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不確実性が高い状況でも、少しでも何か動いて道を開ける─「キャリア台帳」0→1の開発ストーリー

2024年2月8日、SmartHRは最新の従業員情報を1か所で確認できるタレントマネジメントの新しいプロダクト「キャリア台帳」をリリースしました。当初、2024年5月予定だったリリース時期を、約3か月前倒しした本プロジェクト。0→1のリアルな開発ストーリーを、担当したPMM、PM、プロダクトデザイナーの3名がお話しします!


登場人物の紹介

インタビュイー3名の写真。左からプロダクトデザイナーの小木曽さん、PMMの里井さん、PMの村中さん

小木曽 槙一/プロダクトデザイナー(写真左)
ウェブ制作会社のデザイナー・エンジニアから、事業会社のデザインエンジニアを経て、2020年にSmartHRにプロダクトデザイナーとして入社。基本機能の開発設計を経て「従業員サーベイ」「配置シミュレーション」の開発設計に携わる。Code+Designな働き方や関わり方が好き。

里井 惇志/PMM(写真中央)

京都大学卒業後、大手メーカーに入社し、調達業務に従事。その後、ITベンチャー企業に入社。プロダクトマーケティングマネージャーとして自社製品の企画・開発・利用促進施策の推進等を経験。2022年にSmartHRへ入社し「配置シミュレーション」「組織図」「カスタム社員名簿」の企画・開発を担当。

村中 裕貴/PM(写真右)
新卒でスマホゲームの企業に入社し、エンジニアとして働くなかで徐々にPM的な役割も担う。2社目の企業にはPMとして入社。社内の価値観を大切する姿勢や透明性ある文化に共感し、SmartHRに入社。

春|理想のイメージを共有する「夢モック」


─まずはどんなプロセスで開発が進んだのか、順を追って聞かせてください。

里井:開発プロセスは、どんなプロダクトを作るか企画する「企画検討フェーズ」、組み込む機能を絞って開発を進める「スコープ絞り込みフェーズ」、売るために必要なサービスページや資料を作る「リリースコンテンツ準備フェーズ」の3つに大きく分けられます。

まず「企画検討フェーズ」についてお話しします。「キャリア台帳」の話があがったのは2023年3月で、当時小木曽さんと僕は「配置シミュレーション」という別のプロダクトの開発に携わっていました。その中で、従業員の異動を検討する際に一人ひとりの情報をまとめて見ることができたら便利なんじゃないか、というアイデアが出たことが企画の発端です。ユーザーヒアリングで、検索機能がほしいという声を聞いたこともあって、従業員の情報をまとめて見られて検索もできる機能を出せないかと。
そこでまず、小木曽さんに理想の画面イメージを作ってもらいました。これを僕らの中では通称「夢モック」と呼んでいます。

「夢モック」のFigma画面のキャプチャ。画面の図が3つ並んでいる。モザイクがかかっているが、複数のコンポーネントで設計させている。
「夢モック」のFigma画面(引用元:0→1フェーズにおけるプロダクトデザイナーのビジネスへの貢献方法

小木曽:実現性は一旦考えずに「こういう機能がほしい、あんな機能があったらいいな」という夢が詰まった「夢モック」です。新しいプロダクトをイメージするのにテキストで書いてもピンとこないので、仮想の画面イメージを作りました。これをお客さまに見せてヒアリングしたところ、異動を検討する時だけでなくほかにも使い道がいろいろありそうだという感触を得まして。それで「配置シミュレーション」とは別のプロダクトとして提案することにしました。

里井:4月下旬頃、社内の「事業戦略検討会(事業戦略に関する課題に対して、全社最適の視点で議論・意思決定していく場)」で夢モックを見せて提案したところかなり受けがよくて、その場で開発が決まりました。

小木曽:特に懸念点もなく、開発チームの人員も確保できて、トントン拍子で進みましたね。

里井:6月には開発チームも決まって、この頃に村中さんがPMとしてチームにジョインしました。ここまであまりにトントン拍子すぎて、この後いろいろと苦労することになるんですが……。

夏|「現実感モック」に至るまでの苦悩


苦戦したということですが、何があったのでしょうか?

村中:夢は夢で評判がよかった半面、その夢を全部実現する場合、リリースは一体何年後?という壮大なもので。夢のどこから手をつけ始めるのか、実はイメージできていませんでした。

里井:そもそも「従業員の情報を1か所でまとめて見ることができて、検索もできる」という当初想定していた機能は汎用性がものすごく高くて。何の業務で使うのかについても多種多様な場面が想定できるので、逆に固められなくなってしまったんです。

小木曽:今振り返れば、PRD(プロダクト要求仕様書)にすでに「従業員一人ひとりのことがわからない」ことが大きな課題だと書いているんですよね。解決すべき課題は最初の段階で、シンプルに答えが出ていたんです。でもこの当時は僕たちもけっこう迷っていて、何十社もユーザーヒアリングをして探っていました。

里井:他案件で過去に実施したヒアリングメモも社内で公開されていて、僕はそれをひたすら目視でチェックしていました。関係ありそうなものにタグをつけて、使われそうな業務のパターンを分類して、ピラミッドの形に配して整理していました。

会議室のホワイトボードにピラミッド図を書く里井さん
当時のピラミッド図を再現する里井さん

村中:確かお客さまの規模や業態、業種によって色分けして。

里井:そうそう。使う人を現場、人事、経営層の3つに分類して見ていました。

小木曽:こういう図を作るのって、往々にして迷っているときですよね(笑)。

里井:実はこの頃、僕ら3人とも他のプロダクトと兼任だったんですよね。キャリア台帳の進捗が滞りがちになっていて、そこで実施したのが月水金の「進捗を出さないと呪われるコーナー」。

─呪われる……?

小木曽:開発チームも交えて毎日定例ミーティングをしていたんですが、その中で週3日はなんでもいいから進捗を報告する、しないと呪われる、と決めて。「あー今日呪われましたね」「今日は呪われなくてよかったですね~」なんて言い合いながら乗り切っていました。

里井: 呪いという言葉はもちろん冗談なんですけど「呪われるからちょっとずつでもやらないとな」という気持ちになるんですよ、実際。そうやってなんとか進めていきました。

秋|実装を見据えていよいよ機能を絞り込む「現実感モック」登場


小木曽:夏の間は模索が続いたんですが、秋頃になって「現実感モック」が登場しました。欲しい機能を大盛りにした「夢モック」は理想型として持っておくとして、最初からすべてを実装するのは難しい。ではリリースに向けて落とし所をどこに定めるか、というところで「現実感モック」に着手したんです。

里井:夏に何度も「夢モック」でお客さまからヒアリングしリサーチを続けたことで、夢の頃はイメージできていなかったお客さまの業務フローの解像度が高まり、数ある夢の中でも特にニーズが高い機能は何か、料金を払っても使いたい機能は何かを絞り込めるようになってきていました。

村中:夢モックと現実感モック、並べて見ると、現実感のほうがビジュアル的にはかなり落ち着いて見えるんですよね。

ユーザーに商談時に見せていた「現実感モック」と呼んでいたプロトタイプ画面(引用元:0→1フェーズにおけるプロダクトデザイナーのビジネスへの貢献方法

ここまで機能を削ぎ落として大丈夫だろうか?と、お客さまにヒアリングするまではものすごく不安でした。でも、ヒアリングすると意外なことに、「全然これでも欲しいよ」と、夢モックからあまり変わらない反応をいただけたんです。PMとしては、これなら開発期間もかなりスリムにできると希望を持てるようになりました。

里井:わかる。実際に反応をもらうまでは、僕もずっと不安でした。ヒアリングを通して、これでいけそうだという感触をやっと掴むことができました。
そのあと印象的だったのが……10月頃、現実感モックを展開し社内向け勉強会を実施したんです。その後、社内のメンバーがお客さまに「これから提供される新プロダクト」としてキャリア台帳を紹介したところ、カスタマーサクセスからは解約阻止が、セールスからは新規受注の事例が出て。これはもう、僕の中で「いける!」と思った瞬間でした。

小木曽:あれは自信がつきましたよね。リリース前のプロダクトで成果に繋げられるとは。

真面目な表情で話す小木曽さん。黒いキャップを被っている

里井:僕自身はPMMとして企画・開発を担っていて、プロダクトに対する解像度は誰よりも高い自負があるので、お客さまと話す中で「売れる」という確信はすでに持っていました。でもこの件で、その「売れる確信」の汎用性を確認できたというか。リリース後にスケールしていくイメージを持つことができました。

小木曽:あとはリリースに向けてちゃんと開発を進めていこうという話になった、のですが、この後、冬にもう一度大きなできごとがあったんです。

冬|「もっと早く出せない?」スコープ大見直し大会


里井:もともとキャリア台帳は2024年の5月末頃にリリースする予定でした。それを、「もっと機能を削ぎ落としてリリースを早められないか」と検討する会が社内でありまして。名付けて「冬のスコープ大見直し大会」です。

小木曽:僕たちの中では、企画当初から考えていた検索機能や権限機能を充実させることで、ユーザーが喜ぶのではないか、逆にそうでないと売れないのではないかと考えて開発を進めていたんです。

里井:現実感モックで機能はかなり絞り込んでいましたからね。競合との差別化の意味でも、ユーザーのニーズから見ても、これがベストの形だとある意味思い込んでしまっていたんです。これに対して、2つの視点で指摘がありました。

1つ目は、開発コストの視点です。例えば、検索機能を付加するのに3か月かかるとして、3か月分の開発コストを機能付加によって本当に回収できるのかを考慮する必要があると。

2つ目は、お客さまの利用ステップと機能の関係性の視点です。お客さまが新しいプロダクトを導入し、さらに複数の機能を使いこなすまでにはタイムラグがあります。導入段階では最低限の必要な機能があればよくて、さらに便利にするための機能はあとから付加しても構わないわけです。「キャリア台帳」でいえば、まず導入時には従業員データが1か所で見られることが必須で、検索機能を使い始めるのはその先の時系列になります。
であれば、リリース時点ではもっと大胆にスコープを絞って早くリリースできるのではないか、という議論が出たんです。

村中:SmartHRが進める「マルチプロダクト戦略」では、新規プロダクトもこれまで以上に早期に事業貢献することが求められます。
ここまで大胆に機能を絞ることには不安もありましたが、開発コストを削減しつつ早めに提供を開始し、お客さまからフィードバックをいただいてその後の機能開発に活かせる、と考えれば納得の結論でした。

小木曽:キャリア台帳の開発チームは、経験豊富なエンジニアが多いんです。12月頭に開発の方向性が大きく変更され、リリースも5月から2月へと前倒しになったわけですが、落ち着いて柔軟に対応してくれました。

村中:そうですね。僕からは、2月にリリースするとしたらどの機能に絞るのか、どういうスケジュールで進めるかを開発チームに提案して。それをチームのみんなが考えてくれました。

インタビューに答える村中さんの写真

里井:決まってからのエンジニアの皆さんの工数の詰め方も、目を見張るものがありました。表に出てくる機能要件はもちろん、非機能要件も細かく見てくれて、既存のプロダクトからそのまま引き継いできたアイテムも本当に必要かどうか見直しをして、実装の工数を削っていってくれました。それで2月に間に合わせてくれたのだから、本当にすごいです。リリースは2月8日になりましたが、6日とか、まだまだ攻めた案でもいけたかなと思うくらいです(笑)。

プロジェクトを通じてよかったこと、きつかったこと


─1年弱のプロジェクトを振り返ってみて、いい方向に進んだポイントはどんなところですか?

里井:最初に夢モックを掲げて現実感モックへとスコープを絞り込んでいったのは、振り返ってもピカイチの進め方だったなと思います。このおかげで、キャリア台帳は先の見通しがもう立ってるんですよ。この先半年くらいまで、開発内容がある程度決まっています。

村中:機能を削ってリリースすることの怖さはあったんですが、後になってみれば、リリースも早められて、早くリリースすることでフィードバックも早く得られて、次の打ち手もしっかり考える時間がとれる。いいことしかないです。

─反対にきつかったところは?

里井:僕は現実感モックに入る前にスコープの絞り込みに迷っていた頃と、最後の冬のスコープ見直しがきつかったですね。初期リリースを早めます、その代わり機能をかなり削りますという話を社内向け勉強会でする前が「さらに機能を削って本当に売れるのか?」と一番不安でした。蓋を開けてみたら全然大丈夫だったんですけど。村中さんはどうでしたか?

村中:精神的にきつかったのは、やっぱり12月頃、現実感モックからさらに機能を削ったところですね。本当に大丈夫なのだろうかと冷静になれないところがあって。削った1時間後くらいにはすっきりしていたんですが。

小木曽:僕も冬のスコープ見直しの時ですね。僕はその議論が出たミーティングにたまたま出られなくて、どんな話が出たんだろうというと不安でした。あとはもう少し前の段階で、開発の方向性を決める会をやったんですが、それまでは目の前にもやがかかっているような状態をファシリテーションしていかなければならなかったのが不安でした。自分がコントロールできない状況や自信がないことに対面すると、やっぱり不安にはなりますね。

インタビューに答える里井さんの写真

里井:確かに。そういう時には、とにかく動いて解消していくしかないですよね。お客さまの業務がわからないからヒアリングに行く、モックを作って当てに行く、小木曽さんが進めてくれたようにわからないことは一気に集まって決める。答えがなかったり不確実性が高い状況では、計画を入念に立てることよりも、目の前のことからでも少しでも何か動いて道を開けることが大事だと思っています。

キャリア台帳の今後、そしてさらなるプロダクト開発へ


─2月のリリースを無事乗り越えたところですが、今後考えている展開についても聞かせてください。

村中:これからは、また探索していくフェーズに入りますね。キャリア台帳については先ほど里井さんが言ったように、2024年の上期はある程度開発のネクストステップが決まっています。さらにリリース後のお客さまの反応を見て、軌道修正したり新しい機能を開発していくこともあります。実際ここから答え合わせが始まるというフェーズですね。
2024年下期には、新しいプロダクトの芽を探しに行くことになりますね。また夢モックを作るところからスタートです。

小木曽:今回開発したキャリア台帳は、各アプリケーションの情報を引っ張ってきて表示するという、SmartHRのプロダクトの中でも新しい設計思想で作られています。今後はこのような横断型のプロダクトがもっと増えてくるでしょう。プロダクトデザイナーとしては、SmartHRの各プロダクトの操作感に統一性を持たせていくことが重要になってきます。他のプロジェクトともより連携して、マルチプロダクト戦略を進めていくことが大事だと考えています。

里井:今回、夢モックから発想して、事業貢献を意識しながらお客さまの課題を解決する機能を絞り込んでリリースするところまで、1周経験できました。良かった点も反省すべき点も活かして、下期からまた2周目に出ていこうと考えています。

談笑する小木曽さんと里井さんの写真

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制作協力:伊藤 宏子
撮影:@garashi(SmartHR)