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本を通してお互いを知る 『本屋さんのダイアナ』(柚木麻子)

きょうはいちにち暇を持て余す日。

というわけで、ぜいたくに近所の純喫茶をはしごして、モーニングとランチをいただくという豪遊を決め込んできました。

ランチでいただいたカレー

家から歩いて5分の範囲に、昔ながらの喫茶店が5軒ほどあります。
こういうところは、この街に住んでいてよかったなと思うところです。


喫茶店に居座って、読んだのは『本屋さんのダイアナ』。

父親を知らず、派手な髪の毛とその珍しい名前から、クラスでもどこか浮いた存在の「ダイアナ」。
一方で、見た目よし性格よし育ちよしの優等生で、誰からも一目置かれる彩子。

正反対の二人が本を通じて仲を深めていくお話なのですが、ふとしたきっかけで二人の関係には亀裂が入ってしまい、作中ではそこから10年間、会話を交わすことはありません。

それでも、かつて幼いころの二人に勇気をくれた本の世界が、様々な困難に見舞われ時に道を踏み外していくふたりを、ぐっと支えてくれるのです。

わたし自身、先月からすっかり柚木ワールドにはまって色々読み漁っているのですが、この『本屋さんのダイアナ』は、ことさらに人間の弱さ・醜さを受け入れ、強さに変えていくというストーリーを色濃く感じました。

境遇のまったくちがう二人は、関係が疎遠になって以降、お互いに支え合うようなことはありません。
それでも、かつて共有した世界を通じて、同じように逆境をはねのけ、それぞれが、自分が自分であることを許していくようになるのです。


さて、本の感想とはまったく別の話になってしまうのですが、この本を読むよう薦めてくれたのはマッチングアプリでメッセージのやり取りをした女性です。
実際に会ったことはありませんし、今後会うのかどうかもわかりません。

お互いの本名も、誕生日も、どんな人生を送って来てどんな出来事に悲しむのかも、まったく知りません。

でも、その人がいいなと思った本を自分でも読んでみると、自然とそのひととなりが見えてくるような気がします。
特に、登場人物の弱さの描写を読んでいると、その人の持つ弱さもそういう感じなのかな、と急に親しみがわいてきます。
自分が弱みをなかなか打ち明けられない性格だからこそ、なおさらに。

ある本を好きだということ。
それは、面と向かっては言いづらい自分の弱さや汚さを、物語に包んでそっと打ち明けてくれる、実に素敵なカミングアウトなのではないかと、そんなことを思ったのでした。

とはいえなかなか、まだ会ったこともない相手に「綿矢りさの描く独占と加虐に共感を禁じ得ません」なんて口が裂けても言えないですけどね。

おわり。


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