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【ピンク・フロイド『狂気』プラネタリウム公開記念】アイドル RAY・内山結愛×担当ディレクター対談

ピンク・フロイドの名盤『狂気』50周年記念の一環として、アーティスト側が新たに創り上げた公式プラネタリウム・ショー「The Dark Side Of The Moon」が、東京・有楽町のコニカミノルタプラネタリアTOKYO DOME1で開催された。このショーは『狂気』の5.1chサラウンド・サウンドに包みこまれながら、収録曲それぞれのテーマに基づいて作られた映像が、プラネタリウムの高解像度ドームに映し出されるというもの。スリルいっぱいの宇宙旅行に連れ出されるかのような、圧倒的な視覚・聴覚体験ができる。

それを記念して、5人組アイドル・グループ「RAY」の一員で、自身の[note]にクラシック・ロックを中心とするアルバム・レビューを執筆している内山結愛さん(2000年生まれ)と、1994年からピンク・フロイドの担当ディレクターを務める白木哲也(Sony Music Japan International)が対談。プラネタリウムの余韻が残る中、『狂気』への思い、クラシック・ロックの魅力などに話を弾ませました。


RAY・内山結愛

◆“怒りは原動力”という気持ちから『狂気』を発見

――プラネタリウム・ショー「The Dark Side Of The Moon」をご覧になって、いかがでしたか?
内山:爆音で『狂気』を聴けたことがすごく気持ちよかったですね。プラネタリウムに入ること自体が初めてだったので、“みんなで、野外で星空を見ている”みたいな空気感にわくわくしましたし、そこに『狂気』の世界観が加わって、ずっと“ここはどこ?”みたいな感じでしたね。映像も、“こういうアトラクションがあったら普通に行きたいな”と思うぐらい臨場感がすごくて、ジェットコースターに乗っているみたいでした。
白木:“ピンク・フロイドでプラネタリウム”ということなので、綺麗な星空の風景に曲が流れてくるのかなと想像していましたが、まったく違いました。内山さんがおっしゃっていたように、まさにアトラクションみたいな感じで、宇宙をテーマにした世界観の中で『狂気』がものすごいサラウンドで鳴っている。ナチュラルトリップ的な感覚になるような、新しい体験にびっくりしましたね。
内山:よく聴いているアルバムなので、“次に何が来る”みたいなものはなんとなくわかっていましたが、映像がつくと“現実なのか、夢を見ているんだろうか?”みたいな気持ちになって、本当に時間の経過を早く感じました。

――内山さんが『狂気』を聴いたきっかけは?
内山:普段ディスク・レビューを[note]で公開しているんですが、エゴサをしていたら、私のレビューをレビューするアカウントを発見したのですが、“内山結愛さんのレビューは直感的な感想に重きを置きすぎて、読みが浅いのでは?”みたいなことが書かれていて。
白木:それは腹が立ちますね。
内山:私には“怒りは原動力”という座右の銘がありまして、確かにもっと背景とか歴史とか歌詞の内容とかにも目を向けられたらいいのかなと思って、ひとつのアルバムを何回も聴くことに決めたんです。ちょっと狂ったタイトルのものを聴いてやろうと思って、見つけたのがピンク・フロイドの『狂気』でした。“人を狂わせるものをテーマにしている”という背景を知った上で、10日間連続で、いろんな効果音や甘いメロディ、悲しいメロディなどを繰り返し聴くうちに、徐々に音楽が染み込んできて、すごく好きなアルバムになりました。
白木:『狂気』はラストの心臓の鼓動が冒頭の鼓動につながっているので、くり返しリピートで聴いたら、永遠に逃れられなくなっちゃう。ピンク・フロイドのアルバムの中では『狂気』が一番聴きやすいんですよ。A面にはすごいトリッキーで心が惑わされるような展開があって、B面でどんどん気持ち良くなって、最後の最後でパッと目の前の世界が広がって登り詰める感じ。人の心を動かし、安らかにしてくれるアルバムです。“誰でも好きになれる作品だから、絶対聴いてみて”という気持ちがありますね。

◆創造力の頂点にあったからこそ許された音作り

――内山さんの『狂気』のレビューの中で、「マネー」に入っているレジスターの音から、小学校の時、同級生が「硬貨の落ちた音で何円玉かわかる」と言っていたエピソードにつなげていくあたり、他のどの書き手にもない世界という印象を受けました。
内山:当時、クラスにお金が好きというキャラの子がいたんですよ。それを「マネー」で思い出したんです。
白木:そうした自分の経験や感覚で書いていらっしゃるところにすごく共感して、聴きたいと思う人もいるでしょうね。しかも内山さんのレビューは曲目解説があるじゃないですか。
内山:自然とそうなりましたね。アルバム全体をまとめて書こうとすると、絶対取りこぼしちゃう気がして。一曲一曲に向き合うきっかけにもなるかなと、全曲書くことにしました。
白木:僕は曲目解説が好きなので、ライナーノーツにも出来るだけ1曲ごとの解説を書いてもらいたいと思っています。それぞれの個人的な経験を書いてくる人もいますけど、それがきっかけで、買ってくれた人がその曲を好きになったら嬉しいことですし。ネット上でいろんな方のレビューを見るときも、その人の当時の思い出とか、音楽とは直接関係のないところも含めて楽しんでいます。『狂気』の特定の曲を聴いていても、どの場所で、何を思い浮かべるかは人によって全然違うわけですから。

――聴いた人の数だけ、それぞれの『狂気』の世界があるということですね。
白木:ピンク・フロイドは“想像力をもっとオープンにしよう”と僕に教えてくれたバンドです。昔はYouTubeもなかったし、『狂気』を聴くときにも、想像力を働かせて頭の中に風景を思い浮かべて。
内山:私も聴きながら、風景を勝手に描いたりしますね。

――『狂気』が発表された1973年3月1日の時点で、メンバーは全員20代でした。
内山:信じられないですね。その年齢でこんなに構成を練った音楽ができるんだと思いますし、“レジスターの音を録るのに30日間ぐらいかかった”みたいな情報を知ると、“そんな人生の使い方ができるのか、それってやっぱり狂気的だ”と思ったり。いやいや、自分にはできないですという感じですね。
白木:ひとつひとつの細かいことにこだわることが出来た時代だったのかもしれない。ピンク・フロイドの中でも乗りに乗っていた頃というか、アーティストの創造力の頂点みたいな時期だったから許されたということもあるでしょうね。

◆名盤と今の若い人が出会うきっかけを作りたい

――内山さんのレビューでは数々の歴史的名盤を紹介していますが、20世紀のロック・シーンに憧れはありますか?
内山:1990年代を過ごしてみたかったですね。この時代のロックスターは伝説を残して早死にしていくみたいな人がすごく多いでしょ。生きざまも含めて、もし自分と同じ時代にそういう人がいたら絶対熱狂するというか、憧れの対象になると思います。
白木:内山さん、意外に破滅志向なんですね(笑)
内山:バレました?(笑)ネットとかでそういう人について調べたら、せっかくいい音楽を残したのに、どんどんどうしようもなくなって終わっていくみたいな…
白木:最近のロックは健康志向ですからね。それはそれで、とてもいいことだと思うんですけど。90年代前半は…
内山:亡くなったり、失踪しちゃったり。

――だけど、作品は永遠に残り、新しいファンによって受け継がれてゆく。内山さんにとって過去のロックの作品は、歳月の経過を感じるものなのか、新鮮だなと感じるものなのか?
内山:その時代を生きていないということもあって新鮮な印象を受けますが、同時に“あのバンドはここから影響を受けているのか”とか、“このバンドがあったから今のバンドがある”みたいな道筋を感じたりもします。『狂気』に関しては、本当に50年前の音楽というのが信じられないですね。私のレビューは同世代にも読んでもらう機会が増えてきているので、わずかな力ではありますが、名盤と今の若い人が出会うきっかけになればいいなと思っています。
白木:視聴率のいいドラマって、面白いじゃないですか。それと一緒で、名盤と呼ばれているものにも何か理由がある。今はアルバム単位で聴く若い人は少ないかもしれないですけど、“40数分間シームレスにつながっている『狂気』を味わうのもいい体験になりますよ”とは伝えたいですね。言語も異なる全世界の人びとに史上最も聴かれている作品の一つですから、何かを感じてもらえると思うし。きっと素晴らしい世界が待っていますから。
内山:私は『狂気』というタイトルと、(ジャケットの帯を指さして)この強い文字の力に引き寄せられて、繰り返し聴いて、自分にとって特別なアルバムになりました。本当にいろんな人に愛されてきたからこそ、今もこうして語り継がれている作品になっているんだと思います。

▼担当ディレクターによる制作秘話


◆あとがき

5月に発表したソロシングル「I」の中に「狂う」というタイトルの曲を収録したこともあって、ますます『狂気』にシンパシーを感じているという内山結愛さんと、中学生の頃から40数年間ピンク・フロイドに心を奪われている白木哲也。世代を超えて愛される“名盤の力”を目の当たりにした対談でした。クラシック・ロックにしても、洋楽自体にしても、決してハードルの高い音楽ではありません。ひとりでも多くのひとが気軽に『狂気』の扉を開けて、この唯一無二の音世界に触れてくれることを願っています。
(2023年6月29日収録/文:原田和典)

▼内山結愛「狂う」[Music Video]

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▼ピンク・フロイド『狂気』(the Dark Side of the Moon)