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「影のないボクと灰色の猫」02-A02 第二章 ボク

この物語は、Twitterで自然発生的に生まれたリレー小説です。
aya(ふえふき)さんと一緒に、マガジンにまとめています。
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★前回の物語(第一章)


第二章 ボク


ボクは高校2年の冬、急に学校に行くのが嫌になった。

理由はわからない。苛められてもいないし、真面目な方だし成績だって悪くない。

だけどよく晴れたある朝、心の底から行きたくないと思った。

だからボクは初めて、いつも通り「行ってきます」と言って家を出て、学校とは反対方向に歩き出した。


もう何年も前の事だ。

高台のカフェのテラス席で、ボクは、ぼんやりとそんなことを思い出していた。

店員はまだ来ていない。

席について、随分経ったはずなのに。

足早に坂道を登って、暑かったのでテラスにしたが、こんな季節なので、周りには誰も居ない。

静かな午後だ。ひとりきりで座っていると、世界にはボクしか存在していないような、奇妙な気持ちになる。

テーブルの上のメニューを取り、おすすめのアイスコーヒーに決め、視線を上げると。

男が、向かいの席に座っていた。

「やあ、久しぶり」

と、その男は声をかけてきた。

目の前にいるのに、なぜかその男の顔ははっきり見えず、ぼんやりとしている。

「どこかでお会いしましたか?」

「忘れるなんてひどいね、ボクだよ」

思い出せない。

グルルルル。

男の足元から、妙な音がした。

視線を下に向けると、足元には寄り添うように灰色の猫がいる。

……何かがおかしい。

不意に気付いた。男の足元には……

「影がない!」

思わず声に出てしまった。

「ん? ああ、影だからね。君の」

「?!」

「今回は、随分とぼんやりしているね」

「今回?」

「この猫に覚えはないかい? 君が助けようとした……助からなかったけどね」

微かに記憶がよみがえる。高2のあの日、突然学校をさぼって、行く宛ても無く向かった先での出来事。

さっきからずっと店員は来ない。ボクはいつからこの店に居た? かなりの時間が経過しているように感じる。

落ち着かない気持ちになり、ボクは立ち上がった。

そして、自分の足元を見て、青ざめた。

「影がない!」

すると、男が言った。

「光が無いと影はできないんだ。そして、光が無いとね、見えないんだよ」

「光……」

ボクは微かな記憶に集中した。きっと、忘れてはいけない大切な何かを忘れている。

「さて、今回は、そろそろタイムリミットだ」

男がそう言った途端、視界がぼやけた。何も見えない。何も思い出せない。

「出直しておいで。でも、次がラストチャンスだよ」

男の声が遠く聴こえた。


Twitterリレー小説「影のないボクと灰色の猫」
02-A02 第二章 ボク

書き手:aya(ふえふき)notenana
    cnotenana
    清水はこべnotenana


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