#15 優しく落ち着きのある感動に包まれた『ラブカは静かに弓を持つ』(著:安壇美緒)を読んだ感想
安壇美緒さんの『ラブカは静かに弓を持つ』
第6回未来屋小説大賞を受賞し、2023年(第20回)本屋大賞ノミネート作品にも選ばれています。
※4/12追記
『ラブカは静かに弓を持つ』が2023年(第20回)の本屋大賞の2位になりました。おめでとうございます!
あらすじ
感想
優しく落ち着きのある感動
素敵な演奏を聴いた時のような余韻
僕は小説を読むとき、登場人物に感情移入をするタイプです。
同じように人付き合いが苦手なのもありますが、主人公の橘にこれほど感情移入したのは最近では記憶にないかもしれません。
後半から息が止まったり涙腺が緩んだりと、感情が揺らぎっぱなしでした。
ある理由でチェロから距離を置いていた主人公の橘樹。
潜入調査のため音楽教室に入ったはずが、講師の浅葉桜太郎や同じ教室の仲間との出会いで、徐々に閉ざされた心が開いていきます。
深海に潜り込んでしまった橘に差してきた一筋の光。
避けていたチェロに抵抗がなくなり、真剣に向き合いたい気持ちが強くなって行く中で、経歴を偽りみんなを騙している罪悪感。
裁判での証人尋問が迫り、音楽教室を辞めなければならない現実。
このような状況の中での橘の心の葛藤に胸が締め付けられました。
目を背けたくなるような気持ちで読み進めましたが、読了後は優しく落ち着きのある感動に包まれました。
そして、まるで素敵な演奏を聴いた時のような余韻に浸っています。
伏線の繋がり方も素敵で、終わり方も個人的に好きです。
ネタバレになるので具体的には言えないのですが、物語が飛躍し過ぎていない感じが良いと思いました。
本作のキーとなるものは、人と人との「信頼」だと思います。
僕は信頼の築かれ方以上に、壊れた時の向き合い方を学んだ気がします。
なぜ物語が動いていったのか?
それは、橘がチェロに真剣に向き合ったからだと思います。
たとえ趣味でも、真剣に向き合っている姿って素敵なことです。
僕も好きなことには自分なりに真剣に向き合っていきたいと思いました。
本作は音楽(チェロ)を題材にした小説ですが、音楽の知識や演奏の経験がなくても物語に入りやすかったです。
途中、チェロの演奏を聴きながら読んでいましたが、とても心が落ち着く感じがしました。
実際の生の演奏も聴いてみたくなりました。
また、音楽業界の現状についても考えさせられました。
著作権使用料によって新しい音楽が生まれる側面があるから、全著連側が悪者というわけでもない。
でも音楽教室で弾いた楽曲から著作権使用料を徴収すれば、演奏したい人が減るかもしれない。
どちらの意見も間違ってないからこそ難しい問題だなと読みながら感じていました。
※実際の日本では最高裁の判決が出ているみたいですね
印象的なフレーズ
また読み返したい、大切にしたい1冊
素敵な演奏を聴いた時のような余韻に浸った『ラブカは静かに弓を持つ』
また読み返したい、大切にしたい1冊になりました。
生きづらさを抱えている
人付き合いが苦手なほうだ
毎日が楽しくないと感じている
そういった方にとって、光が差し込んでくる1冊だと思います。
そしてぜひ実写化で見たい!
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