見出し画像

「影のないボクと灰色の猫」02-A08 第八章 私

この物語は、Twitterで自然発生的に生まれたリレー小説です。
aya(ふえふき)さんと一緒に、マガジンにまとめています。
詳細はこちら → はじめに

前回のお話(第七章)

第八章 私


「何これ」

私は唖然とした。

展望台から、red stone cafeへ向かう最初の曲がり角に、自転車が横倒しになり、道を塞いでいる。

カフェから展望台へ向かう時は、こんなものは無かった。先程、急ブレーキを踏んだのは、この自転車だろうか?

どうしたものかと眺めていたら、自転車のロゴに気づいた。

「……red stone cafe」

お店の自転車なのだろうか?

恐る恐る自転車を起こし、前カゴに、はがきを見つけた。

大きく、殴り書きのように書かれた文字は、読もうとしなくても、目に飛び込んできた。

「お客様へ。ブレーキの整備は終わっています」

冷や汗が流れた。

はがきの文字を、私宛てのメッセージに感じるなんて、どうかしている。

文字が見えない様にと、はがきをひっくり返して、息を呑んだ。

「ボクの望みを叶えてください」

裏面にはそう書いてあった。

「……自転車なんて、乗った事、無いし。そもそも、さっき、お酒飲んじゃったし」

笑い飛ばすように言ったつもりの独り言は、心細く聞こえた。

私宛てのメッセージだとしても、現実的に、私は自転車には乗れない。

とりあえず、自転車はここに置いて、お店に向かおう。事情を説明すれば、引き取りに来てもらえるだろう。

私は、自転車を元に戻そうとした。なのに、体が動かなかった。

「……どうなってるの?」

自分の意思に反して、体は動かない。……いや、動く。

私の体は、勝手にサドルに跨り、地面を蹴って、ペダルに足を乗せて……。

「嘘でしょう!」

そのまま私は、自転車で風を切って走り始めた。

「助けて!」

体の自由を利かせようと、もがいた瞬間、前カゴのはがきの文字が、目に飛び込んできた。

「いざと言う時は、ブレーキをかけてください」

「勝手な事、言ってんじゃないわよ!」

私はわめいた。段々と、腹が立って来た。

「誰だか知らないけど、人を勝手に自転車に乗せて、運転させて、ボクの望みを叶えろって、虫が良すぎない?」

はがきの文字が変わった。

「ごめんなさい」

私は溜息をついた。そして腹を括った。

「いいわよ。やってやろうじゃないの。ブレーキ掛ければ良いんでしょ、掛ければ!」

私は、子供の頃から面白そうだなと思ったら、向こう見ずで突っ走ってしまう困った性格。いい歳して未だに直らない。

何だか知らないけど、こうなったら、やるしかない!


Twitterリレー小説「影のないボクと灰色の猫」
02-A08 第八章 私

書き手:清水はこべnotenana


★続きはこちら(第九章)

第七章 < 第八章 > 第九章

目次に戻る

お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。