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【SMDフォーラム】第1回「すべては1人からはじまる〜ソース原理の力とは〜」

ソーシャルデザインのマインドと実践知を学ぶ短期集中型の実践プログラム「Social Mirai Design(SMD)」。2019年度から2022年度まで実施した人材育成講座の締めくくりとして、2023年2月9日・24日にオンラインでフォーラムを開催しました。第1回目は、今ヨーロッパを中心に注目を集めている「ソース原理」について。2022年に発売された書籍『すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力 (原書:Work With Source)』の翻訳を手がけたメンバーの一人である嘉村賢州さんをゲストに迎え、これからの働き方やチームの動かし方、人との関わり方など、ソーシャルデザインに活きるヒントをお話しいただきました。
 
ゲスト:嘉村賢州さん(場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事)
聞き手:丸毛幸太郎さん(ファシリテーター)
 
○ゲスト プロフィール
嘉村賢州(かむらけんしゅう)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事
・東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授
・「ティール組織(英治出版)」解説者
・コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)
・京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長
 
集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、脳科学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。
 
嘉村さんの関連書籍はこちらから

組織運営や働き方の悩み、ソース原理が解決してくれるかも?


本題に入る前に突然ですが、職場やプロジェクトなどで、こんなことを思った経験はありませんか?

「会議の時間ばかり延びて、なかなか次のアクションが決まらない」
「一つのことに集中したいのに、やることばっかり増えてどれも中途半端になってしまう」
「職場の上司同士で意見が割れていて、どちらの言うことを聞けばいいのか分からない」
「メンバーが仲良しなのはいいことだけど、コミュニケーションがなあなあになって、推進力に欠けがち」

集団やチームに身を置いていると、きっと一度は感じたことがある人が多いのではないでしょうか。こうした背景には、上位下達のようなトップダウン型の組織づくりから、一人ひとりの意見や多様性を尊重するボトムアップ型の組織づくりに移り変わってきていることが関係していると嘉村さんは話します。
 
嘉村さん:私は「場とつながりラボhome’s vi」というNPO団体を15年ほど前に立ち上げました。10人くらいメンバーがいるんですが、組織運営に悩んだことがあったんです。一緒に働きたいと思ってくれた仲間を幸せにしたい。一人ひとりの人生を輝かせてほしい。そんな想いから、自由な働き方を尊重しようと心がけていました。でもある時、代表である自分のエネルギーが湧かなくなってしまったんです。大好きなテーマで、大好きな仲間たちと活動しているはずなのに、会議すら出たくない。なんでだろう?そのモヤモヤが、「ソース原理」を学ぶことで解決されたんですよね。だからもし、同じように組織運営や働き方で悩んでいる人がいれば、ぜひソース原理を取り入れてみてほしいです。ちょっと聞き慣れないワードなので難しいな、と思うこともあるかもしれませんが、これからの働き方だけでなく考え方、生き方までも、いい変化があると思います。

そもそもソース原理って何?


ソースとは、英語でsource。源や源泉という意味があります。アイデアが構想で終わらずかたちになっていく推進力のある集団には、必ずソースとなる人物が一人いるといいます。ソースを言い換えれば、自分の内側から湧いてきたアイデアを実現するために、最初の一歩を踏み出す人。方向感覚を持っている人。創業者はソース役であることが多い。これがソース原理の土台となる考え方です。

ソース原理は、ヨーロッパを中心に広がっている考え方。ソース原理について書かれている『Work With Source(Tom Nixon著)』の翻訳・監修をメンバーの一人として、嘉村さんはソース原理を日本に伝え、広める活動をしています。

「会議の時間ばかり延びて、なかなか次のアクションが決まらない」
「一つのことに集中したいのに、やることばっかり増えてどれも中途半端になってしまう」
「職場の上司同士で意見が割れていて、どちらの言うことを聞けばいいのか分からない」
「メンバーが仲良しなのはいいことだけど、コミュニケーションがなあなあになって、推進力に欠けがち」

こういった現象は、集団においてソースが欠けているか、本来はソースだけれどソースである自覚がないか、ソースの役割を怠けているか。何かしらの原因が考えられます。ポイントは、ソースはその活動において一人であるということ。例えば、一人ひとりの多様性を尊重するあまりに推進力や決断力に欠けてしまうのは、ソースが複数人になっていたことが原因かもしれません。

こう聞くと、それって独裁では?と思うかもしれないですがそうではなく、トップダウン型とボトムアップ型を組み合わせた進化型の組織と捉えることもできます。たった一人のソースからはじまり、仲間を広げ、多くの人とともにアイデアをかたちにしていく。そこに上下関係はなく、誰もが対等な立場で関わっているのです。

\\ちょっと補足//
ここまで読んで、「ソース原理とティール組織ってどう違うの?」と思われた方。嘉村さんいわく、それらの違いはこんな感じ。

【ティール組織】
どうすれば魂がこもった組織がつくれるのか。組織論の最先端を探求したもの。
【ソース原理】
実現されるアイデアと実現されないアイデアの違いに焦点を当て、アイデアが実現されるプロセスを探求したもの。

どうやって仲間を増やしていけばいいの?


アイデアを実現するための一連のプロセスのことを、「イニシアチブ」といいます。どんなイニシアチブも、はじめの一歩を踏み出すのは「たった一人のソース」。でもアイデアをかたちにするには、誰かのサポートや協力が必要な場面がほとんどだと思います。じゃあ、どうやって仲間を集め、増やしていけばいいのか。その方法は2パターンあると、嘉村さんは教えてくれました。

嘉村さん:仲間には2パターンの関わり方があり、「サブソース」「エンプロイー」に分けられます。サブソースは、ソースが描いたビジョンと、サブソース自身の人生のビジョンが共鳴しており、上司に指示命令されなくても、主体的な姿勢でプロジェクトを前へ進めることができる人のこと。その時はできるだけ、ソースは全権をサブソースに任せて、介入を控えるのがベストです。エンプロイーは、ビジョンに共鳴しているというよりも、お金になるから、人間関係がいいから、という理由でプロジェクトに参加し、与えられた指示に沿って行動します。

嘉村さん:地域のボランティア活動でも、企業の事業やプロジェクトでも、「あの人がやろうとしていることって、楽しそうだしみんなの役にも立つだろうから、仲間に混ぜてほしいな」と思うことってありませんか?仲間を増やしたいなら、やろうとしているビジョンやその背景にある物語、創造プロセスを表現・発信することが大切です。そのビジョンやプロセスが洗練されているほど、共鳴する人が自然と集まってくると思います。

はじめてのソース原理 \これだけは、おさえておこう!/
そもそものソース原理の前提として、「やりたいことがあるけど、お金がないからできない」というのはあり得ません。ソースが世の中に生み出したいビジョンやアイデア、イニシアチブを洗練すればするほど、「クリエイティブフィールド」と呼ばれている重力場が高まり、磁場に引き寄せられるようにお金や人が自然と集まってきます。だからソースは、やりたいビジョンを研ぎ澄ませていくことが何よりも大事。多くの人は戦略を立てて人やお金を集めようとしますが、ソースの重要な役割はビジョンやイニシアチブを洗練させていくことです。

ソース原理の取り入れ方

ここからは、聞き手であるファシリテーターの丸毛(まるも)幸太郎さんとのクロストーク。ソース原理を日常に取り入れるヒントが見つかるかもしれません。

まるもさん:ソースに該当する人の特徴って、どういったものが挙げられますか?

ファシリテーターのまるもさん。SMDの企画コーディネートを務めています。この日は息子さんと一緒に参加!

嘉村さん:聞かざるを得ないからその人の話を聞くのではなく、その人が話すと方向性が見えてくるとか、自然と耳を傾けるような人って、周りにいませんか?それは基本的にソースであることが多いと思います。例えばプロジェクトベースでいくと、一番はじめの一歩を踏み出している人。よく上司で権力争いになっていたり、AさんとBさんどっちも影響力あるけど、二人が言ってることが対極で、どっちのことを聞けばいいのかわからないことってあったりしますよね。その場合はプロジェクトの時系列を遡って、どの瞬間から始まったのか、誰が一歩を踏み出したのかを見てみると、ソース原理的には説明がつきます。これはAさんがソース役だな、Bさんはサブソースだな、とか。そうすると、組織の迷走は解きほぐすことができます。

まるもさん:嘉村さん的に、ソースが大事にすべきことは何でしょうか?

嘉村さん:ソースがやるべきことは、「ソースコンパス」というものにまとめられています。この図を見てください。上下左右のコンパスに、キーワードが書かれていますね。

嘉村さん:
左には、常に悩みの中に居続けること(DOUBT)
右には、それを明確にし続けること(CLARITY)
上には、自分の内側に問いかけて洗練させていくこと(TOP DOWN)
下には、みんなが感じてることに耳を傾けながら探求していくこと(BOTTOM UP)
が書かれています。
これら4つを繰り返していくことがより良いとされているのですが、特に自分が大事にしているのが「TOP DOWN」です。一般的にトップダウンと聞くと、上位下達のスタイルを思い浮かべる人が多いと思いますが、ソース原理の場合でいう「TOP DOWN」とは、ビジョンやプロセスを「一人で」研ぎ澄ませていくことです。日々ソースは、経営マネジメントなどの業務に追われていることが多いと思いますが、隙間時間をつくって「本当は何をすべきなのか」「どこへ向かうべきか」「どうやってかたちにするか」を探求することが大事。でもそれを一人だけでやっていると、盲点にはまったり、仲間を置いてけぼりにしがちなので、仲間の声に耳を澄ましていくことも同時に大切です。

まるもさん:ソースがサブソースを任命すると、結局、上下関係やヒエラルキーが生まれてしまうのではないでしょうか?

嘉村さん:うまくいってるプロジェクトは、わざわざサブソースを任命しなくても、自然とサブソースが生まれます。サブソースとなる候補者が出てきそうな場面では、こんなふうに進行するとうまくいくと思います。

1.サブソース候補の個人的なビジョンを明らかにする(その人はどんな人生を歩みたいと思っているのか?)
2.ソースのビジョンや、その背景にある物語を語る(抽象的な概念ではなく、ソースの生の声や感情を表に出す)
3.サブソースが参加するか、参加しないかを決断する(サブソースの個人的なビジョンと、ソースのビジョンが共鳴するかどうかが大事。ビジョンが合わないなと思った時は、きちんと断ること!)

さいごに

嘉村さん:「ソース」は湧水のメタファでもあるんです。山から湧いて流れていく、石にぶつかると堰き止められる。でも、こんこんと湧き続けている限りは、大きく迂回しながらも地平線のかなたへどこまでも流れていく。大事なのは、水が湧き続けていることなんです。こうやってソース原理の話をしていると、「ソースは経営者のことであって、自分は関係ない」と思うかもしれないのですが、これは経営者に限った話ではありません。誰でも、自分の人生のビジョンや物語がある。あなたの湧水を、より豊かに、どこまでも流れ続けていくために、ぜひソース原理を活用してください。ぜひ原著を手に取って、ソース原理の奥深さを味わっていただきたいです。

○嘉村さんの関連書籍はこちらから

主催
公益財団法人 都市活力研究所

レポート文・西道紗恵


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