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SNARK共同主宰のこれまでとこれから【インタビュー :大嶋 励】

SNARK Inc.は、小阿瀬直・山田優・大嶋励の3名の共同主宰による建築設計事務所です。小阿瀬が、前身となる個人事務所「小阿瀬直建築設計事務所[SNARK]」を2008年に創業し、2016年に山田・大嶋と共同でSNARK Inc.として法人化しました。

共同主宰の3名はこれまでどういう道を辿り、どのような思いでSNARKとして建築設計に取り組んでいるのか。それらを探るべく、3名それぞれにインタビューを行いました。小阿瀬・山田へのインタビューに続き、最後は大嶋へのインタビューの様子をお伝えします。

建築設計を志すまで

ー大嶋さんはSNARKが拠点とする群馬県のご出身ですよね。学生時代はどのように過ごされていたか教えてもらえますか。

はい、群馬県高崎市生まれです。実家は工務店を営んでおり、私が小学3年生くらいのときに父が建てた家で育ちました。学生時代に熱中していたことは部活動です。漫画「スラムダンク」の影響もあり、中学校・高校ではバスケ部に入部し、部活ばかりの日々を送っていました。

当時は将来についてあまり具体的に考えられておらず、普通に大学に行って就職するんだろうと思っていましたね。東京の大学に進学したのですが、学部も建築とは関係のない文系の学部に入学しました。1・2年生で卒業に必要な単位をほとんど取得したので、3・4年生は仲間と遊んだり、飲みに行ったりすることが多かったと思います。所謂「普通の文系大学生」という感じです。

ー初めから建築の勉強をされていたのではなかったんですね!その後、就職はどうされたのですか。

当時建築業界にも興味はありましたが、就職活動ではあまり業種を絞らず、建築業界の他に金融や不動産業界などのいくつかの企業から内定をもらいました。しかし、いざ就職が決まって初めて「本当にこれがやりたいことなのか」と思い悩み始めました。

中高の同級生で武蔵野美術大学の建築学科に通う友人がいたのですが、その頃時間があったので、よく彼の大学に遊びに行っていたんです。そこで、日々設計課題に必死に取り組む彼や彼の大学の友人の姿を目の当たりにし、テストの点数さえ取れれば単位が取れてしまう科目もあるような私の学部とは全く違う空気に衝撃を覚えました。

また、内定をもらった某メーカーのデザイン職の同期から、彼が面接の時に使ったポートフォリオを見せてもらい「自分で考えた作品を発表するのはすごいな」と思いました。「何かをゼロからつくり、プレゼンテーションをして評価をもらう」という経験は、それまで勉強してきた中では全くなかったですし、それをやっている彼らに非常に刺激を受けましたね。その結果、父の仕事柄、建築関係も面白そうだと思っていたので、やはりそういう道に進もうと思うようになりました。

SNARK法人化へ至る道

ーそういう経緯だったのですね。では、大学卒業後はどうされたんですか。

大学卒業後は、一年間美術館などでアルバイトをした後に桑沢デザイン研究所(以下、桑沢)の夜間部に入学しました。早く実務がしたかったので、4年制の大学に入り直すのは現実的ではなかったのと、友人から桑沢の話を聞いていたこともあり、そこに決めました。桑沢ではスペースデザインを専攻し、インテリア・家具・建築デザインについて学びました。

日中は学校の課題をやっていた他、メゾンマルジェラのインテリア部門でアルバイトとして店舗の什器やディスプレイ制作をしていました。私以外にもう一人服飾系の勉強をしているアルバイトがいて、布や木を使った制作物をつくったりしていましたね。

ー専門学校の卒業制作はどのようなテーマだったのですか。

スペースデザイン専攻なのでインテリアや家具を扱うこともできましたが、やはり建築家に憧れがあったのと、建築デザインの先生に面白い方が多かったので、卒業制作でも建築を扱うことにし、集合住宅の提案をしました。夜間部は時間が限られているので、卒業制作だけでなく毎回課題を講評してもらえるのは学生約40人中5人程度でした。講評してもらえないと、ただ課題を作っただけで終わってしまうので、いつも選ばれるのに必死でしたね。

卒業制作でも選んでもらうことができたのですが、そのときのゲスト講師が新関謙一郎という建築家でした。そこで評価をしてもらえたので、桑沢を卒業したあとは新関さんの事務所でインターンをしました。しかし、その後金銭面での余裕もなくなり、一度群馬に戻ることにしました。

ファッションブランド writtenafterwards のショー会場制作の様子(2011)

ーそのタイミングで、小阿瀬直建築設計事務所[SNARK]と出会うのですか。

そうですね、地元に帰るにあたって群馬の建築設計事務所を調べる中でSNARKを知り、働きはじめました。先にSNARKで働いていた山田がSNARKを卒業してすぐくらいの時期だと思います。SNARKでは2年弱働いたのですが、実務的な経験や現場経験がかなり積めたと思います。しかし、長期的な視点でキャリア形成を考えたときに、もう少し規模の大きい物件も経験したいと思い転職をすることにしました。

ーその後、どのような会社に転職されたのですか。また、SNARK法人化にいたるまではどのような流れだったのですか。

ZYCC(ジーク)株式会社という主に商業空間の内装設計・施工を手がける東京の会社に転職しました。クライアントのほとんどは飲食店やアパレルなどの企業で、商業施設内のテナントの設計をしていました。しかし、最終的には独立をしたいと思っていたのでZYCCにも長く勤めるつもりではありませんでした。2年ほど勤めた頃に、同じく東京で働いていた山田と互いに独立をすることについて話をするようになったのですが、その頃、小阿瀬とも話をし、建築設計事務所のあり方などについて議論をする中で、3人でSNARKを法人化するという結論に至りました。3人ともタイプが違うので、3人が同じ方向を向いて何かをつくるというよりも、各々が強みを生かしてやりたいことをやっていくことで、良いシナジーが生まれるのではないかと思いました。法人化して丸5年以上が経過しましたが、法人化当初と比べると仕事の幅はかなり広がりを見せつつありますね。

SNARK Inc. 共同主宰(左:大嶋、中央:小阿瀬、右:山田)

建築設計に対する考えと自邸建設

ーでは、大嶋さんが建築を設計するときに共通して考えていることはありますか。

それに関しては、ちょうど今過渡期を迎えつつある気がしています。これまでは所謂「スター建築家像」みたいなものに憧れがあり、常に新しいものをつくったり、クライアントからも外部からも評価される建築をつくることを考えながら設計に取り組んできた部分が大きかったのですが、最近は少し変わってきたように思います。まだ自分自身でも整理しきれていないのですが、自分も年齢を重ねてきて、このまま同じスタンスで仕事を続けるのが良いのか、はたまた、もう少し違う建築家像もあり得るのではないかと考えているところです。ちょうど今自ら設計をした自宅を建設中なので、自宅が完成してそこで生活をしていく中でゆっくり考えられたらと思っています。

ーなるほど。「もう少し違う建築家像」について、現段階でもし何か具体的に考えていらっしゃることがあれば教えてもらえますか。

今までは学生の頃からの延長で、雑誌に掲載されたり、賞を受賞したり、デザインを評価してもらったりすることを目指してきたと思います。しかし、これからの生活を考えると、そこを目指しつつも、どんな作品を作るかだけでなく、どう工夫して空間を使っていくのかという「暮らし方・使い方」みたいなものも重要なのではないかという思いが強くなってきました。これまでの経験から、建築を含めてモノを自分でデザインしてつくることはできるので、それを暮らしの中でどのように使うのか自ら体現していくことで、その姿に共感してくれる人もいるのではないかという気がしています。建築はあくまでもその生活全体を構成する一要素であるという感じです。

大嶋邸の模型

ー先ほど建設中のご自宅の話も出ましたが、そのような考えの変化がご自宅の設計にも影響しているのでしょうか。また、どのような流れでご自宅を建てることになったのですか。

SNARK法人化後も家族と東京で暮らしていて、家の購入を考えるようになりました。東京の場合、コストの問題もあり、マンションを購入してリノベーションをする方が現実的だったのですが、やはりそれよりも自由度が高い新築住宅を設計した方が、新しい暮らし方の提案ができるのではないかと思うようになりました。そこで、東京でマンションを買うのではなく、地元の群馬で家を建てることにしました。美容師である妻が今後営むヘアサロンを併設した住宅です。

建物のイメージとしては、広い土地にシンプルなフレームが立っている倉庫のようなラフな外観のものを建てたいと思っていました。建物は大きな箱として、中で営まれる生活を受容する存在として捉えています。プラン自体はかなりシンプルですが、そのフレームの中に生まれる隙間に配置する家具やディスプレイを通じて、自分なりの暮らしを表現していくことができればと思っています。また、家具の一部は自ら制作をするので、それも暮らしを表現するものとなればと思います。どんな暮らしを送りたいのか、そしてそれを自分なりにどう表現してくのかについて考えたり、家づくりには非常に煩わしい面もあると思いますが、それを乗り越えた先に豊かな暮らしが待っているのかなという気がしています。

大嶋邸

これからのSNARK

ーでは最後に、今後SNARKとしてどのようなことに取り組んでいきたいですか。

建築設計事務所として、ある程度の体制は整ってきたと思います。なので、今後は何か新規事業に取り組んでみるのもいいのではないかと思います。建築設計に全く関係のない分野でもいいと思いますし、それくらいの振り幅があった方が面白いと思います。SNARKは新築・内装を問わず住宅・店舗・オフィスなどの設計を手掛けていますが、これほど幅広いビルディングタイプを設計する事務所はあまり多くないのではないかと思います。その強みを生かして、いろいろな業種の企業とコラボレーションしていくのも面白そうですね。

■ プロフィール
株式会社SNARK 取締役/共同主宰
大嶋 励(おおしま れい)
1986   群馬県生まれ
2012 桑沢デザイン研究所 デザイン専攻科 スペースデザイン 卒業
    小阿瀬直建築設計事務所[SNARK] 勤務
2014 ZYCC株式会社 勤務
2016 株式会社SNARK / SNARK Inc. 共同主宰

SNARK Inc.
Website: https://snark.cc
Instagram: https://instagram.com/snark_inc/
プレス情報: https://instagram.com/snark_press/

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