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【短編小説】藻屑

 宇宙船が予定軌道を外れ、通信も途絶えた。
 私一人が宇宙で路頭に迷うこと1カ月。
 
 私はまだSOSボタンを押さずにいた。
 
 押せばすぐに救助隊が迎えに来てくれるだろう。
 だが、すぐに押してしまっては、私のプライドや沽券に関わる。
 何を隠そう、私は新たな星を開発する、宇宙開拓本部長を拝命しているのだ。
 
 非常事態でも冷静に対処したという証が必要だ。
 
 食料が尽きて1週間。
 限界に近づいている。
 そろそろいいだろう。

 水分は浄化した自分の尿を飲んでいるから、まだ死にはしない。
 これで、やるだけやったと、堂々と帰れる。
 誰にも文句は言わせない。
 
 体裁は保たれたのだ。
 
 満を持して、私はSOSボタンを押した。
 

 壊れていた。 


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