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#16 単なる紀行エッセイではない!『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(著:若林正恭)を読んだ感想

若林正恭さんの『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』

先日読んだ『ナナメの夕暮れ』がとても面白く、他のエッセイも読みたいと思い手に取った1冊です。

図書館から借りた本を読みましたが、手元に残したいと思える素敵な作品だったので、改めて購入しました。


あらすじ

飛行機の空席は残り1席――芸人として多忙を極める著者は、5日間の夏休み、何かに背中を押されるように一人キューバへと旅立った。クラシックカーの排ガス、革命、ヘミングウェイ、青いカリブ海……「日本と逆のシステム」の国の風景と、そこに生きる人々との交流に心ほぐされた頃、隠された旅の目的が明らかに――落涙必至のベストセラー紀行文。特別書下ろし3編「モンゴル」「アイスランド」「コロナ後の東京」収録。解説・Creepy Nuts DJ松永

Amazon商品紹介ページより

感想

  • 単なる紀行エッセイではない!

  • 小説のような感動が味わえる?


本作は、若林さんによる紀行エッセイ
キューバ、モンゴル、アイスランドに行った時の様子が描かれています。
(モンゴル、アイスランドは文庫版で追加)

資本主義や新自由主義により「灰色」に見える日本。
そこで生活していることに疲れや疑問を持ち始めた若林さん。
その対極といっていい社会主義国のキューバへ旅行へ行くところから始まります。

旅行の様子は、小説のように1つ1つの出来事や様子が細かく書かれていてイメージしやすかったです。
一人旅って良いなって思い、どこか行こうかなという気持ちにさせてくれました。


僕がこのエッセイを読んで感じたことは「人との繋がりの大切さ」です。

日本にいると、勝ち組や負け組のような格差や競争で「人との繋がり」が薄れがち。

でも幸せを感じるために、何よりも大切な要素なのではないかと思いました。

読んでいて現地の方々が幸せそうだなって文面だけでも伝わってきたんですよね。

そしてこれは、直接的なものでなくても、間接的なものだとしても生きる上での力になると、あとがきに書いてあったのが印象的でした。

たとえば、1冊の本や歴史上の人物、ラジオのパーソナリティなど。
いわゆる「推しの存在」もそうでしょうか?

繋がりと聞くと、とにかく積極的に交流しなければという思いが出てしまうので、そういったのが苦手な僕は力が抜けたような感じでした。


日本を下げるのではなく、日本の良さについて書いてあったのも素敵だと思いました。

若林さんが感じた日本の良いところは「集中力の高さ」
街が臭くないこと、道に穴が開いていないこと、電車が時間通りに来ることなど。

日本では「当たり前」のように感じることが、海外ではそうではない。

僕も海外旅行に行った時に同じようなことを感じましたが、それが的確に言語化されていました。


そして、キューバに行った本当の理由が感動的でした。

まさかネタバレができないような展開があるとは。

エッセイ本ですが、小説のような感動を味わえる作品です。

絶妙なタイミングで笑いを誘うエピソードも所々にあり、力を抜いて読めました。

印象的に残ったところ

東京にいると嫌というほど、広告の看板が目に入る。それを見ていると、要らないものも持っていなければいけないような気がしてくる。必要のないものも、持っていないと不幸だと言われているような気がぼくはしてしまうのだ。

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』 p.104

日本の自由競争は機会の平等であり、結果の不平等だろう。キューバの社会主義は結果が平等になることを目指していて、機会は不平等といえるのかもしれない。

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』 p.151 

バス停=標識がある、という認識も国が変われば常識ではなくなるのか。人間の固定観念って自分がイメージするより狭くて頑固なんだろうな。

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』p.175

ぼくは、物見櫓から十三世紀村を眺めて絶対仕事先以外にも所属する集団を作ろうと決心した。
具体的にいうと、金やフォロワー数のような数字に表されるようなものではない揺るがない心の居場所を作りたいと思った。
そういう居場所を複数持っていれば、一つの村に必要とされなくなった時に他の居場所が救いになるからだ。

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』p.242

ずっとぐじゅぐじゅしてて、熱くて、抑圧されていて、でもある瞬間、誰もが口を開けてどん引きするぐらい吹き上げて一瞬で空に消えていっていいならば、僕がずっとぐじゅぐじゅして抑圧されて恥ずかしいから熱い部分を隠していることも、これから死ぬまでずっとそうであることも救われる。そして、自分でそれを肯定できる。

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』p.315

3ヵ国に行って感じた、サル山と資本主義の格差と分断から自由になる隠しコマンド。俺にとってそれは"血の通った関係と没頭"だった。
傷つけば血が流れる、その繋がりのことを言っている。だから、似たようなことで傷ついてきた者同士が出会ったり、共通の敵と戦った者同士であったり。そういう絆には経済を超えて強い結びつきがある。そういう絆は何も実生活で繋がりがある人間とのものだけじゃない。

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』p.330

若林さんの物事の捉え方や表現、学ぶ姿勢は凄い

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』を読んで、若林さんの物事の捉え方や表現、学ぶ姿勢は凄いと改めて実感しました。

僕はnoteを書く時などに、若林さんの文体や表現を時々参考にしています。

そして、家庭教師を雇って日本の歴史を学ぶことが凄いと思いました。
分からないことを分からないままにしないって難しいことですよね。

若林さんの学ぶ姿勢、僕も見習いたいです。

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