【人材育成】同じことを何度も伝える
【悩み】
部下に何度も同じことを注意します。でも相手は同じことをミスしたり忘れたりしています。こんなに何度も同じことを伝える必要がありますか?
大分県を中心に人材定着のための人材育成や職場づくりの研修を実施しています。特に管理職研修では「人材育成」をテーマにする研修が多いのですが、上記の質問は業界を問わずによく受ける質問です。
研修で、「人材育成に関する悩みはありますか?」とお尋ねすると「同じことを何度も言わなければならない、こんなに何度も言わないと伝わらないものかと悩む」と意見を出してくださることがあります。
答えから言ってしまうと「育成」というものは「何度も言う」「何度でも伝える」必要があると思います。これは「能力」を伸ばすための人材育成だけではなく、企業全体の足並みをそろえていくために導入をしていく「理念研修」でもお伝えすることですが、理念やビジョンに関しても「何度でも何度でも伝える」必要があります。
有名な【エビングハウスの忘却曲線】というのをご存知な方も多いと思います。
ドイツの心理学者のヘルマン・エビングハウスという人が、記憶に関する実験として「子音・母音・子音」から成り立つ無意味な音節(rit, pek, tas, …etc)を記憶し、その再生率を調べたというものです。
この実験では、無意味な音節を覚えるということなので、単純に私たちの日常に当てはめて考えていくのは難しいところもあるかもしれませんが、あまりむつかしく考えずとも、一つ分かることがあるとすれば【人は忘れる動物】であるということです。
この「忘れる動物である」ということは、私自身、大きな経験をしました。
以前、管理職として会社の中でバリバリに働いていた私も冒頭の悩みを持つ管理職のひとりでした。「なぜ同じことを何度も言わなければいけないのか」と部下に対して大きな不満を持っていました。
しかし、フリーとなり、研修講師を続けながら、地元で歯科助手の仕事をするようになってからはその意識がすっかりと変わりました。新しく覚えたこと、教えてもらったことに関して、ほとんど「忘れて」しまっている自分と毎日向き合うことになったのです。
歯科助手の仕事は私にとっては、まったく新しい世界のことです。あるものの名称を聞いても、それが治療をさすのか、器具をさすのか、薬をさすのかすらわからない状態からのスタートでした。そんな中で、毎日新しいことを教えてもらいます。そして確実にそのことをメモします。しかし翌日には忘れてしまっているのです。「確かに教えてもらったんですが、忘れてしまったのでもう一度教えてください」と何度聞いたことか分かりません。
この経験は私の中ではとても大きな経験となりました。確かに聞いた覚えがある、メモも取った、でも覚えていない、そんなことを繰り返しながら「人は忘れる動物」であることを痛感してきました。そして、あの頃私が指導をしていた部下たちもこんな想いで毎日を過ごしていたのかもしれないと思うようになりました。
新入社員などは特に、まだ職場にも慣れていない、もしかしたら社会人としての毎日にも慣れていないなかで、身体も心も緊張しています。そんな時に仕事を教えてもらったとしても、やはり頭に入っていないし、記憶に残らないことも多くあるはずです。本人の望む望まないに関わらず忘れていっているんだろうなと思えるようになりました。
このように、私は歯科助手の仕事を通して「人は忘れる動物」であることを痛感しましたが、もう一つ、歯科医院の先輩たちの姿に学ぶことが大変ありました。それは私が、仕事のことに関して何度聞きにいっても、誰一人絶対に嫌な顔をせずに丁寧に教えてくれたことです。「何度もすみません」と前置きしますが、みなさん、笑顔で仕事を教えてくれます。誰一人「前にも言ったよね?」「メモとってないの?」という人はいませんでした。
この周囲の対応も私にとっては大きな経験となりました。私は今まで「それ、以前も教えたよね?」「メモはないの?」と言ってきていたように思います。そうすることで、部下たちは「聞きたいけど聞けない」ということを経験していたのではないかと思うようになりました。
人材育成の研修に伺うたびに、冒頭のような質問をされます。その時には自分の経験をもとに「何度でも伝えましょう」ということをお伝えしています。そして、以下のようにも問いかけています。
みなさんは、自分の記憶力にそこまでの自信がありますか?一度聞いたくらいで忘れないと胸を張っていえますか?
実のところ、何度言っても忘れてしまう部下への育成は、教え方や声の掛け方を変えることによって大きな成果を出すことがあります。それはまた今度の機会に。
大分県の企業さまの人材定着のための職場づくり・人材育成のお役に立ちたいと思って活動を続けております。お気軽にお問い合わせください。
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