食を求める旅
静岡で食べた生の桜エビのかき揚げをふと思い出し、食べたくなることがある。町のなかにぽつんとある普通の蕎麦屋だったが、生の桜エビを食べたことがなかった私は、夢中になって食べた。一口頬張った時のサクサク感に驚き、噛むごとに生の桜エビの香りが口いっぱいにひろがる。静岡へ行ったからこそ出会えた味だった。
旅先の景色に感動した記憶も、もちろんある。あるのだが、食べ物の記憶は何故か強く残っている。特に今までに出会ったことのなかった食材や味が、自分の味覚にヒットした時の衝撃は忘れられない。
人間は、聴覚ー視覚ー触覚ー味覚ー嗅覚の順で忘れていくそうだ。それはつまり、嗅覚と味覚は記憶に残りやすい、ということ。記憶に深く刻むことのできる、新たな食との出会いを求める旅をしてみてはいかがだろうか。
レストランへ行くことだけが、現地の味を知る全てではない
私が旅の中で1番ワクワクするのは、スーパーや市場へ行くこと。現地でとれた新鮮な食材や、そこにしかない調味料を買い、ホテルで料理をする。これも現地の味を知ることになる。同じ食材でも日本で食べているものと違うことがあり、面白い。
たとえば、今年の6月にハワイへ行ったときのこと。
まず、到着した日にパパイヤを山ほど買う。滞在期間中、毎朝食べられるよう、熟れ加減の違うパパイヤを選んでおく。オススメはダウントゥーアースというスーパーにあるオーガニックのパパイヤ。パパイヤは日本ではあまり見かけないので、ハワイへ行ったときはここぞとばかりに食べ溜めておく。
そして、チャイナタウンのお肉屋さんで売られている叉焼も外せない。私のお気に入りはKam’s Meat Marketというお肉屋さん。叉焼と聞くとイメージするものとは少し違い、赤く色のついており甘めで肉らしい噛み応えのあるもの。こちらも日本ではなかなか手に入れられない。
ハワイだからこそ味わえる味や食材を心ゆくまで堪能する。これが私流のハワイの楽しみかた。
旅行プランは、食事から
旅先を決めるとき、みなさんはどんな情報に心をつかまれているのだろうか。絶景の綺麗さや、アクティビティ、街の雰囲気など、人によってさまざま。私が心を奪われて旅行を決めるのは、魅力的な食べ物を知ったとき。昨年行ったスペインがまさにそう。
母が「死ぬまでに行ってみたい」と、スペインのバルセロナへの旅行を計画していたのだが、私はガウディー建築物もサグラダ・ファミリアにも興味が無い。そこで母の誘い文句は「スペインに生ハムを食べに行こう」だった。一気に興味をそそられ、本場の生ハムが食べたくて母とのスペイン旅行を決めた。
観光は母の行きたいところへ、私はお腹をすかせるための運動ついでに観光。もちろん建築を見て感動した場所もあった。そこまで無関心なわけではないんだけれど、今までの旅行の中で、食と食以外への興味の差がもっとも大きい旅行だった。
バルセロナにはいくつか市場がある。宿泊していたホテルからはブリケア市場のほうが近かったのだが、観光客向けすぎてテンションが上がらず。もっと地元の人が普段の生活での買い物に使うような市場に行きたくて、サンタ・カテリーナ市場へ。
市場内には果物や野菜、パン、チーズ、お惣菜のお店など、ところせましと並んでいる。お目当てはもちろん「生ハム」。ショーケースにもびっしり、壁にもこれでもかと吊り下げられ、売り場いっぱいに並べられている生ハム。種類が多すぎてどれを選べばいいのか分からないほどの品ぞろえ。
まさかこんなに生ハムに種類があると思っていなかったので、衝撃だった。生ハムの種類について調べみたが、予想以上にしっかりとジャンル分けされており、生ハムの歴史を感じ、さらに期待値が爆上がり。
お店のお姉さんに「とりあえず中間くらいのお値段で、お姉さんのオススメ2種類を100gずつください」とお願い。美味しそうなサラミも100g追加し、合計で3種類を購入。母とルンルンでホテルへ帰り、いざ実食。
脂の少ないものと多いもので2種類選んでくれたので、食べ比べ。脂の少ない生ハムは、旨味がギュッと濃縮されていて、飲み込んだ後も生ハムの後味につつまれる幸せを感じる。脂の多い生ハムは、脂の甘味がふわっと口の中に広がるが、胃もたれするようなくどさは無い。今まで食べたどんな生ハムより濃厚で美味しい。
やっぱり本場ってすごい、と感動。
スーパーマーケットのはしごも忘れずに
スペインでは、デパートのようなちょっといいお値段のスーパーから、地元の人しかいないようなスーパーなど色々回った。カタルーニャ広場にあるエル コルテ イングレスというデパートの地下に入っているスーパーにも行った。店内をふらふらと見て回っているときにふと目に入った、豚レバーのパテ。他の豚レバーのパテに比べてパッケージが可愛いなあ、と軽い気持ちで購入。
翌朝、「ああ、そういえば豚レバーのパテ買ったんだった、ちょっと食べてみよう」なんて、なんの期待もせず食べたら、美味しすぎてフリーズ。
レバーの旨味だけを残して臭みが全くない。日本で食べる豚レバーのパテよりもはるかに口当たりが軽く、いくらでも食べられる。私の味覚にヒットした衝撃を感じた。スペインまで来て良かったと思わせてくれる味だった。
***
レストランのお洒落な料理よりも、意気揚々と食べ比べまでした生ハムよりも、スーパーで買った500円のレバーパテの方が記憶に残ったスペインでの思い出。このレバーパテを食べるためにまたスペインへ行きたい、と思うほどの素晴らしい出会いだった。
これが食べたいからまた行きたい、この味が忘れられない、と思えるような食との出会いを、ぜひあなたにも体験してみてほしい。
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