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#1『冷たい校舎の時は止まる』(著:辻村深月)を読んだ感想

今月、新潟市では記録的な大雪が降った。

降り止まない雪を見ていつも思うのは、同じ場所にいてもまるで別世界にいるかのような雰囲気であること。
そして、どんよりとした気持ちになり、ずっと蓋をしておきたい過去のイヤな出来事を思い出してしまうこと。

そんな大雪の中読んでいたのが、辻村深月さんのデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』

物語の世界とリンクしたかのような降り止まない雪の中で読んだ本は、僕にとって忘れらない本となった。

あらすじ

雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。でもその顔と名前がわからない。どうして忘れてしまったんだろう――。第31回メフィスト賞受賞作。

『冷たい校舎の時は止まる(上)』

感想

上下巻あわせて約1200ページの長編

『冷たい校舎の時は止まる』を購入したのは今年の5月で、積読になっていた作品。

読むのに踏み出せなかった理由、それはページ数の多さ。
上下巻あわせてなんと約1200ページ!
単純に読むのに時間がかかりそう、と思ったのである。

しかし、実際に読み始めるとそこまで難しい表現は書かれていないため読み進めやすい。
そして、何よりもミステリー要素がある設定が面白い。

「自殺したのは誰?」
「写真に写っていない1人って?」
「そもそもなんで閉じ込められた?」
「榊はどこにいる?」

こんな感じで気になって、気づけば夢中になって読んでいた。

登場人物1人1人に感情移入する

物語の舞台は県下一の進学校・私立青南学院高校。
登場人物は全員3年2組でクラスの学級委員を務めており、互いに信頼し合っている仲間である。

これを見ただけだと、学園系の爽やかな明るい話のイメージを持つ。
しかし、物語はクラスメートの自殺から始まり、さらに各々が打ち明けにくい過去の話が回想シーンとして入る。どちらかというと暗い話が前面に出てくる。

しかし、この回想シーンは物語の重要なキーとなる。
そして、これを見るからこそ登場人物1人1人に感情移入していき、物語を面白くさせるのではないかと思う(僕が回想シーンが好きなのもある)。

天才の苦悩、複雑な家庭環境、過去のある事件…
それは一見エリートに見える登場人物たちの弱い部分に焦点が当てられている。目を背けたくなるが、彼ら彼女らがそれに向き合っていくからこそ勇気や元気をもらう部分があった。

回想シーンの中で僕が印象に残っているのは、体育祭の鷹野とひまわりの家(とくに体育祭の鷹野はかっこいい!あれはキュンとする?)。

季節を反転させたような爽やかな読了感

読み進める中で、少しずつ「ん?」と違和感のようなのものを覚えるが、それでも真相はハッキリしてこない。

気になって気になって仕方ない、と思いながら読んでいくと終盤の1シーンで一気に物語が繋がる。
目の前がパッと明るくなったような感じと、よくよく考えたらそうだった!というどこか悔しい感じ(笑)
辻村さんの作品は後半で一気に伏線を回収することが多く、これが僕が辻村深月さんのファンになったきっかけの1つでもある。

その後は、まるで季節を反転させたかのような爽やかな読了感に包まれた。

印象的なフレーズ

「結局、何が最終的に支えだったのか、原因だったのかなんて、本人じゃないとわからない。もう絶対にわかんないんだよね」

『冷たい校舎の時は止まる』

終わりに:デビュー作と知らずに読んだら気づかない?

これまで読んできた本の中で印象的な本は、どれも読了後にしばらく余韻に浸っている。本作も読了後の今も余韻に浸っている。

また、爽やかな読了感がありながらどこか寂しさもある。それは登場人物たちのことが好きになったのかもしれない。
「また、会いたいな」
そんな気持ちにさせてくれる。

まとまった時間があるときに再読して彼ら彼女らに会いに行こう。

そして、本作は辻村深月さんのデビュー作!
デビュー作でこのような長編、まるで心を見透かされたかのような心理描写、いたるところにある伏線をしっかり回収する構成。
デビュー作と知らずに読んだらまず気づかなかったと思う。

2022年の終わりに、素敵な作品に出会えて良かった。


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