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改めて、富士さまの実力にひれ伏す〜静岡県静岡市。

前回書いた雨の京都から、旧東名高速に乗って、その日のうちに神奈川県の自宅まで帰るつもりだった。
京都の雨は上がり、雨雲は東に移動して行く。順調に走るクルマは愛知県内で雨雲に追いついてしまったのかな? 岡崎のあたりで再び雨が降り始めた。
ま、いいか。追いついてしまったのであれば、どこかのサービスエリアで休んでいるうちに、先に行ってくれるでしょう。

そんな追いかけっこをしているうちに、雨雲は浜松のあたりからクルマよりもスピードを上げた。後ろの雲は切れて、キレイな斜光が差し始める。光は新緑の山々を照らす。その黄緑色の風景と山にからむ雲が、なんとまぁ、美しいこと。
そして、行く手には分厚い雨雲が逃げて行く。てことはつまり、虹が出るパターンですね。と思う間もなく、目の前に巨大な虹が現れた。しかも真っ直ぐに伸びる高速道路の真っ正面ですよ。
日本でこんな風景は見たことがない。とは言えクルマを運転しているから、写真が撮れなくて悔しい。

予定を変えて、急遽、駿府に向かう。

追いかける速度がちょうどよかったのかどうか、その巨大な虹は、浜松から掛川のあたりまで見えていた。時間にすると15〜20分くらい? 普段は、虹が出ても10分も経てば消えてしまうけれど、追いかけると鑑賞時間は長くなる。などと思っているうちに雨雲は遠くに去り、辺り一面斜光に変わり、再びの新緑大爆発。

ふと、今日は無理に帰らなくてもいいんじゃないか。という考えが浮かんだ。この旅のテーマは新緑なのだ。だったらこの風景を逃す手はない。少し先には静岡という大きな街があるので、そこで一泊すればいい。ちょうど家康がブームだし、駿府城に行ったり、おでんを食べたり、けっこう楽しそうではありませんか。
ということで、次のパーキングエリアに寄り、ホテルを検索したら静岡駅前にいい感じの宿が取れた。ということで、いざ、行き先を駿府に変える。

静岡インターから市街地まで、とても近くて好印象。

夕方の澄んだ斜光は、この時期ならではのもの。

ホテルはすぐにみつかり、素早くチェックイン。缶ビールを一本だけ空けて、すぐに外に出た。この日差しを逃してなるものか。
初めて来た街では、まず最初にいちばん高いところに登るか、駅を見に行く。というのが僕の旅の流儀。そこでまず、静岡駅に行ってみた。デカい駅じゃん。

手前のホームが在来線。向こう側のホームが新幹線。およそどの街も、在来線側の出口から出た方が、古い街並みがあって、名所や美味しい店が並んでますよね。

実を言うと、静岡の街には全く土地勘がありません。なので、駅前の観光案内図でおよその概略をアタマに入れる。最大のランドマークである駿府城は歩いても数分のようだ。で、そこまでの間に飲食店街もありそうですね。

駿府城跡の石垣がうつくし。石は長方形に加工されて整然と積まれている。ということは、駿府城のこの辺りは、比較的最近に建てられているんだな、などなど。
こういう説明をしみじみ読むのも、旅のタノシミのひとつ。
西日に照らされる新緑の柳までもうつくし。
鳩のシルエットまでもうつくし。
『徳川家康公出陣キット』。これは若い頃の家康が着用していた金陀美具足(きんだみぐそく)かな。なぜこんな展示になっているのかというと、静岡市はプラモデルの街でもあるからなんだそうな。

駿府城の外堀は、南北に726m、東西に655m、一周約2800mの、ほぼ長方形。本丸、二の丸は広くて緑が多く、心地よい公園となっており、日なたぼっこをしている人もちらほら。外堀沿いの遊歩道ではランナーが走る。とても羨ましい環境ですね。平地の城下町って街中が公園。いいもんです。
ところで、最近の発掘調査で、駿府城の天守台は日本史上最大の大きさだったことがわかったとのこと。現在も発掘調査は進んでいて、そのようすは、なんと一般公開されており、無料で見学できるという。

静岡市は、粋なことをしてくれますな。
戦国期、今川氏の居城だった頃から少しずつ大きくなっていったようですね。
この日は発掘作業が行われていなかったので、覗いただけ。たしかにこの敷地は広いと思う。

そんなこんなで日が暮れるまで駿府城公園で過ごしてしまった。静岡市、なんだかとても明るくて印象が良いです。寄り道して正解でした。

単身赴任のバラード。

さてと、ご飯はどうする?
暑いので「おでん」にはそれほどこだわらない。とりあえずビールが飲めて、普通のご飯が食べられれば良しとしよう。などと思いながら歩いていたら、静岡駅の近くに「大衆食堂」と大書された店をみつけた。これだ!

大手居酒屋チェーンの系列なのだろう。この店、横浜の郊外でも見たことがある。広くて感じよさそうだ。
食堂とは言え、メニューには、およそ酒飲みであれば頼みそうなものは何でもあるわけで。

開店後間もない、磨かれたテーブルが心地よい。
とりあえずビールと「おでん」の入門用セットをいただいているうちに、徐々に「お一人さま」の客が増えてきた。ちょうど仕事帰りの時間帯だからか。

静岡で、初めて静岡おでんを食す。黒いはんぺんが鎮座しておる。カツオが効いてますな。

「お一人さま」のお客さんは回転がいいな。とりあえずビールに、普段の定食を頼んで、30〜40分くらいで店を後にする。
ほぼ全員が若い男性の会社員風。こういう地方の中核都市には単身赴任の会社員が多いのだろうか? 部屋では料理をしないんだろうか? 仕事はどんな業種なんだろうか? ゴールデンウィークを前に、今は開放された気分なのだろうか? 妄想が膨らむ。
メニューを見返すと、ご飯の盛りは5段階あり、いちばん小さいのが「おちょぼ」の100円で、最大は「チョモランマ」の350円とある。働く人の味方ですな。松重豊さんならずとも、思わず「いいじゃないか」とうなりたくなる。

店が混み始めたので、このビールを最後にホテルに戻ることにしよう。

そして翌日は、本場の富士山との劇的対面が待っていた。

例によってホテルでは素泊まりにして、朝食は手頃な喫茶店を探す。とは言え、昨日歩いた道をもう一度歩くのもナンなので、昨日とは違う道を歩いていたら…
なんと、規格外に大きな山が見える。普通、地方都市の中から見える山って、あの半分くらいじゃないのか? なんだか遠近感が狂うくらいに大きな山なのだ。それが富士山だと認識するまでに、少し時間がかかった。あまりに驚いたので、そのときの写真は撮り忘れていた。

もう、喫茶店でのんびりしている場合ではない。本場の富士山を見に行かなきゃ。コンビニでサンドイッチを買い、ホテルに戻ってコーヒーを淹れながら、チェックアウトの準備。フロントで「富士山のお勧めビュースポット」を聞いたら、やはり最初は日本平に行きなさい、とのことだった。そうかそうか。有名な観光スポットで混んでそうだけど、素直にお勧めに従うことにした。

渋滞していたので撮ってみました。街の中からこんなふうに富士山が見えるんです。駿府、畏るべし。

そしてその日は、”富士山セラピー”の一日となるのでした。

いろいろ言う前に、まぁ見てもらおうか。日本平から見る富士山って、こんな感じなのですよ。

手前の港は清水港。このまま視線を右にずらすと、伊豆半島まで一望できる。
28mmの単焦点では、どうしても小さく見える。実際に見たときの衝撃は、このくらいトリミングした感じです。いやもっと、それ以上です。

日本に住んでいれば、富士山の写真なんて誰だって一度は見ることでしょう。実際にこうして写真で見ると、そんなありふれた一枚に過ぎないかもしれない。しかしですね、リアルに見るとものすごく大きいのです。富士山はそりゃもう美しいけれど、この場合は美しさよりも大きさに圧倒されます。何より、手前に見える山よりも倍以上高く、しかも裾野が広い。もう完全に遠近感が狂ってくるというもの。

ところで僕がいる日本平とは、駿河湾の西岸。地図で見ると腕がグイッと突き出たような海岸線がありますが、まさにそこです。で、ここには三保の松原がある。ここからは海越しに富士山が見えるというので移動します。

三保の松原の海岸を歩いていたら、見えました。が、海越しはもう少し先。慌てるなよ、オレ。
これかぁ。手前の波消しブロックがナンなので、もうちょい移動してみます。
これですよ。銭湯でもたびたび見かけたこの構図。僕はこれを見て以降、富士山とは呼ばずに富士さまと呼ぶことにしました。

ちょうどいい感じの堤防があったので、そこでしばらく眺めていました。いやもうね、そこには一時間近くいたけれど、まったく見飽きることはありませんでした。

高速道路から見た逆光の富士さまは、まさに如来のようなありがたさ。

とは言え、こんなことを、いつまでも続けてはいられない。少しお腹が空いてきたので、何か軽く食べてから、高速道路が混み出す前に家に帰ろう。富士さまは逃げはしない。またいつでも、ここで待っていてくれるさ。

観光地のど真ん中にありながら、お年寄りのご夫婦が営むこのおそば屋さんは、しみじみよかった。
さすが駿河湾。かき揚げには桜エビがちょこっとね。

すっかり富士さまに癒やされたところで、ようやく帰路につく。ここからだと、新東名高速から帰った方が空いてそう。清水インターから乗って、続くジャンクションから新東名高速へ。
富士さまの興奮から醒めて、少しは冷静に運転に集中したいところだけど、新東名から見える富士さまの威容もかなりのものですね。山頂が常識よりも上に見えるので、クルマの窓に何かが映り込んだのかと思いきや、それが富士さま。

そしてこれがトドメなのですが、沼津駿河湾SAを過ぎて、御殿場の手前で再び現れたときの凄さと言ったらもう… 
ちょうど日没近くで富士さまの側に太陽がある。この辺りからは、麓から頂上まで丸ごと見える富士さまが、金色の雲をまとったシルエットとなっていました。怖いくらいの美しさ。もはやこれは巨大な来迎図としか言いようがありませんね。富士如来ですね。クルマを運転しているので写真は撮れなかったけど、しっかり記憶に残しておきました。ここを通るときには、脇見運転に注意してください。

ということで、今日も神奈川県の自宅からは、相変わらず、いつもの富士さまが見えています。静岡県から見る姿と比べると、かなり小さいのですが、これもまたオモムキというもの。「どこから見る富士山が好き?」という問いには、家から見える富士さま、と答えることにしています。

神奈川県から見る富士さま。夕焼けがきれいです。撮影は今年の冬でした。

そして改めて思います。ワガクニに、富士さまがいてくれてよかった。





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