式Webサイトにて、著作「ピアノ・ブロッサム」「音楽における九星」を掲載。
一般社団法人 全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)
ピティナ調査・研究 金沢攝プロフィール
より


金澤さんが研究しておられる1820年代生まれの作曲家たちには、1810年代前半に生まれたショパン、シューマン、リストらの華やかさに対し、闇に埋もれた作曲家たちが数多く存在するらしいのです。

金澤さんは海外にいる知人を通じて、そうしたこれまで陽の目を見て来なかった作曲家たちの作品の楽譜を手に入ったもの順に少しずつ取り寄せ、時系列に並べ、吟味し、それぞれ暗譜をして練習をし、金澤さん自らの演奏で宅録。1番良いテイクが録れるまで納得の行くまで録り直し、公表できる形にしてゆく準備をされています(←想像しただけで気が遠くなります…)。
その中からいくつか楽譜のコピーを見せていただき、音を聞かせていただくことができました。


ピアノの歴史における闇の時代に埋もれていた美しい楽曲の片鱗に触れる…

まず、フランツ・リストに献呈されたリスベルク(Charles Bovy-Lysberg)という作曲家のバルカロール Op.7 を生演奏で聴かせていただきました。
ショパンの舟歌に比べるともう少し波の大きさが目立つような、そしてリストに向けて書かれたというだけある華やかさを感じる舟歌に感じました。

聴いている分にはそんな風には感じづらいですが、大変譜読みがしにくいそうです。前半と後半に同じようなフレーズが出て来ても、細かいところが決して同じではないとか…。
私も楽譜のコピーを見せていただきましたが、そのお話を聴いて、多少即興性のある音楽だったのかもしれないと思いました。ジャズのソロパートを譜面に起こすととても読むのが難しくなるのに共通するものを感じました。

あとコピーとはいえ、楽譜がとても美しい状態で残っているのも驚きでした。当時は封をされた状態で出版される形式があったようなのですが、その封が開けられないまま百数十年以上経っているものもあるとか…。

このリスベルクはショパンの弟子でもあったそうで、「6つのカプリース Op.18」という曲はショパンの為に書かれたものだそう。
こちらは録音音源を聞かせていただきましたが、エチュードとして書かれた曲だそうで、6つとも短め。私にはショパンのエチュードに負けずとも劣らない、どれもキャッチーで曲としても楽しめる練習曲だと感じました。
たとえば、ショパン 3つの新エチュード3番のような可愛らしい感じのもの、エチュード10-1の右手と左手が逆になったようなもの、シューベルトの「魔王」みたいな連打が激しめのもの…といった感じで、バラエティに富み、曲の存在を知っていたら普通に弾いてみたい!って思うな、これは…と思いました。(ただこちらも楽譜は32分音符がやたら多かったりして読みづらいな…という印象でした。)

(↑こちらの動画は別の曲ですが、金澤さんがリスベルクの曲を演奏されているもの。牧歌的で爽やかな曲ですね…)

「バルカロール」も「カプリース」も、むしろ陽の目を見なかったのが不思議なくらいだと思ったのですが、
これってひょっとしたら、今の若い人たちが昭和のものを新しく感じるみたいなのと同じで、現代の私が聴くからそう思うのかもしれない…とふと思いました。

ショパンやリストらのスターをリアルタイムで聴いてきた人々が多い時代だとすると、(言葉を選ばずに言えば)どこかしら彼らの曲に似た"二番煎じ"みたいに世間的に捉えられてしまってた可能性もあるのかもしれない…
ただ、二番煎じがオリジナルを上回ることだってあるわけだし、単純に受け入れ態勢がなかったとも考えられますが。。

当時のそうした表に出ることのなかった作曲家の中には、幅広く弾いて・聴いて欲しいということは考えずに、ひたすら自分のやりたいことだけを突き詰め、
弾けるもんなら弾いてみろ!」(←クララ・シューマンに向かって。笑)
といった挑戦的な楽曲を書く者もいたそうで、
私はその精神にアングラなロック魂を感じて無性に愛おしくなりました。笑

当時の曲を今の私が聴いてキャッチーな良い曲だなと思えるということは、作曲家本人が自分達は日陰の存在だ…なんてことを意識していた訳ではないように思います。
本当は自分達もショパンやリストのようになりたくて、目指して曲作りをしていたかもしれない。でも結果的に陽の目を見なかった…そしてその期間がしばらく続いた…というのを、我々が第三者的視線で「闇の時代」と捉えているということなのだと感じました。


これまで隠れていた秘宝とどう関わっていけばいいのだろう…

有名な曲だけが長い時間を越えて今もなお、数多くの凄腕ピアニスト達によって磨かれ続けて、もうこれ以上ないくらいに輝いてしまってる状態だけれど、
それはものすごい目の粗いザルに残ったものだけをひたすらピカピカに磨き続けているような状態であって、
もう少しだけ目の細かいザルにしただけで、ふるいにかけて残ってくる未知の素晴らしい楽曲の数は膨大な量に膨れあがるのかもしれません。

それを今、1人の日本の音楽家 金澤さんが、1820年代生まれの作曲家にフォーカスし、根気強く掘り起こし、表に出せそうだと判断したものを紹介していこうと、長い時間をかけて一生懸命研究されているのです。

実際そうした曲が表に出ることになれば、我々はそれらを"新しい曲"として受け取ることができます。なんだかすごいロマンを感じる話です。。

今作曲をしようとしてる人たちにとっても新たに何かインスパイアされる可能性が広がるかもしれないし、アイデアの引き出しが増えるかもしれない。ピアノ教室でいつも同じ練習曲をやらなくちゃいけないところに新しいレパートリーが増えるかもしれない…そんな新たな希望が持てる気がします。。

ですが、このプロジェクトが完成した後、どのように発表し、多くの人々に浸透させて行くのか…といった課題もあると思います。
そのまま宙に浮いてしまったらもったいなさすぎる話だなと感じます。


一度きりしか演奏されない曲も多々あることを知る…

金澤さんは作曲家としても活動されているのですが、式典や企画コンサートに向けて書きおろされて、その時1度きりしかお披露目されない楽曲もたくさんあるそうです。

『秋の七草』『春の七草』という組曲をはじめ、オリジナルの室内楽の楽曲の中からいくつかを手書きの楽譜と共にライブ音源で聴かせていただきました。
すごい初心者な事をいうと、手書きのオケ譜をまじまじと見たのは初めてで(まあ、一応学生時代に超基礎のオーケストレーションの授業は取りましたが…)、曲を聴きながら譜面を追うのはとても面白かったです。
1曲の中でも楽章毎に楽器編成が変わったり、テンポが早い曲や変拍子が挟まってきたりするとたまに見失うのですが、それもまた面白くて。笑

先に挙げた『秋の七草』はこの日聴いた中で1番キュンときた楽曲で、オーボエ、チェレスタ、ピアノというトリオ編成、各楽章に七草の名前がついた7つの小曲で構成されていました。
チェレスタが入ることで、魔法にかけられたような雰囲気になり、そこには可愛らしさと凛とした感じも両方あります。
月の満ち欠けに連動してるイメージだとおっしゃっていて、まさにその世界観が私は大好物だな…と思いました。

言ってみれば「現代音楽」の部類だと思いますが、金澤さんのお母様が舞踊家(バレエ)とのことで、ダンス風リズムを帯びた曲も多く、とても聴きやすく感じました。


さいごに…

そんな感じでたくさんの新しい音楽と興味深いお話を一気にたっぷりと聞かせていただき、ものすごい集中力を使い果たしましたが(笑)、とても楽しくて、非常に貴重な体験となりました。
(私を連れて行ってくださったさやかさんにも感謝です!)
ありがとうございました。


〈おまけ〉
金澤さんのお宅へ伺うお約束の時間まで少し時間があったので、さらっと近江町市場へ観光に行き、遅めの朝ごはんをいただきました。
あったかい豚汁が身体に沁みましたし、ふわっと握られたできたておにぎりもめちゃくちゃ美味しかったです♡

豚汁とおかかのおむすび。
炒飯も出来たから少しどうぞ、とおまけしてくれた♪

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